上 下
136 / 162
1学期編 ~期末試験~

第25話

しおりを挟む
 リビングでは先程解答用紙を回収した時と変わらずに勉強をしていた。時間も経っているので科目が変わっているところが多かったが、理系科目の試験対策をしているという点では変わらずだった。


「一通りの結果が出た。報告をしたいと思ったが、後にするか?」
「いや、ちょうどいいタイミングだから休憩にしよう。」
「そうね。根を詰めすぎてもよくないから休憩にしましょう。」


 勉強を教えている組の中心にいる秀人と千春が休憩を提案してくれたおかげで、教えられている組にいた正悟や一、優里は安堵していた。彼らのように勉強がそこまで得意でないような人たちからすれば長時間の勉強は辛かったが、教えられている側から休憩を提案するのは申し訳なかったのだ。

「よし、じゃあ蒼、どうだったか教えてくれ!」
「…早乙女うるさい。…休憩だからってはしゃがないで。」
「さすがに疲れちまってるんだからいいだろ。」
「疲れているのなら騒がないで静かにおとなしくしていなさい。それとも、それだけ元気ならあなただけ数学の続きを解かせようかしら?」
「いや、それだけは勘弁!」

 正悟は休憩になるということでテンションが上がってしまったようだが、舞依と千春に水を差され、結局大人しくしていなくてはならなかった。一や詩音もそんな正悟を見て苦笑していたが、ここでからかっては蒼雪の話が進まないと思い、集計したデータを持った蒼雪の方を向いた。

「とりあえず、結果から伝えるがいいか?」
「ああ、頼む。」
「まずはパターン1、提出までの授業範囲だと推定される方が難易度を高くし、以降の難易度を低くしたテストの結果から伝える。こちらの結果は平均で7割弱だった。今も授業で行っていない範囲もあるが、それを加味しても想定よりは低いな。」
「そっちを解いたのは誰だったんだ? 多分俺はそっちじゃないだろ?」
「ああ。響真はこっちじゃない。こちらを解いたのは千春、舞、里美、一、詩音だ。」

 事前にどちらを解くのかは蒼雪は伝えておらず、問題用紙もまとめて付箋に名前を書いて張ってあるだけで配っていた千春もどちらの問題を配っていたのか知らなかった。蒼雪は千春から受け取った問題はそのまま提出用の試験問題に含めているので今回の案では用いていなかった。そのため、千春も問題作成を手伝ったとはいえ、その問題がここに含まれていなかったので難易度を判断する材料がなかったのだ。

「そうだったのね。平均点が7割弱ということは私の点数も8割前後なのかしら?」
「…この場で言ってもいいのか? 気になる人にはあとから個別に聞きに来てもらおうかと思ったのだが。ここで高得点者などを伝えるとほかの人のおおよその点数が推測できてしまうだろう?」
「……そうね。あとで教えてもらうわ。」


 千春は蒼雪の指摘はもっともだと思い、また、この場で8割前後と言ったがそれよりも低ければ自己評価が高いと思われてもおかしくないので引き下がった。ここにいる人たちならば、そんな風に悪く思う人はいないが、何がきっかけで関係がこじれるのかわからないので余計なことは言わなかった。


 「さて、パターン1の総評をすると、…難易度を上げすぎたのかもしれないな。後半を得点源にしたつもりだが、まだやっていない以上は得点源にすることができずそのまま伸びなかったという印象だ。ミスが多かったところはもう少し難易度を調整しなおす。ちなみにこれは歴史、国語、英語すべてを合わせた評価だ。1つ1つの科目を細かく言うことはできるが、それは後で個人的に聞いてくれ。」

 蒼雪はパターン1について受けた印象をまとめて伝えた。細かく伝えても、関係ない人もいたので詳細を省いたのだ。また、蒼雪の正直な思いとしては、細かく1から10まで話すのは面倒だと思っていたりもする。


「なるほど。パターン1は想定よりは低いということはわかった。逆に俺たちが解いたパターン2とされる方はどうだった?」
「そう慌てるな。何も質問がなければ次の総評に移るがいいか?」

 蒼雪は話を聞いていた彼らに目をやったが特に全体に対する質問事項はなかったようで、質問は上がってこなかった。

「よし、じゃあ次にパターン2の総評をしよう。こちらの平均は8割前後、こちらの希望通りに近いな。これは授業でやった範囲を復習できている人が多く、そちらの難易度が低いから高得点につながった人が多いのだろう。だが、…」

