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 一瞬裡のうちに、彼が立ち上がりこちらの首に短刀の鞘を払って突きつけたのだ。
 かほどに――武功の面では目立たない者が相手のために自分が油断していたことに久脩は気づいたが遅きに失している。
「陰陽頭殿、もそっと静かな場所で話をいたそう」
 光秀は微笑を間近で向けて告げた。
 久脩は首を縦にふるしかない。冷や汗が背中をつたった。

 陣のはずれのひと気のない場所、木陰に久脩は連行される。
 陣屋を出たときに次郎太に遭遇したが、光秀の供回りが主に身振りで指示を出されるやすばやく動いてこれを足止めした。お陰で久脩は光秀とふたりきりだ。しかも、短刀を脇腹に押し当てられた状態で。
 複数の軍兵に気づかれることなく潜り抜けた手腕からいって只者ではないと痛感させられている。
「失礼した」
 が、あっさりと光秀は刃を引いた。
呆然となり、久脩は目を丸くする。そんな彼に光秀は改めて微笑を向けた。
「実はそれがしも、平安雲居の一員でござる」
「まことでございますか、日向守殿」
 光秀の告白に、久脩は気の抜けた声をもらす。
 正直なところ、ここで死ぬのだと思っていた。ために反動に襲われていたのだ。
 この乱世に公家として生きることに何の意味がある、と思ってきたがやはりいざ殺されるかもしれないという段になると震え上がるほどの感情が湧き上ってきた。
「まこともまこと」
 光秀は面白がりながら首を二度三度と小刻みにふる。
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