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 そして、彼らは脇を通り過ぎる。っ、久脩は目を見張った。薬丸自顕流(じげんりゅう)という、一説には平安の頃に端を発するという流儀の剣技が炸裂する。人間が容易く、斜めに裂けた。山刀で竹を割るような見事さだ。さらに、棒手裏剣、鉄砲の援護が彼らを支える。恐らく、忍びの総勢は百人近い。
 追いつめられているときは無限にも時間が感じられたが、識神が殲滅されるのに四半刻もかからなかった。
 血と硝煙の濃い匂い、それに無数の骸を残して戦いは幕を閉じる。
「手前は薩州島津家に仕える忍びの小頭、六左衛門ともうす。前関白様の指図で貴殿らを救いに参った」
 そういってひとりの忍びが近づいてきたところで、やっと久脩は自分が生き延びたことを実感した。転瞬、ひざから力が抜けてその場に座り込む。頭蓋の中が空っぽになってしまったように何も考えられなくなった。

 こうして、近衛前久の要請により駆けつけた島津家の忍びの合力により久脩たちは命拾いした。
 毛利元就が存命の折の毛利家ならばともかく、大抵の家中は一枚岩ではない。
 こたびの相良との調停の邪魔立てもそういった家中の思惑の不一致の結果、起こったものだった。
 そのために多くの者が死んだ。
 その後、久脩は鹿児島の城の一室で近衛前久と対面を果たす。
「大儀であった、よくぞなした」と前久は上機嫌に労った。
 対する久脩は塞いでいる。目の前の前関白とは姻戚関係にあるが、首を締め上げたい心持ちがした。
 脳裏には、山の民の子どもの声が甦っている。
 戦を終えて休憩の意味もあり、とりあず彼らの里へと久脩たちは足を運んだ。そこについてしばらくして、またも天幕を子どもが訪れたのだ。だが、こたびかけられたのは礼の言葉ではない。おっ父(とお)を返せっ、目が合うや彼は叫んだ。
『おまえのせいで、みんなが、みんなが死んだ』
 彼のまなざしは恩人を見るものではなく、紛うことなき敵に向けるものだった。
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