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識神は白兵戦をおこなうには不利な相手だ、勝機は遠戦にこそある。だが、鉄砲も弩も準備する暇はないだろう、となると使える得物は棒手裏剣や矢を手げ投げるというふうに限られた。
しかも、広純を撃った者の存在もある。久脩も、メルショルから目を離さずにいつつも火縄の火を闇の中に必死に探っていた。
見つからぬ――焦燥が雷が肌を這いまわっているような感覚をおぼえさせる。
「お父上も承知の上での仕儀か?」
「我が識神がいかがした」
時間を稼ぐ意と、重要事ということもあって久脩は言葉をかさねた。とたん、メルショルは歪んだ笑みを浮かべる。その表情はとても、肉親について語る者のそれではなかった。嘲り、侮蔑、憎悪、そういった昏(くら)い感情が入り混じり、瞳の奥で凝(こご)っている。
識神、と久脩は眉間に皺を寄せて考えた。相手のせりふの意味が理解できなかったのだ。が、それをすぐに悟り背筋に寒気をおぼえる。自分の印象が間違っていなかったことにおののいた。
書物にあった他者を暗示によって従属させることに溺れる者の典型が目の前にいる。
そういった人間は脆弱な精神構造を持ち、苦悩や病気の体験によって極限まで追いつめられそこで啓示を得るという逆転を起こすのだ。
おそらくメルショルの場合、啓示を与えるのに天竺宗が大きな役割を果たした、と久脩は頭の片隅で推測した。
しかも、広純を撃った者の存在もある。久脩も、メルショルから目を離さずにいつつも火縄の火を闇の中に必死に探っていた。
見つからぬ――焦燥が雷が肌を這いまわっているような感覚をおぼえさせる。
「お父上も承知の上での仕儀か?」
「我が識神がいかがした」
時間を稼ぐ意と、重要事ということもあって久脩は言葉をかさねた。とたん、メルショルは歪んだ笑みを浮かべる。その表情はとても、肉親について語る者のそれではなかった。嘲り、侮蔑、憎悪、そういった昏(くら)い感情が入り混じり、瞳の奥で凝(こご)っている。
識神、と久脩は眉間に皺を寄せて考えた。相手のせりふの意味が理解できなかったのだ。が、それをすぐに悟り背筋に寒気をおぼえる。自分の印象が間違っていなかったことにおののいた。
書物にあった他者を暗示によって従属させることに溺れる者の典型が目の前にいる。
そういった人間は脆弱な精神構造を持ち、苦悩や病気の体験によって極限まで追いつめられそこで啓示を得るという逆転を起こすのだ。
おそらくメルショルの場合、啓示を与えるのに天竺宗が大きな役割を果たした、と久脩は頭の片隅で推測した。
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