僕たちは正義の味方

八洲博士

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 いろいろと悩みたかったけど時間がない。私は悟君の件を次郎ちゃんに伝えることにした。黙っていたところで二人は試験会場で並んで座るかもしれないのだ。これから試験というタイミングでそんなショックを与えるなんて選択肢は選べない。もちろん前日とか前々日なども避けたい。精神的衝撃から立ち直るには時間が必要なのだ。
 やりたくはない、けど仕方ない。固めた決意を悟られないよう、さりげなく話題を振る。
 「次郎ちゃんは悟君の志望校って聞いてる?」
 なんだろう、何気ない問いかけなのに、胸がどきどきしてきた。そういえば次郎ちゃん、併願じゃなくて私立一本なんだよね。「その方が気合も入るでしょ」なんて彼のお母さんは笑っていたけど。私も次郎ちゃんの合格は疑っていない。必ず入学できる。ただ特待生の件を前面に出して説得したからねぇ。免除になるはずだった学費等諸々が普通の学生と同じく掛かるとなると・・・。待てよ、もし秀才な子が百人集まって全科目で満点を取った場合はどうなるんだろう。同点一位で百人全員が学費免除になったりするのかな。その場合スポーツ特待生の枠はどうなるんだろう。全科目満点の子が百人いたら次郎ちゃんは当然圏外だ。
不安のせいか、良くないパターンがどんどん頭の中にわいてくるよ。あううぅ・・・。
 「悟君の志望校?界皇学園って聞いたよ」
 まばたきする間にグルグルと考えを巡らせた私に対してこともなげに答える次郎ちゃん。ちょっと待て、それ誰から聞いた!
 「えっ、それ誰から聞いたの?」
 「ん?悟君本人からだよ」
 「で、次郎ちゃんはそれでいいの?」
 「いいの、って聞かれても。悟君の志望校だし。僕が口出しすることじゃないよ。僕らがいつまで同じクラスになれるか試したいなんて言われた時には少し照れたけど。里紗ねえの話から界皇学園の設備が豪華なことも知ってるし。彼の目当ては界皇学園の本、だと思う」
 「いやいや、そこじゃなくて。学費とか免除になる、特待生の話。入学試験の点数で上位三位までっていうアレ。悟君は君のライバルにもなるんだよ」
 なんだろう。思った以上に展開が急で、頭が追いつかない。思い浮かんだ事がそのままで質問になってる。この言葉は使いたくなかった、なんて口に出してから気付いても遅いよね。
 「アレか。確かに悟君なら特待生を狙えるよね」
 「悟君はそれでいいけど。次郎ちゃんはどうするのよ」
 「僕が狙うのはスポーツ特待生だから。試験の点数で上から数えて百番以内に入ればいい話だったよね」
 あ、あれ。おかしいな。黙っていた、隠していたはずのことが意外に正しく伝わっているぞ。情報源は、悟君か。
 「それは、悟君から聞いたの・・・」
 「まあね。でも願書にも書いてあったよ。「だから頑張りましょう」って」
 いやいや。私の時にはそんなの書いてなかったよって、そうか。去年と今年は違うということか。これまで以上に素質のある生徒を、界皇学園は求めているということなんだろう。
 次郎ちゃんの将来に気を配る私や先輩達でも今年の受験生用の願書の中身までは盲点だったね。普通、毎年新しく作り直すものじゃないよ、入学願書なんて。
 確か、先輩達の時は特待生の記載なんかなくて、担任の先生から口頭で伝えられたはず。
 私たちの時は最終ページの空いたスペースに追加告知って感じで特待生についての説明があったんだっけ。
 今回の願書では学園の設備等の紹介に続いて特待生の説明があるけど。確かに、中学在校中にスポーツ分野で目覚しい成果や記録を残せた合格者のうち、上位一〇〇位以内の三名に特待生の申請が出来ます。頑張りましょう。という記載がある。これを見ると次郎ちゃんのライバルが大挙しそうだけど。この願書の発売日は十月ごろじゃなかったっけ。受験生が
願書を手にしてこの記載に気づいても各種大会には間に合わないと思うけど。特に心配は、要らないね。今年だけは。
 気になるのは次郎ちゃんの心証の方だよね。私の言い分と願書の記載が食い違っていて。当然、願書の記載が正しいのだけど。すぐにばれるようなウソだけど、彼のためになるからと次郎ちゃんをだまし続けてきたのだ。でもあんなにはっきりと特待生について明記されていると分かれば。また別な説明ができたと思う。少なくとも、これが原因で嫌われるかも、なんて不安を抱えることはなかったのに。彼から食い違いの追及がなかったことが逆に気になる。
 ついでのついで、を装っておそるおそる聞いてみた。
 「そういえば次郎ちゃん。上位一〇〇位に入ればスポーツ特待生にはなれるのに、なんで上位三位以内なんて厳しい条件を突きつけたのか。気にならなかったの」
 「上位三位入りを目指すより上から百番目を狙う方が難しいって悟君も言ってたよ。最悪、余力を残しながらの失格になるって。まあ、いろいろやらかした理沙ねえだから、今度も
勘違いなのかなと」
 「ちょっと待て。あなたに嫌われるかもと気を揉みながらウソをついてたのに。勘違いとか、気安く決めつけないでよ。だいたい、何時、私がやらかしたって」
 「家庭教師に来て、寝落ちとか」
 「うっ・・・」
 「志村さんの治療で打ち合わせもなしに二人をウチに連れて来たりとか」
 「あれは、まあ・・・」
 「理沙ねえのケガを治すときだって・・・」
 「まだあったっけ・・・。もう降参だわ、次郎ちゃんが気にしないなら。それでいいよ」
 「僕のためを思ってのことだと分かっているしね。腹を立てるのも違うと思うから」

 

 いろいろと重なった私の気苦労に報いるように、次郎ちゃんも悟君も特待生の地位を獲得してくれた。万一の時には次郎ちゃんのお母さんに土下座を覚悟していた私は肩の荷が下りた気分だ。もちろん強要なんてされてない。私が密かに、そんな覚悟をしていたというだけの話だ。四月からはあの二人が再び後輩になるのかと思うとどこか浮かれた気分になる。
 うむ。万事、順調だ。
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