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私と車と普通の人

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娘たちが私の高齢と下手な運転を心配している

次女からメールが届いた

「自動車の踏み間違い防止の件、受付開始は7月31日からとのこと。在庫と人手があれば、すぐできると思うので、問い合わせてから行ってみて」

連絡したら
「型式が古すぎて対応できない」
と申し訳なさそうに言われた。

私の車は、購入してから今年で20年。
走行距離は26000 km 。半年点検の度に「とにかく車を走らせてください」と言われ、10年目を過ぎた頃からは「せめて車庫でエンジンをかけたままにして下さい」そして今は「車検のたびにバッテリー交換するのは仕方ないと思ってください」になった。

そもそも、私は大の運動音痴。車の運転自体考えたこともなかった。それが……

もう44年も前になるが、夫がドイツに5ヶ月ほど出張した。
今振り返ると魔が差したとしか思えないが、その間に運転免許を取ろうとしたのだ。教習所に問い合わせたら
「普通の人なら4ヶ月もあれば十分取れますよ」

まさに渡りに船。
でも、ニンマリして通っていられたのは学科の時だけだった。
実地になると、先生から「まるで50過ぎの老婆並みの運動神経だ!!」と言われ続けると言う、燦々たる日々を送った。
当時は、今と違いマニュアルで、クラッチの踏み込みや戻しが上手くいかず、エンストばかり起こして走れなかったのだ。
普通に前に走れる仲間が神様のように思えたものだった。

月日の経過を恨めしく思っているうちに、夫が帰ってきてしまい、実地を見に来た。

よりによって、坂道発進の練習で悪戦苦闘の真っただ中。クラッチ、アクセル、サイドブレーキがうまく噛み合わず、何度やってもズルズル下がってしまう。

私が車から降りてやっと戻ってきた時、夫が担当の先生に「あれじゃあ、無理ですね。やめさせた方がいいですね」と、偉そうに言っているのが聞こえた


帰り道、先手必勝とばかり
「私、向いてないから車の運転やめるわ」
「ふーん。それで教習所の費用はどうしたの」
と夫。
「私のへそくりよ、すごいでしょ」
「うん。でもへそくりと言えども、元は俺の稼いだ金なんだから、途中で辞めるのなら全額きちんと返せ」


信じられなかった。
まさか、そんな言葉が返ってくるとは思ってもみなかったのだ。
なんともしみったれた了見の持ち主を好きになってしまっていたのか……と。
しかし、ほぞを噛んでも後の祭り。ならば、と奮起して5ヶ月と3週目で教習課程を修了。
私ほど、教習所に貢いだ者はいまい。全部のへそくりを注ぎ込んだのだから。

もっとも、の人の部類に入れなかっただけのことだが。
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