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これでもう充分だった。庸民の、それもあまり富裕ではない家の者が弓矢の練習をしている時点で剣呑な出来事が起こるのは目に見えていた。見過ごすことに多少の抵抗をおぼえないではなかったが、密命を帯びた上だ致し方ない。
よし、戻るぞ――と思ってふり返った瞬間、息が詰まる。見えない巨漢に喉を締め上げられているような感触に襲われた。
先ほど見た童よりさらに小さな童がこちらを不思議そうに見上げていたのだ。その瞳はあまりに無垢だった。
「よいか、童や。俺のことは秘事とせよ、よいな」
将門は精一杯の作り笑いで童に告げる。だが、相手は首をかしげて承知したかどうか怪しい。だが、懇々と童を説きふせるのに時間を費やすのも危険だ、将門は童の脇をまわりこんで元来た方向へと中腰で進んでいった。頼むぞ、童――。
途中でふり返ったところ、童は宅を囲う柵をまわっていくところだった。疾く、去らねば――将門は焦燥に駆られながら里の外れへどもどる。
が、その段になっても別段、騒ぎが起こるといったことはなかった。
どうやら、
あの童、父に俺のことを吹聴しなかったようだの――。
ということになる。
そのまま将門は東海道を朋輩たちのもとへともどってきた。在信の顔を見ると自然とため息がもれる。
「どうだった」
のふが退屈だったのだろう欠伸を噛み殺しながら聞いた。
よし、戻るぞ――と思ってふり返った瞬間、息が詰まる。見えない巨漢に喉を締め上げられているような感触に襲われた。
先ほど見た童よりさらに小さな童がこちらを不思議そうに見上げていたのだ。その瞳はあまりに無垢だった。
「よいか、童や。俺のことは秘事とせよ、よいな」
将門は精一杯の作り笑いで童に告げる。だが、相手は首をかしげて承知したかどうか怪しい。だが、懇々と童を説きふせるのに時間を費やすのも危険だ、将門は童の脇をまわりこんで元来た方向へと中腰で進んでいった。頼むぞ、童――。
途中でふり返ったところ、童は宅を囲う柵をまわっていくところだった。疾く、去らねば――将門は焦燥に駆られながら里の外れへどもどる。
が、その段になっても別段、騒ぎが起こるといったことはなかった。
どうやら、
あの童、父に俺のことを吹聴しなかったようだの――。
ということになる。
そのまま将門は東海道を朋輩たちのもとへともどってきた。在信の顔を見ると自然とため息がもれる。
「どうだった」
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