信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「戦が始まれば、おぬしらも他人事ではないのだぞ」
「この乱世、いずかたもさようなものであろう」
「戦を他人事と思うは、公家ぐらいなものぞ」
　次郎太の非難に、とたんに反論が飛ぶ。いちいちもっともで、次郎太は顔を歪めた。そもそも忍び働きを請け負う人間が戦が起こるからとうろたえては話にならないだろう。
「されど、無縁の戦に巻き込まれる道理もなかろう？」
「殿下（近衛前久）からは、任を投げ出さぬ限り陰陽頭の下知に従うように申付けられておる」
「そういう訳で、俺らも冷泉に一味することになる」
　またも何とか論破しようと次郎太は智嚢(ちのう)を絞るが、整然と論破されてしまう。
　そのやり取りを聞いていて自然と久脩の頬は弛んだ。敵わぬなぁ、山の民(こやつら)には
「こちを笑わせて恐れを除くとは気が利いておるな、次郎太」
「誰が冗談をもうしてございますっ」
　久脩の言葉に次郎太は目を吊り上げて主を見る。だが、それこそからかわれているのだと気付き憮然となった。
「次郎太、そちだけでも逃げよ」
　そんな彼に久脩は真剣な顔つきになって告げる。突然の言葉に、次郎太は戸惑いを露わにした。
「父子ともによう仕えてくれた。したが、こたびのことはこちの我儘に過ぎぬ。それにそちを巻き込むは忍びない」
　お主、と次郎太は声をかすれさせる。が、突然、声を高めた。
「さようなことを申されますなッ。手前にも重代の家人としての矜持がございます。主の危機を前に遁走したとあっては末代までの恥。それに、手前と若の仲ではございませぬか」
　次郎太が目を潤ませる。その様を目の当たりにして、久脩も胸が熱くなるのを感じた。

　そんな光景を尻目にしながら、広純は物思いに浸っている。