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1学期編 ~期末試験~

第50話

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 蒼雪たちが3人での相棒申請を終えると、そのまま3人で帰ることにした。帰る道中で響真と皐月の2人とすれ違い、2人は顔を赤くしていたので何も言わず見送った。蒼雪は響真がもう行動を起こしてうまくいったということを察し、千春と瑞希も呼び出した相手が誰でどういう用件だったのかを察した様子だった。

 家に着くと、まずは3人で話し合って瑞希の荷物を取りに行くということと部屋をどうするかということを決めた。幸いなことに、この家には使っていない部屋が1つだけあり、2階の余っている現在は倉庫のように扱われている部屋を使うことにした。

 その部屋に置いていたものをどうするかということは多少揉めたが、地下の窓がある方の部屋に押し込めることにした。ずっと放置していては替えの布団や毛布もほこりをかぶったり傷んだりしないかということで蒼雪が責任をもって地下室の換気などもすることは約束させられた。


「それじゃあ私と瑞希で寮においてある瑞希の荷物を取ってくるわ。」
「わかった。さすがに俺がそこに近づくのはどうかと思うが、重くて大変なものがあるなら夜にでも取りに行くから言ってくれ。」
「ありがとう。でも、多分大丈夫だよ。私もいろいろ必要なものは買ったりしたけど、そこまで重い物は買っていないし、部屋に最初からあるものを使っていたからね。」
「そうか。まあぁ何かあれば言ってくれ。俺は2人が出てるうちに適当に何か食べてから荷物を移動させておく。明日、明後日は休みだから時間もあるからゆっくりやっていこう。」


 蒼雪がそう告げると、2人も頷いて行動に移し始めた。蒼雪も帰る途中のコンビニで買ってきた弁当を温めて食べ始めた。蒼雪が温めるのとほぼ千春と瑞希は適当に大きな袋やカバンを用意して家を出て寮へと向かった。

(さて、2人がいないうちに重いものから移動を済ませてしまわないとな。まずは布団からか…。)

 蒼雪は2階から地下へと布団を抱えて往復を始めた。1人で抱えるにしても季節が季節なだけに余計に蒸し暑く感じてしまい、額からは汗がこぼれていた。

 数時間ほどかけて布団や毛布、その他の荷物を移動させ終えると、蒼雪は休憩をしていた。

(さすがに1人で何往復もしていると疲れるな…。千春と瑞希はまだかかるのだろうか? だが、荷物は一通り運び終えたし俺の今できることはもうないか。明日は瑞希の物を買いに行かないと部屋には何もないし、明日も忙しくなりそうだ。)


 蒼雪はそんなことを考えながら1人リビングでコーヒーを飲んで一息をついていた。


 しばらくして、蒼雪は未だに帰ってこない千春と瑞希がどれくらいかかるのか気になり始めた。現在は18時になり、まだ外は明るいと言っても日は沈み始めており、夕飯も必要なら作り始めないといけないからだ。

そこで蒼雪は待っていてもいつ帰ってくるのかわからないので電話をかけることにした。電話は数コールするとつながった。

「もしもし?」
「もしもし、どうかしたのかしら?」
「あとどれくらいかかるのかと思ってな。そろそろ夕飯の支度も始めないといけないだろう?」
「もうそんな時間になっていたのね。こちらの片付けも時間はかかってしまったけれど、あとは瑞希と話し込んでいたせいで遅くなってしまっていたわ。ごめんなさい。」
「特別何かあったわけでないならいい。それより、時間がまだかかりそうなら夕飯の用意はもう少し後でもいいのか?」
「そうね…。もう少し後で、1時間したころからでもいいかもしれないわ。それに今日のメニューから考えて木綿をゆでる時間を考えると私たちが帰ってからでも間に合うからゆっくりでもいいわ。あまりに遅くなりそうだったら1人で食べてていいわ。私たちも適当に食べてくようにするから。瑞希もさすがに今日いきなり引っ越すとは思っていなかったせいで荷物をまとめ切れていないの。買ったものを梱包したりカバンに入れているだけでも時間はかかってしまって…。」
「ゆっくりでいい。持ってくる途中で損壊させてしまう方がもったいないだろう?」
「ええ、そうね。またこちらも帰る頃に連絡を入れるわ。」
「わかった。」


 千春との通話を終えて、蒼雪は手持ち無沙汰になったのでそのままリビングでニュースを見ていた。ニュースから天気予報や本島の状況を聞き時間を潰していたが、それでもまだ帰りの連絡はなかった。そして、部屋に戻り期末試験で受けた試験問題などを整理していると、千春からメッセージが届いた。


千春:ごめんなさい。まだ時間はかかりそうなので1人で夕飯をお願いします。もう少しすれば帰れるかもしれませんが時間を具体的にすることはできそうにありません。
蒼雪:わかった。気を付けて帰ってきてくれ。


 蒼雪は短く返事をしたが既読が付かなかったので予想しているよりも忙しいのだろう。蒼雪は端末を持ち近くのコンビニに夕飯を買いに出かけた。1人で夕飯を食べるならわざわざ食材を消費させずに手軽に済ませた方が楽だったからだ。


 蒼雪が近くのコンビニまで歩いて移動をしていると、道中で見知った人たちとすれ違った。


「よう。2人で引っ越し作業か?」
「こんばんは。まさにそのとおりよ。」
「よう、さっきぶりだな。俺たちも相棒の申請をしてきて、荷物をまとめ終えたからこうして引っ越し中だ。」
「そうか。お前たちは荷物が少ないんだな。」


 蒼雪がすれ違ったのは響真と皐月の2人組だった。彼らは両手に大きなカバンを持っており、暑い道中を大変そうにしていた。

「これが少なく見えるのか?」
「いや、俺のもう1人の相棒の引っ越し作業を千春が手伝っているというがまだ終わらないようでな。」
「は?もう1人? 白崎だけじゃなくなったのか?」
「それは私の親友のことでいいのかしら?」
「そうだ。」
「そう、それなら何も言うことはないわ。」

 皐月はそういうと口元を綻ばせていた。響真は千春の他にもう1人相棒が増えたと知って驚いているようだった。

「お前たちの家はどのあたりにしたんだ?」
「ああ、それならここからもうすぐのところだ。蒼雪たちのところよりも学園寄りだな。」

 響真は荷物を置いた手で指をさしながら方向を教えてくれた。位置関係的には確かに蒼雪たちお家の近所とはいえるが、学園寄りで正悟たちの家とも近いが蒼雪たちの家程近くはないという立地だった。

「今度招待してあげるから瑞希と千春も一緒に来てちょうだい。いろいろとお話ししないといけないことがありそうだわ。」
「こちらが落ち着いたらその正体に応じたいと思う。」

 蒼雪は皐月とそんな約束をしてから響真と皐月と別れた。皐月と響真の様子を後ろから蒼雪が見ても2人は互いに意識しているところがまだあるのか平静を装っていても夕日のせだと誤魔化せないような赤みを帯びた耳をしていた。

(あの2人ならうまくいきそうなペアだな。)

 蒼雪はそんなことを思いながら2人を見送った。


 蒼雪がコンビニで弁当を3人分回買いえると、千春から帰る道中で連絡がきた。

 内容としてはようやく荷物がまとめ終えたのでそろそろ帰るとのことだった。蒼雪はそれについて了解の旨を送り、適当に弁当も買っておいたと伝えると2人から感謝を告げられた。


 連絡を取り終えると、蒼雪は荷物を取りに行くか聞いたが大丈夫だというのでそのまま2人を迎えに行くこともなく帰宅をした。
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