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「て、てめえ」それで茫然自失の状態にあった野武士たちが我に返った。とりあえず視界に入っている広純と久脩を討ち取ろうという動きを見せる。
 拙いッ、悲鳴に近い声をあげて久脩は右翼の敵に向かって突撃する。
 殺(や)らなければ殺られる――その思いが体を突き動かした。両刀を抜きながら肉薄、上段からの打ち込みを十文字に受けるや小太刀でもって相手の胴を抜く。こんな、生っ白(ちろ)い奴に、それが相手の最期の言葉となった。
 その間(かん)に、二人目、三人目、四人目を広純はまたたく間に片付ける。
 得物をふるっているというより、太刀が閃光と化して宙を駆け巡っているように見えた。それを彩るように血の赤が飛び散り吹き上がる。
 これで半数近くが倒れた計算になる。その現実を野武士たちが認識した。広純の間合いの外にいる者たちが狼狽え、戦意を喪失する。互いに顔色をうかがった。地面を擦るように足を動かしこちらから遠ざかろうとする。
 ひとりが脱兎の如く逃げ出すや、弾かれたようにそれに仲間がつづいた。
 また、斬った――やっと考える余裕ができて、久脩はそのことに思い至る。だが、今度は胃の腑に違和感をおぼえているものの吐くということはなかった。
「なかなかやるな」そんな彼に広純が称賛の言葉をかけてくる。
 短い一言だった。だが、久脩は総身が熱を帯びるほどにそれをうれしく感じる。省みられることのなかった身として、誰かに褒められるという体験は考えてみれば初めてだった。
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