俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ

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1学期編 ~期末試験~

第33話

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「蒼雪君はそのみどりさんのことが好きだった?」
「…ああ。おそらくな。だがあれが好きという気持ちだったのかは今でもわからない。だから俺は好意に気が付けない。それを自分がもっているのかもわからない。俺はあの日に翠を失ってから時が止まったかのように心が成長していない、そんな気がしている。」
「そっか…。」

 瑞希はそう呟くと下を向き、蒼雪に抱き着いてきた。そして、

「ありがとう。話してくれて。」
 
 そういって泣いていた。彼女は蒼雪の気持ちを代弁するかのように涙を流した。蒼雪は突然のことで驚いたが、泣いている彼女をそのままにすることはできないと思い、無言で彼女の髪を撫でていた。




「あはは、ごめんね。急に泣いちゃって。」
「いや、大丈夫だ。」

数分ほどして瑞希は泣き止むと蒼雪から離れてそう言ってきた。


「蒼雪君は今でも後悔しているの?」
「…後悔?」
「うん。だって翠さんを失ってしまったことに深い悲しみを覚えて、自分の無力さを嘆いてそうなったんだよね?」

 蒼雪は瑞希からそう指摘されて自分がどう思っていたのか、それに気づかされることとなった。今までは自分の無力さに失ってしまった怒りという感情しか抱いていないと思ったが、第三者から見ると後悔していると思われるような行動だった。


 蒼雪は自分にある感情は怒りのみでそれ以外は後付けされた表面上の感情しかないと思い込んでいた。後悔や悲しみといった感情は理解していないと思っていたのだが、彼女の指摘によりこれが後悔ということか、と気づかされた。

「そうだな。俺は後悔しているのかもしれない。これだけの力を有していながら彼女を守ることができなかったかことに。」
「そっか。じゃあ、今度は大切なものを守れるようにしないとね。」
「ああ、そうだな。」

 蒼雪と瑞希は互いの目を見て、そう言った。



「さて、俺のことについては話したが、瑞希はどうする?」
「私?」
「さっきは話したいって言ってただろう?」
「ああ、うん、そ、そうだね。」

 瑞希はそういうと緊張したような面持ちで蒼雪を見ていた。蒼雪は瑞希が急にそのような反応をしたのでこれから話すことは何事かと、身構えてしまった。


「はぁ~、ふぅ~! よしっ!」

 瑞希は深く深呼吸をしてから自分を鼓舞するかのように声を出した。そして、


「新庄蒼雪君、私と相棒を組んでください。」


 瑞希はそう蒼雪に告げてきた。


 蒼雪はいきなりこのようなことを言われてしまい、動揺を隠せなかった。

(どういうことだ? いや、そもそも俺には千春がいる。しかし、複数人で組んでもいいと言われている。だが、違うクラスでもいいのか?)

 蒼雪は唐突なことで思考が乱れて焦っていた。普段の彼ならこのようなことはなかったのかもしれないが、今は自身の過去について打ち明け、それについて自分が乗り越えねばならないことについても考えていたので他の人のことについて考えることができていなかった。蒼雪は気持ちを打ち明けられるのではないか、という予想はしており、その時は千春と同じ返答をすればよいと思っていたのだが、相棒を組むというこの学園の制度についての申し入れをされる可能性は低いと何も考えていなかった。

 また、蒼雪自身は気が付いていなかったが、思考が乱れてしまったときに考えたことはすでに瑞希の提案を受け入れたことを前提にしていたのだ。蒼雪はまず何を言うべきか、と口を開いては閉じてを繰り返していると、


「急なことだとは思っているけど、今しかタイミングはないと思ったんだ。私もね、千春と同じように蒼雪君のこと好きだよ。だけど、さっきの話を聞いて思ったんだ。あ、翠さんには敵わないんだなって。
 まだお互いのことを知らないときに気持ちを伝えても断られるか、返事を先延ばしにされちゃいそうならまずはお互いを知る時間を作ろうかなって思ったんだ。だから蒼雪君と相棒を組みたい。
 もちろん、受け入れるかどうかは千春と相談していいよ。私と彼女の気持ちのどちらの好きって気持ちが大きいかはわからないけど負けてはいないと思うんだ。」
 
