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「ほら、あんたも」
 菊に求められ、
「しがない猟師をしていた。名は栄助」
 栄助は戸惑いながら言葉を発する。
「なにがしがないよ、かすかな殺気にだって反応してた侍を仕留めた凄腕じゃない」
「まあ、鉄砲の腕には自信がある」
 菊に肩をはたかれ、栄助はひとつうなずいた。
 そこで彼が気にかかったのは紹介に加わらなかった助左衛門のことだった。
 自分だって故郷を捨てるのには強い思いがあった。なら、彼も同じような経験をしたのだろうかと気になったのだ。
「助左、おまえは村を逐電するときどんなふうに感じた?」
 顔を向けてたずねると、
「もう随分を前のことだ、忘れちまったな」
 彼はとぼけた口調でこたえかぶりをふった。
「おまえもいずれ、村のことなんて忘れるさ」
「けれど、俺を頼ったってことは村のことを憶えていたのだろう?」
「お前は鉄砲の凄腕だからな」
 あくまで助左衛門は村への思いを語らずはぐらかした。
 助左――それが納得がいかなかったが栄助は重ねる言葉が見つけられず口を閉ざす。

 夕刻にたどりついたのは小ぢんまりとした宿場町だった。
 だが、こんな町にさえ賭場があるようだ。
「旦那、こっちのほうはやりますか」
 と宿を取るときに亭主が壺振りの仕草を交えて聞いてきたのだ。どうやら、いくらか金が彼の懐に転がり込んでいるようだ。栄助はこんな小さな宿場でまでと呆れていた。
「ああ、やるよ」
 猪助が快活な口調で応じる。
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