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桜屋敷にあったもの
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私と美月ちゃんが桜屋敷に忍び込んだ日は、暖かいけど小雨が降っていた。
日曜日だけど雨が降れば人通りはぐっと無くなる。
そのスキに私達は伸び放題のツツジの間から、桜屋敷に侵入した。
雨に混じって桜の花びらが落ちていく。
桜屋敷の前のアスファルトは、まるで薄ピンク色の絨毯を広げたように花びらで埋まっていた。
生い茂った植木の間を通り抜けると、雫が私のカッパと美月ちゃんのジャンパーをびしょ濡れにした。
「すごーい。絶対なんかお宝とかあるよー」
「美月ちゃん、帰ろうよお」
「紗枝ちゃんは怖がりなんだから。ただの古い旅館でしょ」
時代劇に出てくるお屋敷みたいで、芝生はまだ枯草の色だけど植木は綺麗なお饅頭型に刈り込まれている。
――ずっと昔に潰れたのに?
足を動かせないできょろきょろする私に塗れた桜の花びらが降り注ぐ。
見上げると、桜の大木。
学校に生えているどんな桜の期より大きくて、うすピンクの雲みたいな花は電灯も無いのに光ってるみたい。
桜屋敷なんだから当たり前だ。
でもわたしには桜の木がわたし達をずっと見ている。
そんな風に思えたのだ。
固まっているわたしを尻目に美月ちゃんはずんずん建物の方に向かっていく。
庭に面したガラス戸はスッと開いた。
カギはかかっていなかった。
美月ちゃんが叫んだ。
「紗枝ちゃん! 見てよ!」
教室を二つ繋げた広さの部屋。
旅館をやってた頃は、たくさんの人が集まる宴会場だったんだろう。
敷かれた畳、その上に。
一枚の畳にはバッグとお財布が10個くらい積み上げられていた。
形も大きさも違うけどみんなピカピカした革製品。
お母さんが売ってしまった大切なバッグにみたいな奴だった。
もう一枚の畳には、発売されたばかりのゲーム機とゲームソフト。
コントローラーのコードがとぐろを巻いた蛇みたいに見えた。
その横の畳にはその頃人気だったマンガの単行本が全巻セットで並べられている。
べつの畳にはカラフルな洋服。
異様だった。
畳一枚一枚に小さな山を作って種類別におもちゃや服、アクセサリーや家電が置かれている。
――ヤクザが麻薬の取引を・・・
大声で叫びそうになった。
部屋の奥のフスマが開いて、怖い人が出てきたら?
「美月ちゃん、帰ろうよ!」
さっきと同じセリフを私はもっと大きな声で言った。
「すっごい! これ発売されたばっかの奴! こっちのは十万はするのに!」
「きっとやくざとか、ドロボーとか悪い人のだよ!」
「だいじょうぶだよ! 紗枝ちゃん」
にっと美月ちゃんは笑った。
「一個くらいなら大丈夫だって」
日曜日だけど雨が降れば人通りはぐっと無くなる。
そのスキに私達は伸び放題のツツジの間から、桜屋敷に侵入した。
雨に混じって桜の花びらが落ちていく。
桜屋敷の前のアスファルトは、まるで薄ピンク色の絨毯を広げたように花びらで埋まっていた。
生い茂った植木の間を通り抜けると、雫が私のカッパと美月ちゃんのジャンパーをびしょ濡れにした。
「すごーい。絶対なんかお宝とかあるよー」
「美月ちゃん、帰ろうよお」
「紗枝ちゃんは怖がりなんだから。ただの古い旅館でしょ」
時代劇に出てくるお屋敷みたいで、芝生はまだ枯草の色だけど植木は綺麗なお饅頭型に刈り込まれている。
――ずっと昔に潰れたのに?
足を動かせないできょろきょろする私に塗れた桜の花びらが降り注ぐ。
見上げると、桜の大木。
学校に生えているどんな桜の期より大きくて、うすピンクの雲みたいな花は電灯も無いのに光ってるみたい。
桜屋敷なんだから当たり前だ。
でもわたしには桜の木がわたし達をずっと見ている。
そんな風に思えたのだ。
固まっているわたしを尻目に美月ちゃんはずんずん建物の方に向かっていく。
庭に面したガラス戸はスッと開いた。
カギはかかっていなかった。
美月ちゃんが叫んだ。
「紗枝ちゃん! 見てよ!」
教室を二つ繋げた広さの部屋。
旅館をやってた頃は、たくさんの人が集まる宴会場だったんだろう。
敷かれた畳、その上に。
一枚の畳にはバッグとお財布が10個くらい積み上げられていた。
形も大きさも違うけどみんなピカピカした革製品。
お母さんが売ってしまった大切なバッグにみたいな奴だった。
もう一枚の畳には、発売されたばかりのゲーム機とゲームソフト。
コントローラーのコードがとぐろを巻いた蛇みたいに見えた。
その横の畳にはその頃人気だったマンガの単行本が全巻セットで並べられている。
べつの畳にはカラフルな洋服。
異様だった。
畳一枚一枚に小さな山を作って種類別におもちゃや服、アクセサリーや家電が置かれている。
――ヤクザが麻薬の取引を・・・
大声で叫びそうになった。
部屋の奥のフスマが開いて、怖い人が出てきたら?
「美月ちゃん、帰ろうよ!」
さっきと同じセリフを私はもっと大きな声で言った。
「すっごい! これ発売されたばっかの奴! こっちのは十万はするのに!」
「きっとやくざとか、ドロボーとか悪い人のだよ!」
「だいじょうぶだよ! 紗枝ちゃん」
にっと美月ちゃんは笑った。
「一個くらいなら大丈夫だって」
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