上 下
137 / 162
1学期編 ~期末試験~

第26話

しおりを挟む
 蒼雪はその後も質問に来る人を待ち、それぞれの試験問題の解答とその結果についての評価を告げ、彼ら自身が悩んでいる質問に答えていった。


 質問をすべて受け付けていると、1人あたり10分~20分ほどの時間で対応をしていたので全員の対応をし終えたときには時間も遅くなってしまった。最後に来たのは響真で時間も遅くなってしまったので一緒にリビングに降りていくと、リビングでは夕食の用意を千春と舞依が協力して行っていた。


「あ、蒼と響真も降りてきたんだね!今白崎さんと榊さんが夕飯できそうだからって言ってて2人が降りてくるのを待つか呼びに行くかって話していたところだよ。」
「そうだったか。それならちょうどいいタイミングで降りてこられたんだな。」
「だな! 何か俺も手伝った方がいいことあるか?」

 降りてきた蒼雪と響真に詩音は、リビングが今どういう状況なのか説明をしてくれたので、響真も何か手伝えることは何かないかと聞いていた。しかし、

「う~ん、響真たちはもう座ってていいかもね。僕たちも今できることはやり終えたって感じだから。」
「そうかも。私と一で片付けも終えたし、植村君と里美ちゃんでテーブルの用意をして朝霞君と早乙女君で配膳もしているところだから2人は座ってていいよ。」

 一と優里が机の上にあった勉強道具を移動させ終え、それを誰の物なのかわかりやすく並べながら教えてくれた。2人も並べているものの、もうすぐ終わりそうという感じだった。蒼雪と響真もやることがないのなら不用意に動き回る方が邪魔になると思い素直に自分の席に着いた。



「お待たせ。全部用意できたわ。」
「…お待たせ。」

 蒼雪と響真が席について話していると、用意を終えた秀人や里美、一、優里も席についてそのまま話しながら待っていると、配膳をしていた正悟と詩音も席について、作っていた千春と舞依がやってきた。

「ありがとう。さて、それじゃあ食べるとするか。」

 蒼雪は全員が席に着いたのを確認すると、号令をかけ夕飯を食べ始めた。夕飯の間は勉強のことを忘れてにぎやかに食べることができた。



「今日の試験問題をクラスの奴らも解いているんだよな?」
「ああ。昨日配ったからな。」

 夕食を食べ終えて蒼雪と響真が片づけをしていると、正悟がリビングで休みながらそう声をかけてきた。夕飯後は少ししてから前回と同様にまた蒼雪たちの家と、正悟たちの家に分かれて泊まることになっている。それまでは勉強会ではなく適当に話しながら時間をつぶしているのだ。

「その問題を解くのに点数をよく見せようとして調べながら解くやつらとかがいたらどうするんだ?」
「あったとしてもそんなのは誤差の範囲になるだろう。平均点は高くなるように想定している。」
「へぇ~、最初からそのまま当てにしているわけではないんだな。」
「蒼が何も考えていないわけじゃないか。俺が考え付くようなことは想定済みってか?」


 響真も蒼雪が素直に当てにしていないわけではないと感心していたが、正悟はさらに他にも何か企んでいるんじゃないかとニヤニヤしながら聞いてきた。

「正悟が何を期待しているかわからないが、クラスの馬鹿な奴らの考えならいくつか想定している。だから問題も変更する前提で渡している。」
「どういうことだ? 以前も昼食の際に俺たちにそう告げていたが。」
「私もそれは気になりました。変更するならなぜわざわざクラスの人たちにも問題を配ったのですか?」


 こちらで話していた話題について秀人と里美が気になることがあったようで蒼雪に質問をしてきた。この2人は蒼雪から見ても正攻法を好んでおり、搦め手や不正についての想像力は低いようだった。

 なぜこのような手法をとっているのか、その真意を明かした人物はまだ1人もいないがここにいるメンバーになら話しても問題ないだろうと蒼雪は思い、その本当の意味を口にした。


