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 真理を得たあとも自分ひとりの悟りによっては安定を得られず、弟子を獲得することによって自分の誇大な自己愛を支えることが可能となる。弟子にあたる人間は、天竺宗の宗門の者が当たるはずだ。傲慢なまでの自信を揺るぎない確信が余人を心服させる超人的権威の源泉だが、メルショルのような人間は奇矯なまでの万能感を膨張させることによって自信のなさと不安を抱えた人々に強烈な印象と救済者としての期待を呼び起こす。
 天竺宗と識神、出会ってはならぬものが出会ってしまった――それがメルショルに対する久脩の抱いた思いだ。
「うぬ、父を識神に仕立てたともうすかっ」
「だから、さようにもうしておる」
 怒気混じり久脩の問いかけに、メルショルはさらに笑みを深くした。
「なにゆえ、さような没義道な真似をいたした」
「きゃつが、慮外なことに宗門から抜けるともうしたからだ」
 ふいに、メルショルの顔から笑みが消える。そして、眼が爛々とした光をたたえた。その鬼気迫る表情に久脩は思わず息を呑んだ。話に聞く物の怪(もののけ)を実際に目の当たりにした心地がした。
「切支丹を裏切り、悪魔の手先である内裏へもどるとほざきおった。ために、識神と化さしめ手前が内間として京で働くための駒とした」
「なんということ、を」
 久脩は足もとがおぼつかなくなる心地に襲われる。
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