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「ところで、殿下は公家の御仁らを集め何やら企んでおられるようだが。あまり胡乱なことを行えば、御屋形様も捨て置けなくなりましょう、お気をつけるよう」
また、貴殿は所領の横領で困られておるとか。御屋形様はその件についても悪いようにはなさらぬであろう」
生駒は意味ありげな笑みを浮かべ声を小さくして告げた。
これを訳すと、平安雲居の存在を察知しその動きを突き止めている、そういうことだろう。
ひそかに動いているつもりが動向をつかまれていたのだ、背筋が寒くなる思いがした。ここまでだろう、と久脩は観念する。これ以上突っぱねて相手、その後ろにいる信長の機嫌を損ねればどうなるか、久脩は承諾の言葉を口にし頭を下げた。
「願いの筋、承知いたしてございます」
三
その後、久脩は洛内の一角にある寺へと小者によって案内された。
本堂では織田家の二〇代の若い家臣、菅谷長頼が待っていた。信長の馬廻の身分にある武士だ。長頼は小者が持ってきた書状に目を通し終えたのち、こちらへと視線を据えた。
「委細、承知いたした。貴殿に合力いただけること心強く思う」
齢の近さからか、どこか親しみのある態度で長頼は謝意を示す。
「こたび、問い詰めるのは雑賀衆の土豪に仕える中間、小者どもにござる」
「土豪当人を詰問し、叛意を抱かせるのを避ける了見でございますな」
長頼の言葉を先回りし、久脩はその事実を指摘した。
とたん、長頼の顔つきがわずかに変わる。ほう、と感嘆の意が表情から透けた。
また、貴殿は所領の横領で困られておるとか。御屋形様はその件についても悪いようにはなさらぬであろう」
生駒は意味ありげな笑みを浮かべ声を小さくして告げた。
これを訳すと、平安雲居の存在を察知しその動きを突き止めている、そういうことだろう。
ひそかに動いているつもりが動向をつかまれていたのだ、背筋が寒くなる思いがした。ここまでだろう、と久脩は観念する。これ以上突っぱねて相手、その後ろにいる信長の機嫌を損ねればどうなるか、久脩は承諾の言葉を口にし頭を下げた。
「願いの筋、承知いたしてございます」
三
その後、久脩は洛内の一角にある寺へと小者によって案内された。
本堂では織田家の二〇代の若い家臣、菅谷長頼が待っていた。信長の馬廻の身分にある武士だ。長頼は小者が持ってきた書状に目を通し終えたのち、こちらへと視線を据えた。
「委細、承知いたした。貴殿に合力いただけること心強く思う」
齢の近さからか、どこか親しみのある態度で長頼は謝意を示す。
「こたび、問い詰めるのは雑賀衆の土豪に仕える中間、小者どもにござる」
「土豪当人を詰問し、叛意を抱かせるのを避ける了見でございますな」
長頼の言葉を先回りし、久脩はその事実を指摘した。
とたん、長頼の顔つきがわずかに変わる。ほう、と感嘆の意が表情から透けた。
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