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1学期編 ~期末試験~

第11話

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「そろそろ1度休憩にしないかしら? 夕飯が冷めてしまうわ。」
「もうそんな時間か? 直ぐに行く。」

夕飯の席で千春は進捗状況を聞いてきた。

「調子はどうかしら?」
「まだ始めたばかりで何とも言えないが、今のペースで進めれば明日の夜に徹夜すれば終わるはずだ。」
「まだそれだけかかるということなのね…。やっぱり無茶じゃないかしら?」
「そうでもない。問題に当たりをつけるだけなら明日の授業中も含めて放課後までに終わるはずだ。後は各担当の先生の話も参考に問題を作成しないといけないということが大変だな。教科書通りの試験では面白みに欠けるだろう?」
「そんな面白さを求める必要はあるのかしら?」
「試験の問題は教科書を見て分かることだけではないことが多いだろう?」
「…まぁ終わるならいいわ。何かあれば言ってちょうだい。私も手伝いたい気持ちはあるのだから。」
「ありがとう。千春の出番はあとであるからその時に頼む。」
「わかったわ。それじゃあ片付けとかも今日、明日は私がやるからそっちに集中してちょうだい。お風呂もいつもの時間に入れておくから必ず入って。もし入ってなければ部屋をノックするわ。」
「そうしてくれると助かる。ありがとう。じゃあ、悪いが俺はもう部屋に戻るから後は頼む。」


 蒼雪はそう言って食器を台所へと運び後片付けを任せた。千春は今の状況に主婦はこんな気持ちなのかしら? と場違いなことを考えて顔を赤らめていたが、蒼雪は部屋に戻っていたので気が付かれることはなかった。そのまま千春は鼻歌交じりに食器を洗って家事をこなしていた。


(さて、先ほど数学の問題に当たりはつけたが、理科と社会が難しいな…。範囲も多く重要事項だけに絞ってもその中から厳選しなくてはならないな。)

 数学や英語であれば、問題集や教科書をもとにすればある程度の問題ならすぐに作成することができる。国語は問題にする文章や古文について自分で調べなくてはならないことが多いが、それでも答えにできる部分は限られてくるので作成はしやすい。

 しかし、理科・社会はそうはいかないところが多い。問題集を参考にしても1つのことに対するアプローチの仕方は複数通りあり、どういう問題形式を採用すればいいのか、多くある出来事・人物からどこを重点的に出題するか、考えなくてはならないところが多くこの4科目に蒼雪は苦戦していた。

 途中で風呂の時間となったので、千春に声をかけてお風呂場に向かったが、その時も問題作成のことばかり考えていたので着替えを持っていくのを忘れるというミスをやらかしてしまった。

 そのことに気が付かないまま風呂を上がってしまったので蒼雪は出た時に慌ててしまった。

(しまった…!いつもなら忘れることはなかったが、ここで考えに没頭することの弊害が…。)

蒼雪はバスタオルで体を拭き、それを腰に巻いた状態で風呂場から出たのだが今回はそれが不運につながった。いつもならまだ自室にいるはずの千春が、この日はリビングで勉強をしていたのでお風呂から出た音を聞きつけて1階の廊下に出てしまったのだ。

「え…。」
「あっ…、いや、これは…。」
「き、きゃあ!な、何で服を…!」
「すまん、落ち着いてくれ。あ~、服を着てくる。」

 蒼雪はパニックになった千春を放置して自室へと駆けて行った。ベッドの上に着替えは用意してあったので、直ぐにそれに着替えた。着替え終えてからまもなく、遠慮がちに部屋をノックする音が聞こえた。

「い、いいかしら…? もう服は着ているわよね…?」
「あ、ああ、すまん。もう着替えてある。先程は申し訳ない。考え事をしていたせいで着替えを持っていくことを忘れてしまっていた。」
「そ、そういうことね。私の方こそ声を上げてしまってごめんなさい。そ、その、半裸にバスタオルでいたから咄嗟のことで驚いてしまって…。」
「すまない。」
「い、いえ、大丈夫よ。けれど、今後は気を付けてちょうだい。」
「ああ、わかっている。」
「それじゃあ私もお風呂に入ってくるわね。」


