僕たちは正義の味方

八洲博士

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 文化祭を明日に控えた金曜日。いつもなら朝から授業があるのだけど、今日は一日文化祭の準備に充てられている。さすがに学校の公式行事なだけの事はあるね。明日が一般公開の予行演習とするならば、始めから終わりまでを確認したい。机上の設計を実現させる設営の時間が一日あるのは実にありがたい。
 摸擬喫茶や縁日などで使うテーブルや椅子は普段私達が使っている物を流用したりしているので使わない分はバックヤードに積み上げることになる。当然ロッカーや机の中の私物は自宅に持ち帰り、カラにしておくようにと徹底されている。机は移動で中身がこぼれるかもだし、荷物の詰まったロッカーを動かすなんて、いやだよね皆。辞書とか教科書の類いは意外に重いしロッカーに取手なんてついてないのだ。そんなものを無理に運ぶなんて事故の元、ケガの元、である。
 お昼をまわって大まかな設置が終わったようで掛け声とかは聞かれなくなったが。活気が無くなる事はなく人の動きは増えていた。飾り付けがさみしい、あるいは足らないとか。
階段の壁や踊り場にクラスの出し物を宣伝するポスターを貼ったりとか。
怪我とは縁遠い軽作業に移行したことで、生徒会としてもひと安心といったところだ。
件のクラスの文化祭委員が現れたのはそんな空気の中だった。
いろいろとお世話になったので感謝の気持ちとお礼の一言を・・・なんて想像を見事に
裏切り、横溝君(いい加減、名前を憶えた)はクレームをつけにきたのだ。
「すべり台の工作は終わったけれど抵抗値とかが高くて全然滑らない。あれじゃぁただの傾斜だ。材料に竹をと言い出したのは君達なんだから。責任取って、すべり台を完成させて欲しい」
正論のごとくカスハラ発言を展開する横溝君を先頭に皆で移動する。現物をまずは見ないことにはね。反論も助言もできないよ。

現場では大方の作業が終わったにもかかわらず、かなりの竹が余っていて。すべり台に隣接したジャングルジムに竹を追加しようか、などと相談が聞こえてくる。
ああ。やめたほうがいいよ、君たち。それ以上目が細かくなると大人はもちろん、中学生でも身体が閊えるから。小学校低学年専用とか立体迷路にするなら話は別だけど。ちゃんと通過できるコースを作るんだよ。

ふうむ、竹を直角に交えてすべり台と支える柱を構成して。空いた隙間にも竹をはめ込み滑らかに傾斜面を作ったことは評価するんだけど。傾斜がなだらか過ぎる。まあ、高さが取れない分滑走面の傾斜がおとなしくなるのは仕方ないか。加速がつくような傾斜にすると滑走距離が短くなり、面白くなさそうになるので。すべり落ちるが落っこちる様になるのか。
ケガ人が出そうだな、却下だ。
 「当初はローラーの様に回る鉄パイプを隙間なく並べる予定だったんだけど。竹じゃ予想したほど、滑らない・・・」
 「どうやって鉄パイプを回るように設置するつもりだったんだ?」
 「そこは皆の知恵を集めればと、思っていたんだけど・・・」
 肝心のアイデアが他人任せなところを次郎ちゃんに突っ込まれて横溝君のトーンが下る。
やれやれと見切りをつけた次郎ちゃん。
 「コロをかますか。すべり台の幅より少しだけ短い竹を下から敷き詰めておいて。一緒に滑り落ちれば加速はつくと思う」
 陸に上げた船など重たい物を人力で動かす時、丸太の上を転がしたあの手法か。
 竹は有り余っているので、さっそく試してみる。実験体は発案者の次郎ちゃんだ。
 がっしゃゃぁぁーん。
 思いの外ついた勢いのままに、竹ごと壁に激突する次郎ちゃん。
 「思ったより勢いがつくけど、これなら面白いんじゃね」
 ちょっと待って。
 「待って、確認よ。壁に激突したように見えたんですけど。体は何ともないの」
 「あれくらい、大したことない。大丈夫」
 いやー、ダメでしょ。誰もが君程体を鍛えてるわけじゃないんだから。私の問いにケロリと答える次郎ちゃんだけど。大丈夫、の基準が間違っているよ、それ。
 「小学生や幼稚園児が滑るかもしれないのに。滑りだしたらコントロールできないなんて危険すぎる、却下」
 私のダメ出しに悟君がすぐさま代案を出す。
 「割った竹で○型か□型の枠を作って。下部にそりの刃みたいに竹を付ければ。接触面が少ない分摩擦も少ないよ。前後にロープを付けて、前から引っ張れば加速がつきやすいし。後のロープで加減すればコントロールもできる。滑り終った枠の回収にも使える。内張りにダンボールを使えば手足がはみ出すこともないだろうし。あとは、子供向けに手すりでもつければ・・・。うん、こんなもんかな」
 「じゃあ、その線で」
 ごく自然に、場を仕切る横溝君。まあ、私たち生徒会は事故を未然に防げて、よし。なのだけれど。縁の下の力持ち、なポジションはなかなか疲れるわ。
 
 後は大したトラブルもなくリハーサルは終わり、文化祭は無事故で終わった。当然だけど校内の見回りはスポーツ・チャンバラ部に全面的にお任せした。今回はちゃんと部員がいるのだからね。もちろん、新撰組風の羽織に鉢巻きというスタイルは変えさせない。発案者として自信と誇りを持って伝統をつくって欲しい。頑張りたまえ。
 例の滑り台は思ったよりも好評を博したらしい。滑る利用者のリクエストに応えて加速度を調整したら苦情が出なかったとか。まあ、それはいいんだが。客引きが少々過激だったようだ。次郎ちゃんが滑った、アレである。敷き詰めた竹のコロごと滑り落ちるやつ。壁の前にクッションがわりのダンボール箱を並べ、自転車用のヘルメットをつけさせて。希望者に
ケガをしても自己責任で訴えたりしないと念書を書かせる。
 何でこんな手の込んだことをしたかといえば。竹同士のぶつかり合う大きな音が派手な
客引きになったのだという。友達同士とか一緒に来た女性に見栄を張ったりとか。とにかく男性の人気が高かったようだ。男はいつでも童心に帰れるらしい。迷路風ジャングルジムは小さな子供に人気だった。小柄な女生徒がジャージ姿で救出係として控えていたのだが。
コースに迷った子供達は下に降りて床の上を這って自力で脱出してきたそうだ。小さな子供は変に見栄を張らないものだ。盲点だったとは製作者の談である。

 今年の文化祭も多少のトラブルはあったけど無事に終わった。うん、無事故が一番だ。
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