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1学期編 ~期末試験~

第20話

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「あっ、蒼雪君…。」
「どうした?廊下で待たずに教室まで来ればよかったじゃないか。」
「うん…。」
「はぁ…。さすがに今の状況では入れないでしょう? だから私たちはこうやってあなたたちを待っていたのよ。」
「そういうことね。他クラスに今の時期に入るのでは試験問題を盗み見ようと考えていると誤解されかねないわね。」
「そういうことよ。」

 廊下で待っていた瑞希は元気がなく、皐月がどうして廊下で待っていたのか千春と話しながら教えてくれた。

「それで、どうしたんだ? それともここでは話しにくいか?」
「そうね…。ちょっと話し難いところはあるわね。事が事だけに証拠がないうちに騒ぎにするとこちらが攻められかねないわ。」
「証拠? 何か事件性があるということかしら?」
「それも含めて説明するわ。とりあえず人目に付かないところはあるかしら?」
「そうだな…。」

 千春と蒼雪は顔を見合わせて考えた。2人の心当たりのある場所は自宅だが、今の時期にバレずに向かえるかはわからず、候補としてはあるが最終手段として考えた。先生への相談も含まれているならば生徒指導室の利用も考えられるが、今の段階では騒ぎ立てられないというのでこれもなし。そうなるとどこがあるのか2人はどこかないか考えこんでいると、


「この時期に廊下で他クラスと情報交換か? 目立つ真似はしないと思っていたのだが、俺の思い違いか?」

 蒼雪たちに声をかけてきたのは意外なことに生徒会長である諸伏学人であった。後ろにはいつものように王もいた。

「彼女たちから相談事があると言われたのですが、事件性の可能性もあるが証拠がないというので騒ぎ立てることもできないので何処で事情を聞くのがいいのか話していたのですよ。」
「ちょっと、新庄君。この人にその話をしてもいいのかしら?」
「皐月は誰かわからないか?」
「え?」
「ふむ。直接の面識がない以上俺のことを知らなくてもおかしくはないな。俺はこの学園で生徒会長を務めている、諸伏学人だ。」
「書記の王美鈴です。」
「生徒会長でしたか。失礼な発言申し訳ありません。」


 皐月は生徒会長であると知ると警戒を解き、先ほどの発言を謝罪した。生徒会の人とかかわりを持つのはこの先にはあると思うが、未だにないということで認知度が低いのだ。

「いや、気にしなくていい。それで、新庄、そう言う話であるなら生徒会の会議室を貸し出そう。」
「…いいのですか?」
「ああ。条件として俺も立ち会わせてもらうがな。」
「そう言うことでしたら俺はかまわないですよ。」
「私もかまいません。」
「…私もいいで場所を提供していただけて嬉しいのですが本当によかったんでしょうか?」

 生徒会長の申し出に俺たちはありがたかったが、瑞希としてはそこまで大事にして本当によかったのかという気持ちが強かったようだ。


「察するに期末試験に関することだろう? それならこの学園の生徒会長の身としては放置していい問題ではないからな。」
「それならこちらとしてもいいのですが…。」
「会長の行為で素直に受け取っておこう。」
「うん…、わかった。ありがとうございます。」
「ついて来い。」


 瑞希も納得したので、蒼雪たちは諸伏生徒会長についていき、そのまま生徒会の会議室に移動をした。


 会議室には鍵がかかっていたが王がもっていた鍵によって開けられた。


「さて、適当なところに腰かけてくれ。」

 部屋に入ると、中から鍵を閉めて生徒会長から座るように促された。

「何があったのか話してもらおう。あくまでここは非公式な場であるからそこまで緊張せずあったこと、関係のありそうなことをそのまま話してくれ。」
「わかりました。」


 瑞希は皐月と目を合わせてからうなずき話を始めた。

「あれは日曜日の朝に報告を受けて発覚したことなのですが…。」

 瑞希はそう前置きをしてから話を始めた。


 事件があったと思われるのは数日前で、発覚したのは土曜日のことだった。瑞希が直接体験したのではなく瑞希が試験問題の作成を頼んでいた友人の話だという。基本的には4組での試験問題の作成は3人1組または4人1組で行っているらしい。そして、今回の件を話してきたのは、数学担当と日本史担当をしていたグループのようだ。

