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「実際、勘解由小路殿には既に動いてもらっておる」「マノエルとお呼びくだされ」
 前久の視線が脇の在昌に移動した。在昌は間髪いれずに訂正する。おお、そうであったな、と前久は別段鼻白むでもなく首肯した。
「マノエルは大友宗麟入道殿のもとにあり、影に日向に働いてもらってくる。たとえば、伴天連(バテレン)へのつなぎとなり煙硝の調達などに功がある」
 前久の明かした事実に、一同の間から感心したような声がかすかにもれる。
「力のある統領に取り入り、とにかく内裏、柳営にすこしでも益をもたらすよう働く、それが平安雲居の意義なのだ」
「さよう、都合よく行くのでありましょうや」
「それはそならさんらの働き、そして天道次第」
 疑問の声に、力のこもった声で前久は応じた。
 その人生において、織田信長や上杉謙信など日の本有数の武将に気に入られた前久だが、それも納得のいく人を惹きつける“なにか”を彼は備えていた。だが、そんな前久が久脩はどうにも鬱陶しく感じられた。
「よいか、我らの働きは陰にひそんでこそその威力を発揮する。衆生の知るところとなれば、歴代の公方様のごとく艱難辛苦を味わうこととなろう。よいか、誰にも平安雲居のことは知られてはならぬ。あくまで、害のない公家、武家をよおそうのだ」
 一転、声を低めて前久は告げる。
「一味となること、無理強いはせぬ。なれど、もし漏らしたとなれば」
「漏らしたとなれば?」
 と彼の言葉を公家のひとりがくり返した。決まっている、とどこか冷めた気分で久脩は思う。
「命はない、さように思し召され」
 前久が公家とは思えない凄みのある笑みを浮かべて一同を睥睨した。
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