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これからは

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道路を挟んで向かいの家の奥さんから電話があった。
「ご主人、うちに来ているので心配しないで。お昼まだだって言うから、うちのお父さんと一緒にご飯を食べているから」
「えー。……」
慌てて飛んで行ったら、夫はニコニコしてお昼ご飯をごちそうになっていた。そして私に
「美味しいよ。お前の作るのとは全然違うよ。料理上手な奥さんが作るこんな美味しいのを、いつも食べてるなんて、いいなあ!」
ふざけるな!と言いたかったが、懸命にこらえた。
そもそも、お風呂時なのに、どうしてこうも図々しく、よその家に上がり込みご飯まで食べているのか?そんな私の思いを察したらしく、奥さんが
「道路にはみ出した枝を、お父さんが 切ったから、その後始末を一緒にやっていたのよ」
なるほど、夫が外に出た時は、そのタイミングだったのだ。
「ご主人がほっぺたを触りながら出てきたので、歯医者さんかなと声をかけたら『女房に殴られて、出て行けって追い出されました。財布を、と思ったんですが、玄関は鍵をかけられちゃって』って……」
うーん、まあ確かにその通りなんだけれども…………(でも 満面の笑みはなるほどと納得)
どうやら夫は、どうしてこんなことになったのか、その原因を言っていないようだ。要介護3の認知症だから、原因をもう忘れてしまったのか?それともあえて伏せたのか?
夫の対面を保つべく、私も仕方がないから黙っていた。
「長年、夫婦していたら、いろんなことがありますよ」
そう言われて、一応仲良く2人で戻ってきた。
「コーヒー飲むだろう」と言って、夫はすこぶる機嫌よく豆を挽き出した。癪だが蒸し返して戦闘を再開するわけにもいかないし……。
夫は週1回 通所リハビリにも通っている。午前中なので、空腹で帰るから、すぐ食事ができるようにしている。
そんな中、私もこのところ 膝の痛みが一段と酷くなり、整形外科に連日通うようになってしまっていた。
整形外科から戻り、急いで昼食の準備をしていたところに夫が帰ってきた。リハビリパンツがおしっこでびっしょりだった。取り替える時、私の手が冷たかったらしく凄い剣幕で怒り出した。
「手ぐらい、お湯で温めてきとけばいいだろう」と言って、ビンタを食らわされた。
だから私も夫に思い切りビンタを食らわして「何様だというの 、出て行け!」と、やったのだ。
こんなこと、お互いに初めてで、まぁ、どっちもどっちだが……
しかし、これからは
"手が冷たいからね"と 一度言うだけではなく、お経を唱えるように何回も言うことと、"出て行け"は、まず私が外に出て、近くに人のいないことを確認してからだ、としみじみ思った次第である。

2023.05.28

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