僕たちは正義の味方

八洲博士

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 「入学案内書類」
私立の学校なら新入生向けの説明会で配られるパンフレットの類いで、入学する場合のメリットが書かれているものだ。いや公立の高校でも、生徒に選ばれるために「うちの学校のいいところ」を列挙した冊子があるのかもしれない。
公立の小中学校は学区が決まっているので、地元の児童、生徒は自動的に地域の学校に入学してくるけれど。高校からは自分の学力に合わせた学校を自分で選べるので新入生を確保したければ選ばれる努力が、学校側にも必要になってくる。
新しくて清潔な校舎、広々としたグランド。豊富なメニューを誇る学生食堂。
女子生徒向けに、スカート丈の短い、かわいい制服なども。そこに釣られてしまう男子生徒がいるのはご愛敬か。
 生徒の数が学校の運営に影響する可能性がある私立高校では「入学案内書類」
にも力が入るというものだ。
 文武両道を成立させる教育を目指す界皇学園ではその辺りも考慮した「入学案内書類」を作ったはずだったが。新しい教室や実験器具、設備などに比べると、
広々とした無人のグランドや大きさが分かりづらいプールの写真はインパクトに欠けていたらしい。学力重視の新たな進学校が生まれたと受験生に誤認されたまま、今に至っている。
 文化部系の活動に比べて運動部系の活動が振るわない理由であり原因だった。
 在学中に活躍してくれる運動部を待ち望んでいた学園によって、あっさりと女子剣道部は誕生する。本来は生徒会の承認が必要なのだが、総会を待っていると大会参加の受付期間に間に合わなくなる可能性もある。学園側も出来立ての剣道部が大会で優勝するという話題性に惹かれていたのだ。

 学園指定のジャージに着替えてひたすら走る、走る、走る。気をつけてはいたけれど、やはり受験生という立場では運動量が減る。合格する自信はあったんだけど、特待生を狙うとなるとね。後輩達のようには部活にのめりこめなかった。
 先輩達も他の部、バレーやバスケットの試合に助っ人で参加したりはしていたけれど、やはり体が鈍ったようで。防具も竹刀もない現状では手軽な全身運動ということでランニングをしまくったよ。
 バレーやバスケットの女子部員からは何かまた、新しい運動部が出来たらしいと歓迎の視線を浴びた。まあ、走ってばかりだったから陸上部と勘違いされてるかもだけど。

 運動することに体が馴染んだところで防具が揃った。
 喜々として素振りをこなし、いざ打ち合い稽古になったのだが。
 妙にみんなの動きが固い。
 「どうしたの、みんな。何か動きが固いよ」
 「うーん、防具ってこんなに蒸れたっけ」
 「特に面、というか頭が・・・」
 まあ、防具だからねえ。面は正面からなら風通しはいいけど。ファンが付いてるわけじゃないので自動で換気されることはない。感覚としてはスクーターとかに乗る時被る、フルフェイスのヘルメットが近いかも。ただスクーターで走れば風が吹き付けるのでひどく蒸れたりはしないと思うけど。その点剣道では風が欲しかったなら自分で動くしかないからね。頭に手拭いを巻いているので通気性もよくない。
 高校受験のために部活を引退した舞ちゃん達は半年以上防具をつけていないことになるし、先輩達なんて一年以上だからね。防具をつけないことに慣れてしまったんだろう。
 私は受験勉強のストレス発散になるからと剣道教室を続けていたので、面に熱がこもっても、あまり気にならない。次郎ちゃんを相手にそんな余裕はないし。
 みんなにも、また慣れてもらうしかないね。梅雨になれば湿度が上がるし夏になれば気温も上がる。大会があるのも夏なのだ。これは慣れてもらうしかない。
一度経験したことなのだから。

 などと、楽観的に考えていたら想定外のトラブルが発生してしまった。
 いや、トラブル扱いは流石に失礼だけど。
 生徒会のお仕事が始まったのだ。
 
 正確には学校行事の正常な運行、になるんだろう。スケジュール的には文化祭、
体育祭、合唱祭と続くんだけど。この三つが二学期に集中しているのだ。
 まあ、体育祭は特別な練習があるわけでもなく、合唱祭も学年別クラス対抗で順位を競いはするけど。外から人を招くような行事じゃない。
 問題は文化祭だ。生徒の家族や友人、近隣の住民も入場可能、とはいえ。去年はさほど盛り上がらなかった。仕方ないよね。一学年、六クラスしかいないのだから。運動部、文化部の参加も出来るのだけど。圧倒的に生徒の数が足りないのだから、まともな開催とは言いづらい状態になった。
 しかし今年の生徒数は去年の倍になる。運動部、文化部ともに人員が厚くなり出来る事が増えている。さらに言えば来年は全学年がそろうのだ。人数は去年の三倍だ。そんな状況に、ぶっつけ本番は厳し過ぎるので、ステップアップというか徐々にハードルを上げていこうという話になったのだという。流石先生方。
 出し物の定番はお化け屋敷や模擬店の縁日(ヨーヨー釣りや射的など縁日の屋台の再現)、喫茶店、バザーあるいはフリーマーケット、クラス総出での寸劇。真面目なところでは地域の伝承、歴史を研究した展示など。後は演劇部の演劇、軽音楽部の演奏、落語研究部の公演などなど。
 学園側で貸し出す備品の調達は学園でしてくれるが生徒会も立ち会う。当然、各クラスへの貸し出しにもだよ。各クラスの実行委員は自分のクラスの進捗を促すのが役目なので生徒会を手伝うまでは期待できない。
 各クラスおよび参加団体には活動資金の一万円が交付される。何に使ってもいいわけではないのでその監査も生徒会の仕事だ。
 夏休み中にも生徒会の用事で何度か登校するようだね、これじゃあ。
 剣道部の練習もしたいのに時間とれるかな。
 全国大会で優勝しなきゃいけないんだよね、私たち。そう宣言しちゃったし。
 女子剣道部の全員が生徒会の役員をしているのであとを任せて抜け出すこともできないよ。
 私に限って言えば、次郎ちゃんの家庭教師の件もある。
 「想像しただけで燃え尽きそうだよ、私」
 みんなも異論はないようで、私のつぶやきはスルーされちゃった。
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