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「虐げられて大人しゅうしているなど間違っておるのだ」
父の主人の道真のような惨めったらしい死に方をするぐらいなら得物を手に敵に戦いを挑むべきだ、それは偽りのない安友の心持ちだ。
「したが、余人に乗せられて肚を決めて争いに臨むのは違うと思うがな」
大食ほどではないが、近くに立った頼慶が目線をそらしながら独語めいた言葉を吐いた。
「里で一致団結して受領に立ち向かっておれば、そなたのの親兄弟も死なずに済んだやもしれぬぞ」
「それは」
一面の真理を突かれ頼慶は眉間に皺を寄せて言葉に詰まる。
「庸民から搾り取る国司受領、そやつらから寄進を受ける上達部、公庭はいかい腐っておるのだ」
代わりに大食が饒舌になって言葉を重ねた。目が炯々と光る。
「さようだ。父上の主もそれで太宰府に追いやられた」
安友は大きくうなずく。
「まさか、そなたは今さらになって怖気づいたのではないだろうな」
「さにあらず」
大食は片眉をひそめて見やるのに頼慶は首を横にふった。
「なればよい。みなに公庭に目の物見せてやろうではないか」
大食は満足げな笑みを浮かべてうなずく。だが、安友はなおも頼慶の顔を見据えつづけた。目には冷徹とした光が宿っている。
父の主人の道真のような惨めったらしい死に方をするぐらいなら得物を手に敵に戦いを挑むべきだ、それは偽りのない安友の心持ちだ。
「したが、余人に乗せられて肚を決めて争いに臨むのは違うと思うがな」
大食ほどではないが、近くに立った頼慶が目線をそらしながら独語めいた言葉を吐いた。
「里で一致団結して受領に立ち向かっておれば、そなたのの親兄弟も死なずに済んだやもしれぬぞ」
「それは」
一面の真理を突かれ頼慶は眉間に皺を寄せて言葉に詰まる。
「庸民から搾り取る国司受領、そやつらから寄進を受ける上達部、公庭はいかい腐っておるのだ」
代わりに大食が饒舌になって言葉を重ねた。目が炯々と光る。
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「まさか、そなたは今さらになって怖気づいたのではないだろうな」
「さにあらず」
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「なればよい。みなに公庭に目の物見せてやろうではないか」
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