 千春はそう言って扉から離れていった。蒼雪も今回ばかりは自分に非があると感じているので気を付けようと思った。しかし、こればかりは彼の長考することが多い癖に起因することなので絶対にしないと誓うこともできないので彼はどうしたものかとため息をついた。



 少しして気持ちを切り替えて問題作りを再開して、ふと時計を確認すると時刻は23:40を表示されていた。

(もうこんな時間か…。今日は1度寝て続きは明日の朝起きてから考えるか。)

 蒼雪は作りかけの問題だけ仕上げてから眠りについた。



 翌朝、彼はいつも通りの時間に目を覚ましたが、普段のようにランニングに行くということはできなかった。天気は昨日から曇っていたのだがこの日には雨が降り始めていた。

(まぁ今日はそんなことは関係ないんだがな。)

 彼は問題を作成しないといけないと考えているので、起きてから顔を洗って再び自室に戻り、昨夜の続きを始めた。千春は起きてから1度蒼雪の部屋をノックして開けたのだが、彼が気が付くことはなかった。千春は一生懸命に問題を作成しているんだ、ということは察したので声をかけずにそのまま扉を閉めてリビングに降りていった。

 彼女としては一緒に勉強をしたいと思っていたのだが、今回ばかりは仕方ないだろうと自分で勉強をしていた。

(仕方ないわよね…。まだ試験範囲をしっかりと理解しきれているわけではないからかえって邪魔になりかねないわ。一刻も早く彼の隣に立てるようにならないと…!)

 千春は朝から気合を入れ直して勉強を始めた。少しでも早く蒼雪の力になれるようにと頑張った。


 朝食を用意する時間には蒼雪もリビングに降りてきた。


「おはよう。」
「あら、おはよう。問題作成はどうかしら? 先程様子を見たときは声をかけられる様子ではなかったのだけれど。」
「そうだったのか? すまない全然気が付かなかった。調子としてはいい方だ。今晩には作り終えることができそうだ。」
「そう、それならよかったわ。それでは朝食の用意を始めましょうか。」


 蒼雪と千春は朝食を終えてからは、いつも通りの生活を送った。そして学園に向かう時間となったので家を出た。


「…おはよう。」
「おはよう、調子はどうだ?」
「おはよう、ぼちぼちだ。」
「おはよう。舞依、彼の調子はどうかしら?」
「…昨日も夜まで頑張った。…困ったのは前回やったことも忘れているところがあること。」
「相変わらずなのね…。あれだけやったのにどうして覚えていられないのかしら?」
「そう言われると俺も悪いとは思う。だけど、やっぱり時間が経つと、な? 甲、少しずつ思い出せなく…。ごめんなさい。」

 正悟は頑張って言い訳を並べていたのだが、話せば話すほど千春の目が鋭く正悟に突き刺さるので、次第に弁解の言葉も小さくなり、ついには謝罪を口にした。


「また教えなくてはならないこっちの身にもなってちょうだい。舞依も負担が大きいと思うなら言ってちょうだい。またみんなで分散して面倒を見ましょう。」
「…うん。」
「ひどいな…。うん? そう言えば…。」

 千春と舞依に残念な人を扱うかのように言われてしまい、へこんだ様子を示した正悟だったが、ふと何かを思い出したようにして何かを考え始めた。

「どうかしたのか?」
「いや、今回の試験で個人評価については触れていたが、相棒評価については触れていなかったよなって思いだして。」
「そういえばそうね。」
「…確かに。…今回の試験でペア要素ある?」
「特に聞いた覚えはないな。」


 蒼雪たちは評価方法について未だに話されていないことがあると思い、その点がどうなっているのか疑問を覚え始めた。もしかしたらこの試験はこのまま終わらず、他に何かあるのかもしれない。未だにわからないことが多い、この学園のシステムに不安や疑問を抱きながら彼らは学園に向かって歩いていった。
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