 蒼雪は彼らの平均点が高かったことを認めたが、今回ランダムに振り分けたから起こってしまったのか、後から言いにくそうにしながら


「平均点はよかったといえるが、科目ごとの平均点で見るとパターン1の得点が高い科目が2つあった。こちらを解いた秀人、響真、正悟、優里は共通して得意でない科目があるのだろうな。」

 蒼雪はそう評価を下した。苦手科目が何であるかということで振り分けをしておらず、同程度の学力の2人ないしは3人を適当に振り分けたためにこういう結果になったが、それでも、こういった結果になるとは思っていなかったのだ。

「ふむ…。こちらでの苦手科目の対策が必要か…?」
「もしかしたらそうかもしれねえな…。」
「俺が足を引っ張ち待ったからかもしれねえ。」
「う~ん、私もそんなに勉強できるわけじゃないし…。」

 総合的な平均点が高かったといわれて安心していたのだが、平均点で10点近く差が出ているにもかかわらず、科目別に見たときに平均点が下回っていたものがあると知って何が悪かったのかそれぞれ考え込んでしまった

「非難しているわけではないからそこまで思いつめなくてもいいと思うが、苦手科目の底上げは必要かもしれないな。」

 蒼雪もフォローと言えるか微妙なことしか言えなかったが、そこまで悲観することではないとも思っていた。現段階においてはこの結果だったというだけで試験の時もこうなるとは限らないのだ。まだ時間もあるので総評を終えてからは個別の質問タイムとした。

 個別の質問は順番に蒼雪のところに行くということにして、それ以外の人で各自の勉強を教え合いながら進めるという形になった。

 最初に蒼雪のもとへとやってきたのは千春だった。
「私から来させてもらったわ。」
「そうだろうと思ったよ。得点とどこが課題なのか、でいいのか?」
「ええ、それで構わないわ。」
「そうか。」

 蒼雪は短く返事をするとパソコンを操作して千春の解けた問題の傾向及び得点だけを表示した。千春は表示された画面を見せられながら蒼雪の話を聞くことになった。


「まず、あの場で得点を発表しなかったのは千春の得点が低かったからではない。逆に高得点だったからだ。」

 蒼雪は画面を見せながらそう言った。千春のほとんどの科目の平均点は9割ほどだった。つまり千春と同じ試験問題を解いた人の中には7割かそれより下になる人がいたのだ。
 
 千春はそれを聞いて察してしまった。ほかの人の中には7割の人が残り全員だとは思えないので5割前後の人がいたのかそれよりも酷い人がいてそれを察する人を少なくしたのだということを。解いた人間もパターン1とはいえ5人しかいなく、あの場で1人でも点数がわかってしまえばほかの人も自分の得点からほかの人の点数も推測できてしまうのでそれを避けるためにあのような言い回しをしたのだ。それにより低くなってしまった1人または2人の名誉を守ってくれたのだ。

「あなたも大変ね…。」
「そう言ってくれるな。さすがにあそこで落ち込ませない方がいいと思っただけだ。」

 蒼雪も千春の言葉から自分がしたことの意味を分かってもらえたと思い素直に話した。

「さて、千春の課題と言いたいのだが…。予習をすればカバーできるとしか言えないな。」

 蒼雪はそう評価を下した。千春が間違えたのはまだ授業で行っていない範囲しかないということで、今までの範囲の復習はちゃんとできていたのだ。そのため、今できるアドバイスはたいしてなかったので蒼雪から改めて言うことはないのだ。

「そう。それなら私もよかったわ。けれど、本当に大丈夫かしら?」
「というと? 何か気がかりなことでもあるのか?」
「いえ。自分でも大丈夫だという自信はついてきているわ。けれどあなたの域には達していないわ。まだやらなくてはならないことがあるのではないかと思って…。」
「俺のようになる必要はないし、俺はイレギュラーだと思えばいい。千春の実力の伸びは俺がよく知っている。ここまでできているだけでもかなりの成長だ。」
「そう…。あなたにそう言ってもらえるならよかったわ。でも、慢心せずに勉強続けるわ。」
「ああ、頑張ってくれ。」


 蒼雪と千春の話はこれで終わり、千春はそのまま部屋を出ていった。蒼雪も次に来る人が誰かはわからないのでパソコンの画面を戻してから次の人が来るのを待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央
青春
 授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。  新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。 「NTRゲームしません?」 「はあ?」 「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」 「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」  言い出した相手は、槍塚牧那。  抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。 「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」  などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。 「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」 「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」 「え? 意味わかんねー」 「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」  脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。  季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。  季美の今の彼氏を……妹がNTRする。    そんな提案だった。  てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。  牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。  牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。 「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」  姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。 「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」  勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。  他の投稿サイトでも掲載しています。

処理中です...