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「渡世人になりませんか?」と。
 なにを唐突にという目をする平太に、
「ただの渡世人じゃありません、腕っこきでないとつとまらない渡世人飛脚です」
 と周太は悪戯を打ち明けるような笑みで言葉を重ねる。
 渡世人、飛脚――平太は聞き覚えのない単語を胸のうちでくり返した。同じく命がけの者たちとはいえ、無宿と真っ当な生業である飛脚が組み合わさっていることに違和感をおぼえる。
「もったいないじゃあありませんか」「なにがでしょうか」
 どこか持って回った言い回しを好む周太に平太は疑問の顔で応じた。
「渡世人は散々あちこちを歩き回るんです。だったら、これを有効に利用しねえ手はありません。そうでしょう?」
 周太の言葉に、平太はハッとさせられる。
 渡世人があちこちをさすらい歩き、無為に日々を過ごすのは当たり前だと思っていた。だが、そんな因習に対しそんなふうに疑問を抱き意味を見い出す、それがあまりにも意外だったのだ。
 当然とされている事柄に疑問をさしはさむ余地があるとは思ってもみなかった。
「つまり、渡世人に荷を託して飛脚代わりになさってるってことでしょうか、親分」
「そうです。渡世人に運び賃が、わたしには手数料が入るって寸法になっています。もちろん、荷物を持ち逃げされないよう、任せる相手は誰でも構わないってわけじゃありませんが」
 平太の問いかけに、よくわかったな、と褒めるような調子で周太は答える。親分は手で、脇に骸となって転がる元は侍であろう無宿を示していた。
「腕はこの通り充分です。あなたの性根なら、荷の持ち逃げもしないでしょう。渡世人飛脚には打ってつけだと思うのですが、どうでしょう? なかなか実入りはいいですよ」
 周太の言葉に、正直なところ平太は惹かれるものを感じた。思わず無言でしばらく考えてしまうほどに。だが、
「けども、飛脚とつけたところでやくざ者になることに変わりはないんでしょう、親分」
 角が立たないように平太は断わりを入れる。
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