 瑞希はそう言って微笑みかけてきた。蒼雪はまずは返事をする前に自分の思考を整えようとした。そして瑞希の言うとおり、1人で考えるのではなく、千春とも相談をしないといけないことだと気づき、そうすべきだと考えたが、それを聞く前に確認したいことがあった。


「相棒の話は一度保留にしてくれ。先程瑞希自身が言ったように千春と相談しないと決めることができない話だ。それと、これはできれば聞かせてほしいのだが、どうして俺のことを? 先程の話から俺のことを以前から知っているというが、この島に来てからもそうだったのか?」

 蒼雪は相手の気持ちを考えるならこのように瑞希の気持ちを疑うような質問をするべきではないと思ったのだが、聞かずにはいられなかった。


「うん、そうだよ。私はあの時からずっと、あの男の子のこと、蒼雪君が好きだよ。あの時の私もそうだけど、私が困っているときにそばにいてくれる私の王子様みたいな存在だからね。それに、蒼雪君は確かに仲良くなったりして君の内側に入り込まないと感じられないけど、傍にいると安心するんだ。とっても居心地がよくて抜け出せなくなっちゃうんじゃないかって思っちゃうほど。そんな蒼雪君の力になりたい。今ではそうも思っているよ。」

 瑞希は思っていることをそのまま話した。変に言葉を使って伝わりにくくするならまっすぐに伝えたいと、そう考えているようだ。瑞希は千春と違って恥ずかしがることなく自分の気持ちを直接に伝えてくるので目をそらすことができなかった。

「そうか…。瑞希のような女に想ってもらえて俺は幸せ者なのだろう。確かに今の俺には気持ちに応えることはできない。それは瑞希のことが好きではないのではなく、そういう感情がわからないからだ。だから、千春に伝えたことと同様に俺は気持ちがわかれば正直に伝えたいと思う。」
「…わかった。今はそれで我慢してあげる。」
「すまないな。だが、俺よりもいい男がいたらそっちに行っていいのだからな? こんな決めることができないようなやつよりももっと…」
「そんなことはないよ。」

 瑞希は蒼雪の言葉を遮りながらそう言ってきた。

「私が何年名前も知らない、あの時会っただけの男の子を好きだったと思う? そんな簡単に気持ちが変わるようなものじゃないからね。」
「すまん。これは俺の失言だった。」

 蒼雪は瑞希の気持ちを否定するかのような自己的な発言だったことを謝った。1日、会ったその日の間しか一緒にいなかった彼のことを想い続けていた瑞希の気持ちは本物かもしれなく、この島で再会してからも想い続けていた彼女の気持ちはそんな簡単に変化するものではないのだ

「ううん、私の気持ちが伝わったならいいよ。それよりも、このあとはどうしよっか?」

 瑞希は蒼雪に伝えたいことは伝え終えた、という様子でこれ以降の予定を聞いてきた。今はテストの問題を作成している時期で、このような店でなければ会っていること自体を他クラスからは問題を漏洩させていると言われかねないのだ。

「そうだな。逆に聞くが、瑞希はどうしたい? 今日の予定はそもそも会うことだったからな。すでに互いの予定は終えていると解釈はできる。ここ以外の場所ではあっていること自体を隠さなければどこかのクラスに付け入る隙を与えてしまう。」
「そうだよね…。じゃあ、蒼雪君がよければだけどもう少しここでお茶していかない?用事は済ませたから解散っていうのは勿体ないなって。」

 瑞希はこのまま蒼雪と解散してしまうと2人ッきりで次に会えるのはいつになってしまうのかわからないと考えもう少し一緒にいたいと言ってきた。蒼雪としてもこのままい好きと話すこと自体は問題ないことなので、

「じゃあしばらくはこのままここでのんびりしようか。」

 そう提案をして2人での時間を楽しむことにした。
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