僕たちは正義の味方

八洲博士

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 「いやあ、まいった」
 そうこぼした私の顔は、多分苦笑いをしているに違いない。
 次郎ちゃんに剣道の素質、才能があると見込んだ女子剣道部のメンバーは彼が高校に進学してからも剣道が続けられるようにと知恵を絞った結果。解決策のひとつである界皇学園への入学を実現させた。
 まあ、主に頑張ったのは私だけどね。
 なんだかんだとこじつけて、家庭教師役を買って出て彼の学力アップと維持に係わったのは私だけだ。ここはもう、しっかりと言い切っても良いところだと思う。
 まずは次郎ちゃんをスポーツ特待生として入学させる、これが最優先の課題だったのだ。この課題をクリアした後の問題。男子剣道部が、まだ出来ていなかった。優先順位としては間違っていない。榊次郎が入学していないのなら、男子剣道部の存在なんてどうでもよい事なのだから。
 私たちが女子剣道部を立ち上げた時も、全国大会で優勝という使命が課せられた。というか自分達で出来ますよー、と大見栄を切ったのだけど。あの時は思うような練習ができなくて精神的にも追い詰められたなぁ。いつか、ではなく今年の全国大会でという条件がついていたから。
 次郎ちゃんの時も同じだ。実質一人だけの剣道部でも体裁だけ整えて、個人戦に参加さえ出来れば。彼なら優勝旗を持ち帰ってくれるだろうと思い込んでしまった。学園側としても同じ考えなのだろう、スポーツ特待生としての入学を認めたのだから。
 問題は彼の練習相手たる人物が男子剣道部にいないことだ。お互いに、部としての体裁を整えるために部員を共有しあったスポーツ・チャンバラ部はもとより、協力者の悟君や潮君も剣道は初心者だ。全国大会で優勝を狙う次郎ちゃんの練習相手をさせる訳にはいかないし。取りあえず、女子剣道部に出稽古の形をとったのだけど。さすがは男子というべきか、先輩にスタミナお化けと言わしめた体力は健在で、むしろパワーアップしてるかも。相手を務めた舞ちゃん陽子ちゃんをへばらせて、先輩達を圧倒していた。ついでに一年女子をまとめて
ビビらせてるし。まあ普段の、のほほんとした雰囲気からすれば豹変と言ってもいい羅刹っぷりだったけど。このままだと一年女子のトラウマになるよなあ、なんて私の心配は杞憂で終わった。ほんとならここは喜ぶところなんだけど。
 剣道の防具をつけたまま、エアーソフト剣を持った次郎ちゃんはスポーツ・チャンバラ部の輪に加わってしまった。潮 次善君、土方 悟君に続いて三人目。男子剣道部の全員が、スポーツ・チャンバラ部の輪に加わってしまったのだ。
 なんてこったい、と呆れて嘆く私にも届いた次郎ちゃんの言葉。
 「防具もこのままでいい。ただ自分では分かりづらいから有効打が決まったら教えてくれると助かる」
 彼としては特訓のつもりらしい。よかったよ、剣道からスポーツ・チャンバラに乗り換えたとかじゃなくて。
 どうやら攻撃力を上げる練習が難しいので防御力、というか回避力を上げる練習に切り替えたようだ。つまりはアレだ。
 「どんな攻撃も当たらなければ、どうということはない」というやつだ。
 最初は面白がっていたスポーツ・チャンバラ部の部員達もエアーソフト剣を躱され続けて
躍起になって攻撃している。対する次郎ちゃんも竹刀以上に素早い攻撃を避けるのに必死になっている。攻める方も避ける方も、真面目にやっているんだけど。そばで見ていて連想するのはジャッ○―・チェンのカンフー映画だ。笑う拳とか蛇の拳とか。身をくねらせたり、仰け反ったりと。とにかく動きがコミカルなのだ。
 先程まで怯えていた一年生の女子達もクスクス笑いながら次郎ちゃんの避け芸?に集中している。
 「こらこら君たち、今は部活の時間だよー」
 上っ面な注意をする私も最初からガン見してるんだから、締まらないことこの上ない。
 まあ、この時はこれでよかったんだけど。積極的なサポートが出来ないまま二か月近くも放置状態が続いているのが現在の問題だ。放置が流行っているのはブラウザゲームの中だけで十分なのに。ただ次郎ちゃんの練習相手が務まる人材なんて、そう簡単に見つかるものじゃない。探す対象が界皇学園の一年男子限定とくれば難易度の高さに納得してもらえると思う、うん。いわゆる無理ゲーだ。
 一方男子達も時間を無駄にしていたわけじゃない。スポーツ・チャンバラ部が主催となる「榊次郎から一本取るぞ チャレンジ大会」がほぼ毎日行われ、次郎ちゃんの回避技術を
日々磨いていったのだった。おまけの効果というのかな。この特訓に付き合ったスポーツ・チャンバラ部の部員達は筋力やスタミナが軒並み向上したそうな。ゲーム感覚の本人達は、自覚していないかもだけど。あれだけ躍起になっていれば上達もするでしょうに。
 来年は化けるかもしれないね、スポーツ・チャンバラ部は。部として存続していればの話だけど。とはいえ、ここまで頑張りを見せつけられるとまとめて応援してもいいかなくらいの気持ちは湧いてくる。男子剣道部とスポーツ・チャンバラ部。それぞれ目標は違うのだけど、今は協力してやるぜ、なノリの、戦友状態とでも言えるのか。
 「次の試練にも負けるなよ、君たち」
 一人静かにエールを送る私だった。
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