 彼ら、彼女らは試験問題の作成をしていたのだが、2組のメンバーが何度も覗きに来たり、どういう問題を作っているのか直接的に聞いてきたという。しかし、彼らはそんな脅しは無視して作業を行い全員で集まれる飲食店や図書館を利用し、周囲の目がある場所で話し合いをしていたらしい。

 そのせいでうわさが上がったともいえるだろう。強引な情報収集は噂を広げるためにわざとやったのかもしれなかった。そして、金曜日の放課後も同じように話し合いをし、各自が作成した問題を1つのUSBに集約して問題の絞り込みを行っていたらしい。そんなところに彼らがやってきたのでさすがに問題を見られると困ると思い、ノートパソコンをしまいUSBもしまい、店から出ようとしたらしい。
 
 これについては話を聞いただけなので実際はもっとやり取りがあったかもしれない。店を出ようとしたところで因縁をつけられぶつかられたりして店員に注意されてそのまま店を出たようで、何事もなく済んでよかったと彼らは思った。
 
  その日は作成した問題案を集めることもでき、集約したデータは各自の端末にも転送していたので店を出てそのまま解散をしたらしい。そして、問題の絞り込みを各自で行い翌日の午後に話し合いをしようと集まったのだが、そこでようやく気が付いたのだ。
 
 USBをだれも持っていなかったのだ。当初は誰かが持っていて寮の部屋に忘れてきたのかもしれないと考えたり、昨日の店に落としたのかもしれないと、懸命に探したのだが見つからなかった。昨日の奴らに盗まれたのかもしれない、そう思ったが証拠はなかった。
 
 そして、そのまま土曜日を終えて日曜日の朝に寮の自身のポストに紙袋に入れられたUSBを発見したのだ。瑞希には土曜の夜のうちに可能性の話は上がっていたのだが、朝に発見されたことでまた報告は来ていたらしい。そして、話を聞いていたもう一組の子たちにもポストを見るように伝えると、そちらにもまた入っていたらしい。手口は似たようなものでそちらは寮の近くで因縁をつけられたらしい。
 
 
 日曜日にUSBの確認をみんなで行うと開かれた後は見つからず、データを移してみられたのか、それともたまたまだれか拾ってくれたのかわからないということらしいが、後者はほとんどあり得ず、前者であろうとクラスでは意見がほぼ一致している。しかし証拠もなくそんなことは言えず、いらいらと不安がクラス内で広がっていたらしい。
 

「…ということなの。」


 瑞希の話を要約しながら蒼雪はどのような状況にあるのか理解した。おそらくこんな手口は2組ならありえそうなことだが、証拠がない。仮に誰かのパソコンに入れていたとしてもデータを確認する権限のない我々では手が出せないだろう。

「そういうことか。暴力的で好ましくはないが、合理的なやり方ではあるな。」
「納得しないでくださいよ。俺としてもあまりこちらから手が出せないということは理解できましたが。」
「やっぱり難しいですよね…?」
「我々には他人のパソコンの中身も端末の中身も確認する権限はないからな。これが直接的な暴力で訴えられかけているか、怪我をしていれば話は違うがそんなことはないだろう?」
「…はい。誰一人けがを負うことなく今回の騒動に巻き込まれていますし、何よりも学外のことで、店内で注意を受けたり、療の近くで騒ぎを起こすなと寮長からすでに注意もあり改めて学園に申し出る必要がないと私たちも判断をした後で、学園に遅れてその勧告をするのはどうかと思っていまして…。」
「時間は立っているが今からしても注意かペナルティでポイントをいくらか払わさせる程度で済ませるだろうな。」
「そうですよね…。」

生徒会長は客観的に話を判断してくれたのだが、やはり今回の件では今からできることは限られてしまうということだろう。蒼雪も何か考えられることはないのかと思考を巡らせた。

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