僕たちは正義の味方

八洲博士

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 「さあて、そろそろ出発の時間だけども、勇吾にぃ、大丈夫?」
 「んうぉ、俺はいつでもだいじょぶだ、ぞ」
 疲れを引きずった返事を返す勇吾にぃの顔は気持ち、やつれて見える。燃え尽き症候群なんて言葉を連想させる小学校六年生とはいかがなものかと考えてみるけどなかなか頭が回らない。妹の雫ちゃんはちょっとうつろなまなざしで虚空を見つめている。よく子供は風の子とか言うけど疲れを知らない体ってわけじゃない。体が疲れ切れば心も重くなる。
 「売り出し中のアイドル候補のプライベート・タイム」なんて言葉が浮かんできたけど口に出す元気がない。勇吾にぃがいうには家の中ではいつものように
明るかったというから、お母さんの静さんを心配させないように気を使っていたのかな。
 「くっ・・・雫・・・恐ろしい子・・・・」またまたそんなセリフが浮かんできたけれど。一体どこでそんな言い回しを見たんだろう?たぶんマンガ、かな。そしてやっぱり、口に出すには元気が足らなかった。ただ頭に浮かんでくるだけ。これも疲労なのかな。
 里紗ねぇも無口ではあるが疲労は軽いのか。木刀ならぬ鉄刀は重たいのに振り回す本人はその重さを感じない、というのは反則技な気もするが。正直ちょっとうらやましい。だからこそそのアイデアを僕なりに真似させてもらったけど。
 僕はというと、疲れて気分は重いけど、体は動かせる。なぜかそんな気がする。
食べると元気が出る不思議な草を知っているとか実は押すと疲れが取れるツボを知っているとかではないので。一応、はっきりと言っておく。

 先週の話、僕たちはパトロール中、一週間ぶりにオヤジ狩りと遭遇したんだ。一回目と違うことは創意工夫の時間が取れたことで余裕ができた。ぶっつけ本番で戦った感想は力不足。里紗ねぇと勇吾にぃ以外は大人を相手に正面からぶつかるだけの力がない。でも証拠隠滅騒ぎの時にいろいろな力の使い方があることに気がつくことができた。カタナの形で振り回すだけが能じゃない、まるで魔法のような使い方に。悟君と宿題しながらの、軽口からでたアイデアだけど。これが予想以上に、使えたのだ。正攻法では出番のなかった悟君と雫ちゃんだけど今や二人だけでもオヤジ狩りを拘束できてしまうようになった。手間も精神的な負担も大幅に減らしたこの必勝パターンは勇吾にぃが手放しで(主に雫ちゃんを)ほめるものだった。
 そこまではよかったのだけど・・・・。
 オヤジ狩り逮捕の件が記事になり、テレビでも取り上げられてからというもの、パトロールの度にオヤジ狩りと遭遇するようになった。毎日というか毎晩というか、とにかく連日だ。昨日なんかはひどいことに、酔っ払いのおじさんが襲われる前に僕たちが絡まれた。前を歩いていた大人達を駆け足で追い抜いたところで声をかけられたのだ。
 「おい!待て、お前ら」
 別に無視してもよかったのだが、突然の大声に驚いた雫ちゃんが足を止めてしまった。みんなで駆け戻って彼女を守るように囲む。
 「なんだぁ?ただのガキかぁ?・・・いや、まてよ・・」
 最初に声を掛けた男は驚いた後になにか考え込んでいる。
 「お、女の子?こ、こんな時間にき、きみたちみたいな子供が出歩いちゃ、いけないんだな。うへへへ、なんでい、いけないか、ちゃんとおしえるのが。ぐぅへへへ・・・大人と、しての義務、なんだな」
 戸惑う男の前に別の奴が割り込んでくる。鍛えたようには見えないが服がはち切れそうな体をしている。昨日テレビで見た映画のボス、マシュマロのオバケみたいだ。あれはあれで不気味だったけど、コレはまた別な意味で気持ち悪い。
 「あーっ、またかよ。いい加減、病気だな。まあいい。このガキ、シメるぞ」
 男達が特殊警棒を構える。なんだろう、特殊警棒はオヤジ狩りの標準装備なのか。能がないというか個性がないというか。とはいえ、槍とか太刀とか持ち歩いたら目立って仕方ないか。つまらないことを考えていたら、不気味男が懐から黒くて細長い箱を取り出す。その先端には小さく電流の光が見えた。テレビドラマでたまに見ることがあったけどスタンガンの実物を見ることになるとは。
 「オシオキの、じかんかなぁー」
 ニタリと笑う男の、ひと際気持ち悪い雄叫びに、女の子たちが反応する。
 里紗ねぇが殺気立ち。
 雫ちゃんが冷気を迸らせる。
 実体化した冷水がスタンガンごと男の体を包み込む。
 「が、ガッ、ごおふ・・・」
 武器がスタンガンという一番の脅威だった不気味男は一番目に排除された。
自分で用意したスタンガンに感電した不気味男は片言の悲鳴を上げて崩れ落ちる。その足元に広がる冷水の膜はオヤジ狩り全員の足を捉えていた。数秒後、仲間の電撃でオヤジ狩りは一人残らず行動不能になった。暴走気味な雫ちゃんの力技だった。倒れ伏した強盗犯が逃げられないように手足の部分だけコンクリートを軟化させる悟君だったが里紗ねぇが鉄刀を叩き付けて強盗の手足をコンクリートの沼に沈めていく。オヤジ狩りとは言え、コンクリートの沼で溺死することがないようにと繊細な力加減をした悟君の気配りを台無しにする、ちょっと残念な里紗ねぇだった。
 人間疲れてくると怒りやすくなったり細かな作業を雑に片付けようとしたりする。ああいう変態じみた、いや、変態そのものか。に対して生理的嫌悪感が警報を鳴らすというのは悪い事とはいえない。見た目は無力な少女なのだからと襲いかかるほうが悪い。
 うすうす感じる、というよりは確信のレベルで今夜も僕たちはオヤジ狩りに遭遇するだろう。新聞の記事を見ても分かるのだが、同じ犯罪行為をしているが横のつながりはないようだ。なのに奴らは僕たちを捜して戦いを挑んでくる。
 完璧に、逆恨みだよねぇ。なにをムキになってるんだか。
 昨夜の戦いで里紗ねぇや雫ちゃんのストレスは多少発散されたかもしれないが、積み重なった疲労感は別の話だ。体調も万全とは程遠い。でもなあ、僕たちが行かなかった場合オヤジ狩りの被害者が増えるのは見過ごせない。
 見習い?正義の味方としては奴らに背中を見せる時は奴らを倒し切った時だけにしたい。
 だから、僕たちはいかなくちゃ。
 街灯の光に加え、月も夜道を照らしてくれる。
 さあ、今夜も走ろうか。
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