僕たちは正義の味方

八洲博士

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 三学期は短い。それはカレンダーを見ればすぐに理解出来ること、なんだけど。二学期が終わる時は師走の末、慌ただしくも賑やかな雰囲気が自然と皆の気分を盛り上げていく。クリスマスのプレゼントはコレ!と決めつけるようなテレビのコマーシャル。ケーキやおせち料理の注文はコチラへ、などなど。
そして年が変わり、いつもと違う、お笑いの特別番組が新聞のテレビ欄を埋め尽くす。駅伝が始まると父さんは画面に釘付けだし。
 年賀状のやりとりも、まあ、学生のマナーみたいなもので。休みに入る前に
お互いの住所を聞いたり聞かれたり。そうして作った年賀状を郵便局が決めた期日までに赤いポストに投函するのも年越しの準備だった。万が一、貰った相手に賀状を書いてなかったりすると、あわてて返事を出すことになる。
 白々しくも元旦と書いて。まあお約束、というやつだ。
 宿題も観察記録なんて時間のかかるものはなくお約束の書初めとか腰を据えて取り掛かるものが多い。
 頑張って体重増加は防いだつもり、だが。緩んだ心に体が付き合ったのか動きが鈍ったのはしかたない。大人だってお餅やおせち料理を食べ過ぎたりでベルトの穴がずれたと狼狽えるくらいなのだから。
 新学期が始まってもお正月気分というのはなかなか抜けない。
 「舞ちゃんに陽子ちゃん、久しぶり。二人とも変わりない?」
 「「うっ・・・ん、まあね。里紗ちゃんは変わりない?」」
 「うっ・・・ん、まあね。ははは」
 人間、完璧を求めてはいけないこともある。二人のウエストまわりの増加も
許容範囲に収まったようだ。もちろん私も。
 天気予報で何度か聞く、この冬最低の冷え込みという言葉にウンザリしながらも雪が降るとか積もるという話になると妙に期待してしまう、そんな季節も過ぎていき。三年生は卒業式の練習を始める。
 小学校で、さんざん練習したとはいえ一度きりの晴れ舞台だ。来賓や後輩達の注目を浴びるなか練習不足が原因で緊張し黒歴史を刻んだとあっては、後々までの恨みを買いかねない。しくじったのでもうワンテイク、が出来ない以上必要な配慮なのかもしれない。
 三年生のリハーサルの内、何回かは在校生である私たちも参加した。卒業式の主役はもちろん卒業生だが、在校生に役割が無いわけではない。主役はミスなく演じたのに、送り出す在校生が式を台無しにしてはやはり恨みを買いかねない。
これは彼らの卒業式なのだから。
 何度かのリハーサルの後に迎えた、卒業式の当日を私たちは淡々と過ごす。
 私たちが特別に薄情という訳ではない。単に親近感が薄かっただけ、だ。
 どこかで似たような話を聞いた気もするが剣道部の存続を危ぶんだ先輩の内
三年生は予想外に集まった新入部員に喜んだものの、その人数の多さに正直持て余すところが多かった。女子部員に至っては論外である。甘やかすのも良くないが、わざわざ怖がられようとは思わない。その加減が難しいようだった。
 二年生は直接、指導する機会が多いので人数が倍近い一年生に敵愾心を燃え上がらせることになる。お前ら、なめるなよ、と。
 その結果が山下事件だった。
 事件後まもなく女子剣道部が結成されたこともあり、二年生の先輩である男子部員から振るわれた暴力行為で出来た溝を、受験を控えて引退した三年生達は埋めることが出来なかったということだ。
 私たち一年生女子にしても始まったばかりの中学校生活なのにイレギュラーや問題発生の新展開で振り回されていて三年生に気遣う余裕がなかったのだ。
 だから次の卒業式、日向さん達先輩のときにはもっと感傷的になるはずだ。
きっと。もしかしたら泣いちゃうかもしれないね、女の子だから。

 一方、同じようなタイミングで行われた小学校での卒業式ではある出来事があったらしい。
 卒業式そのものは何の問題もなく終わったのだが。
 卒業生である次郎ちゃんに在校生の雫ちゃんが抱き着いて、泣きじゃくったらしい。
 参加した父兄や児童、果ては来賓の方々の前で、周りの人目もはばからない涙の抱擁の幼くも熱烈なカップルに吹き寄せる生暖かい風と送られる視線で竜巻が起きそうだったとは悟君の感想だ。さすが悟君、表現が普通じゃない。

 「で、冗談はさておき。どおいう状況だったのか。もう少し詳しく教えて欲しいな、私としては」 
 苦笑いをした悟君は、腕を組んでその時の記憶を振り返り始めた。
 「卒業式が終わったあと、みんな校庭で記念撮影を始めたんだ。クラス全体でまとまって、っていうやつじゃなく。それぞれがバラバラに。せっかく着飾ったことだし、小学校に来ることはもうないかもしれないからね。そこに雫ちゃんが現れたのさ」
 ひと息ついて悟君が続ける。
 「気づいた時には、すぐそばにいたんだ。その時にはもう泣いていたかもしれない。そのまま次郎ちゃんに抱き着いて泣いてて。どうしていいか、わからなかったんだろうけどあそこまで狼狽えた彼を見たことはなかったね」
 「なんでまた、雫ちゃんがそんな行動を?」
 得体の知れない不安を感じつつも、目の前にいる悟君を問い詰めずにはいられない。
 眉を寄せながら、悟君は答えた。
 「寂しかった、のかもしれない。神様から力を貰った僕たちは体力不足を実感して、まずトレーニングを始めたんだけど。一番年下の雫ちゃんには厳しかったのかもしれない。僕でもきつかったからね」
 そのことは覚えてる。私もそれほど余裕があったわけじゃない。
 「そしてオヤジ狩りとの対決が始まった。奴らと渡り合えるのは、里紗ねえと勇吾にぃだけで。僕らはあまり力になれなかった。でも次郎ちゃんのアイデアで活躍の場が出来たんだ」
 うん、それは覚えてる。勇吾と私、二人での力押しだけじゃマズイと思っていた。悟君たちのサポートが入って、戦いに余裕が出来たっけ。
 私たちが戦うことで、逆にオヤジ狩りの注目を集めて、奴らが集結するようになった。パトロールをしていた私たちには夜間外出禁止が言い渡される。普通に考えたらあぶないもんね。
 「剣道教室に通い始めた里紗ねぇはわからなかったろうけど、僕たちは何かを持て余していたんだ。不完全燃焼というか、忙し過ぎたのに、急に暇になって調子が狂うというか」
 私と次郎ちゃんは剣道教室で色々とあったけど、みんなはそうだったのかな。
 「それがちょうど勇吾にぃと里紗ねぇの進学したころさ。次郎ちゃんも中学校にかなりの期待をしているし、僕もつられてワクワクしてる。みんなが楽しそうな所に集まっているのに雫ちゃんが自分だけ小学校に取り残されてると考えてもおかしくないと思う」
 ふうん、そんなもん、かな。確かに一人だけ仲間はずれになれば寂しい、とは思うよね。悟君の推測に納得の私だった。
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