150 / 158
162
しおりを挟む
真理を得たあとも自分ひとりの悟りによっては安定を得られず、弟子を獲得することによって自分の誇大な自己愛を支えることが可能となる。弟子にあたる人間は、天竺宗の宗門の者が当たるはずだ。傲慢なまでの自信を揺るぎない確信が余人を心服させる超人的権威の源泉だが、メルショルのような人間は奇矯なまでの万能感を膨張させることによって自信のなさと不安を抱えた人々に強烈な印象と救済者としての期待を呼び起こす。
天竺宗と識神、出会ってはならぬものが出会ってしまった――それがメルショルに対する久脩の抱いた思いだ。
「うぬ、父を識神に仕立てたともうすかっ」
「だから、さようにもうしておる」
怒気混じり久脩の問いかけに、メルショルはさらに笑みを深くした。
「なにゆえ、さような没義道な真似をいたした」
「きゃつが、慮外なことに宗門から抜けるともうしたからだ」
ふいに、メルショルの顔から笑みが消える。そして、眼が爛々とした光をたたえた。その鬼気迫る表情に久脩は思わず息を呑んだ。話に聞く物の怪(もののけ)を実際に目の当たりにした心地がした。
「切支丹を裏切り、悪魔の手先である内裏へもどるとほざきおった。ために、識神と化さしめ手前が内間として京で働くための駒とした」
「なんということ、を」
久脩は足もとがおぼつかなくなる心地に襲われる。
天竺宗と識神、出会ってはならぬものが出会ってしまった――それがメルショルに対する久脩の抱いた思いだ。
「うぬ、父を識神に仕立てたともうすかっ」
「だから、さようにもうしておる」
怒気混じり久脩の問いかけに、メルショルはさらに笑みを深くした。
「なにゆえ、さような没義道な真似をいたした」
「きゃつが、慮外なことに宗門から抜けるともうしたからだ」
ふいに、メルショルの顔から笑みが消える。そして、眼が爛々とした光をたたえた。その鬼気迫る表情に久脩は思わず息を呑んだ。話に聞く物の怪(もののけ)を実際に目の当たりにした心地がした。
「切支丹を裏切り、悪魔の手先である内裏へもどるとほざきおった。ために、識神と化さしめ手前が内間として京で働くための駒とした」
「なんということ、を」
久脩は足もとがおぼつかなくなる心地に襲われる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです
チャラ孫子―もし孫武さんがちょっとだけチャラ男だったら―
神光寺かをり
歴史・時代
チャラいインテリか。
陽キャのミリオタか。
中国・春秋時代。
歴史にその名を遺す偉大な兵法家・孫子こと孫武さんが、自らの兵法を軽ーくレクチャー!
風林火山って結局なんなの?
呉越同舟ってどういう意味?
ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ「チャラ男」な孫武さんによる、
軽薄な現代語訳「孫子の兵法」です。
※直訳ではなく、意訳な雰囲気でお送りいたしております。
※この作品は、ノベルデイズ、pixiv小説で公開中の同名作に、修正加筆を施した物です。
※この作品は、ノベルアップ+、小説家になろうでも公開しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
燃ゆる湖(うみ) ~鄱陽湖(はようこ)の戦い~
四谷軒
歴史・時代
一三六三年、中国は元末明初という群雄割拠の時代にあった。中でも、江西・湖北の陳友諒(ちんゆうりょう)の勢力は強大で、隣国の朱元璋(しゅげんしょう)は食われる運命にあるかと思われた。しかし朱元璋は詭計により陳友諒を退ける。業を煮やした陳友諒は六十万もの兵員を擁する大艦隊を繰り出す。朱元璋もまた二十万の兵を動員して艦隊を編成する。そして両雄は鄱陽湖で激突する。数で劣る朱元璋だが、彼は起死回生の火計にて陳友諒を撃破、その後朱元璋は中国を統一し、明を建国する。
(表紙画像は、「ぐったりにゃんこのホームページ」様より)
陰陽師〜安倍童子編〜
桜 晴樹
歴史・時代
平安時代に活躍した陰陽師安倍晴明様の幼少期のお話です。ほとんどオリジナルになってますけど‥。作品自体はずっっっと前に創作したものなので、途中から文面が変わります。今と前では文章が違うので読み辛くなるかもしれませんが宜しくお願いします。
第8回歴史・時代小説大賞参加中です。
宜しくお願い致します。
前回タイトルを変え忘れてしまったので大会後変更致します。
陰陽師〜安倍童子編〜を
陰陽師-平安の闇と妖-
というタイトルへ8月から変更予定です。
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる