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陸奥では俘囚はありふれていた。
ために、父のもとに身を寄せていた将門は自然と俘囚の童と仲良くなった。一等仲がよかったのは吉足(よしたり)という俘囚の童だった。
一緒に木を登ったり、川で魚を捕まえたり、弓の腕を競い合ったり。
その日も、「また、明日」という言葉で別れた。
だが、思ったような“明日”はやってこなかった。
なぜなら、国府の開けた場所に吉足の父が連れてこられたからだ。事由は、「謀叛を企んだため」というものだった。俘囚のあいだでこの地をふたたび自分たちのものとし、中央からやって来た者たちは追い出すか殺す、という謀(はかりごと)が進行していたというのだ。
幼いころの将門にはことの真偽はわからない。知りようがなかった。
しかし確かなのは、父が、鎮守府将軍が吉足の父を殺すということだった。
引っ立てられた彼の側に父の姿を認め将門は駆け寄る。
「父上、是非に。どうか是非にお慈悲を」
父の傍らに立つや声を張り上げた。
「なにを慮外なことをもうしておる」
子息を見やり父は顔をしかめる。
「なんとなれば、甘い顔ばかりしておると俘囚はつけあがる。それゆえ、かような“膿み出し”は必ず入用なのだ」
義持はこれから人を殺そうというのに泰然としていた。
だが、だからこそ兵なのだ。公家のごとく穢れを恐れることなく人を手にかけることができる、だからこそ“兵”という存在は各地で急速に勢力を拡大しているのだ。公家が投げ出した武を担うことで荘園を積極的に奪うことができる。
「さ、されど、なにも命を奪わずとも罰を与えるだけでよいではありませぬか」
「それでは生ぬるい。殺すのが、見せしめとしては一番よいのだ」
見せしめ、と将門はかすれた声を出した。涙こそ溢れていないものの目頭が熱かった・
ために、父のもとに身を寄せていた将門は自然と俘囚の童と仲良くなった。一等仲がよかったのは吉足(よしたり)という俘囚の童だった。
一緒に木を登ったり、川で魚を捕まえたり、弓の腕を競い合ったり。
その日も、「また、明日」という言葉で別れた。
だが、思ったような“明日”はやってこなかった。
なぜなら、国府の開けた場所に吉足の父が連れてこられたからだ。事由は、「謀叛を企んだため」というものだった。俘囚のあいだでこの地をふたたび自分たちのものとし、中央からやって来た者たちは追い出すか殺す、という謀(はかりごと)が進行していたというのだ。
幼いころの将門にはことの真偽はわからない。知りようがなかった。
しかし確かなのは、父が、鎮守府将軍が吉足の父を殺すということだった。
引っ立てられた彼の側に父の姿を認め将門は駆け寄る。
「父上、是非に。どうか是非にお慈悲を」
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「なんとなれば、甘い顔ばかりしておると俘囚はつけあがる。それゆえ、かような“膿み出し”は必ず入用なのだ」
義持はこれから人を殺そうというのに泰然としていた。
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「さ、されど、なにも命を奪わずとも罰を与えるだけでよいではありませぬか」
「それでは生ぬるい。殺すのが、見せしめとしては一番よいのだ」
見せしめ、と将門はかすれた声を出した。涙こそ溢れていないものの目頭が熱かった・
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