「今回の試験を利用してこのクラスに信用するに足る人物はいるのか、又は裏切る可能性が高い人はどれほどいるのか、それも見極めている。」


 蒼雪が口にした言葉の意味が分かった人物はこの場には少なかった。正悟は小さな声で「そう言うことか」と口にしたが誰の耳にもとどまることはなかった。

「それはどういうことかしら? もう少しわかりやすく教えてもらえると助かるのだけれど。」
「俺たちにわかりやすく頼む。裏切る可能性とはどういうことだ?」
「そうだな。あくまで可能性の話だが試験後もクラスメイトの動向を追っていればわかる可能性があるかもな。」


 蒼雪はそう前置きをしてから話し始めた。

「まず今回の試験で生徒は非常に有利な立場にある。それは6分の1、もしくは5分の1の確率で試験問題を知った状態で試験に臨むことができる。今回は試験問題をどのクラスも認められたという前提で話を進めよう。
 
 ここで生徒の大半は考えることだと思うが、試験問題を知っている確率を上げるにはどうすればいいのか。
 
 これは既に2組が実践してくれているからわかりやすいことだろう。試験問題を盗み見るか相手から吐かせればいい。そうすれば確率は容易に上げることができる。5分の2、5分の3とではまだ半々だが、それでも問題に対する対策はしやすくなる。あいつらのやり方は好ましくないがやっていることはある意味で普通なことだ。
 
 ここで、次に俺が言う裏切りとは何か。これを自分から他クラスに協力して行うことだ。このクラスの奴らにも何人かいるだろう。試験問題を隠れて売買することだ。問題を流出させると作成者は評価を下げられて、クス全体にも連帯した責任を負わされるというが、作成者の負うペナルティとクラスで下げられる評価では差があると思うのが自然だろう?
 
 それを利用して自分のクラスが負うマイナスよりも高いと考えるポイントで彼らは売買をして自分のポイントを稼ぐんだろうな。もっともパターンを2つも用意したから当日に出てくるのか信用性にも問題があって難しくはしたつもりだが、それでも買うやつらは買うだろうな。」

 蒼雪は長くなったが自分の考えていたことを皆に告げた。蒼雪は2組の連中だと思われる生徒が偵察に来ることを始めたときからこの可能性を考えていた。情報を欲している人がいるならそれをこちらから対価を要求して提供するのはいたってわかりやすいことだからだ。

 そして、それを行う可能性が高いのはポイント低所得者でかつ、クラス内での協調性よりも自分の利益を優先する生徒だ。そういった生徒は今後も信用するのは難しい。いつ裏切るかわからないからだ。蒼雪はこれを機にそう言ったやつらを炙り出して今後に備えようと考えたのだ。

「待ってちょうだい。あなたの想定では私たちは既にマイナス評価を負う可能性があるというのかしら?」
「ああ。その通りだ。」
「それなら先に手を打った方がよかったんじゃねえか? 俺たちがそんな連中の小遣い稼ぎに利用されるのは納得いかねえぞ。」
「うん。僕もそれは許せないよ。」

 千春や響真、詩音は怒りを口に出しわかりやすいが他のメンバーも口に出さなくても少なからず同じような気持ちを抱いているようだった。その中でも正悟は割と冷静な反応をしていた。


「みんな落ち着けよ、な? 蒼がこれだけ想定していて何の対策もしていないはずがないだろう?」

 正悟は落ち着いてそう言ってきた。蒼雪は正悟のこの反応は予想していなかったが、おそらく正悟が何かつかんでいるのか、蒼雪を信頼しての発言だろう。

「正悟の言うとおりだ。俺は問題を差し替える予定だと言っているだろう? だから試験問題については流出させていないということになる。そして、その情報を知らない連中は売買をした後に話が違うといわれる。結果試験後に裏切りは明るみになるということだ。」

 蒼雪は自身の計画していたことがもたらす結果について伝えた。
しおりを挟む

処理中です...