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171ー猪瀬
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陸様が、番解除を提案された。
俺の為だ。
俺が、陸様のヒートにつられてないで済むように。だが、そうなれば陸様はフリーのΩという事になってしまう。上位のΩがフリーなど逆玉狙いの野心家アホαのターゲットになりかねない。
京極直営の先端医療センターの予約日を貴嗣に報告をすると、
『そうか…』と、だけおっしゃった。
貴嗣様としては複雑だ。
陸様が俺の番でいるのも不快だが、フリーのΩになるのも困る、複雑な心境なのだ。処置による陸様の体の負担、貴嗣様の精神的安定、最も良いのは貴嗣様による上書きだが……望み薄だ。
番解除の治療はフェロモン免疫療法だ。通常は中程度の副作用が見られるが……番のαが上位種だと重篤な副作用が発生することも多々ある。むしろ、俺のランクを考えると陸様は確実に重篤になる。
アナフィラキシーショックに呼吸器系の合併症、心血管系の合併症、それら全てが同時に起こる可能性もある。
そして…………
想像通り、陸様の副反応は強かった。
全身に過剰な免疫反応が生じ、呼吸困難、血圧の急激な低下による意識喪失などを起こされた。
酸素供給を受けている陸様の手を握りながら涙が出そうになった。
けれど、陸様はいうのだ
『猪瀬は大丈夫か』と。
『これはお前をレイプした罰だ。猪瀬が傷つく事じゃない』
強い強いお人だ。
そしてその強さでもって、俺達に、俺達の罪深さを再認識させてくる。
貴嗣様は、宴のΩへの補償をより綿密なものにしていった。
時に心肺停止などを起こしながらも、何度目の副反応だろうか、
陸様の手を握るが、それまでと反応が違った。
今までは、意識もないままに陸様が俺のフェロモンを求めているのが伝わってきた。もっと手を握っていてほしいと、包んでくれと言っているのが伝わってきた。なのに……無反応だ。
やがて、陸様の中の俺が消えたのが分かった。
ぽっかりと、穴が空いた気がした。
ぐらりと地面が揺れる……。
「先生、猪瀬さんが…!」
暗い暗いところへと吸い込まれていく……。
目が覚めた時、俺と陸様の鎖が無くなっている事を実感した。
安堵、なのだろう。
貴嗣様への申し訳なさから解放されて気が抜けた、のだろう。
『俺の番……』
この虚無感は、ずっと掛かっていたストレスから突然無くなったから、だろう……。
「猪瀬、体調崩したって。大丈夫か?ずっと付き添いしてくれてたから疲れが出たんだよな。ありがとうな」
陸様が、俺のベッド脇でいう。ああ、そうか、俺は疲れが出たのか
「もう、猪瀬は自由だよ。悪かったな」
そう言って椅子から立ち上がる
手が勝手に動いた
「猪瀬?」
「あ、いえ。喉が……」
俺は何を。しかも言い訳が水とか……。
「うん。だから水を取りに行こうと……コーヒーの方がいいか?」
陸様がチラリと扉を見た。
「いえ……」
「今なら、迷惑料で自販機のコンプリートしてやってもいいぞ?」
ニカッと笑う陸様。
…………貴方らしい笑い方。貴方の望んだ契約解除が行われた。
もう、俺と陸様の間に鎖はない
くもりの無い笑顔に何故か胸が痛い気がした…………
俺の為だ。
俺が、陸様のヒートにつられてないで済むように。だが、そうなれば陸様はフリーのΩという事になってしまう。上位のΩがフリーなど逆玉狙いの野心家アホαのターゲットになりかねない。
京極直営の先端医療センターの予約日を貴嗣に報告をすると、
『そうか…』と、だけおっしゃった。
貴嗣様としては複雑だ。
陸様が俺の番でいるのも不快だが、フリーのΩになるのも困る、複雑な心境なのだ。処置による陸様の体の負担、貴嗣様の精神的安定、最も良いのは貴嗣様による上書きだが……望み薄だ。
番解除の治療はフェロモン免疫療法だ。通常は中程度の副作用が見られるが……番のαが上位種だと重篤な副作用が発生することも多々ある。むしろ、俺のランクを考えると陸様は確実に重篤になる。
アナフィラキシーショックに呼吸器系の合併症、心血管系の合併症、それら全てが同時に起こる可能性もある。
そして…………
想像通り、陸様の副反応は強かった。
全身に過剰な免疫反応が生じ、呼吸困難、血圧の急激な低下による意識喪失などを起こされた。
酸素供給を受けている陸様の手を握りながら涙が出そうになった。
けれど、陸様はいうのだ
『猪瀬は大丈夫か』と。
『これはお前をレイプした罰だ。猪瀬が傷つく事じゃない』
強い強いお人だ。
そしてその強さでもって、俺達に、俺達の罪深さを再認識させてくる。
貴嗣様は、宴のΩへの補償をより綿密なものにしていった。
時に心肺停止などを起こしながらも、何度目の副反応だろうか、
陸様の手を握るが、それまでと反応が違った。
今までは、意識もないままに陸様が俺のフェロモンを求めているのが伝わってきた。もっと手を握っていてほしいと、包んでくれと言っているのが伝わってきた。なのに……無反応だ。
やがて、陸様の中の俺が消えたのが分かった。
ぽっかりと、穴が空いた気がした。
ぐらりと地面が揺れる……。
「先生、猪瀬さんが…!」
暗い暗いところへと吸い込まれていく……。
目が覚めた時、俺と陸様の鎖が無くなっている事を実感した。
安堵、なのだろう。
貴嗣様への申し訳なさから解放されて気が抜けた、のだろう。
『俺の番……』
この虚無感は、ずっと掛かっていたストレスから突然無くなったから、だろう……。
「猪瀬、体調崩したって。大丈夫か?ずっと付き添いしてくれてたから疲れが出たんだよな。ありがとうな」
陸様が、俺のベッド脇でいう。ああ、そうか、俺は疲れが出たのか
「もう、猪瀬は自由だよ。悪かったな」
そう言って椅子から立ち上がる
手が勝手に動いた
「猪瀬?」
「あ、いえ。喉が……」
俺は何を。しかも言い訳が水とか……。
「うん。だから水を取りに行こうと……コーヒーの方がいいか?」
陸様がチラリと扉を見た。
「いえ……」
「今なら、迷惑料で自販機のコンプリートしてやってもいいぞ?」
ニカッと笑う陸様。
…………貴方らしい笑い方。貴方の望んだ契約解除が行われた。
もう、俺と陸様の間に鎖はない
くもりの無い笑顔に何故か胸が痛い気がした…………
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