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1学期編 ~期末試験~
第8話
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蒼雪たちが話し合いをした翌日、この日の彼らはいつもより早く学園に向かった。昨日は時間も遅くなっていたので月宮先生に仮説の裏付けをとることができなかったので、朝のホームルームの前に彼女に確認を取っておきたかったのだ。答えは直接教えてくれなくても、自分たちで辿り着いた解答に対する成否は教えてくれるかもしれないと考えたからだ。
仮に教えてくれなかったとしても、今回の仮説を踏まえたうえでみんなが行動をしていけば自ずと答えは見つかるかもしれないので教えてくれなくてもそこまでダメージはないはずだ。
「それじゃ、行ってくる。」
「行ってくるかから、あなたたちも先走って他の人に教えないようにね。」
「わかってるよ。」
「…伝える人がいないから大丈夫。」
舞依の発言もそれはそれで寂しいものであるが、正悟と舞依を教室に残して蒼雪と千春は職員室へと足を運んだ。
「失礼します。1年3組の新庄蒼雪です。」
「失礼します、同じく1年3組の白崎千春です。」
「おはよう、どうした?」
「月宮先生にご確認したいことがありましてこの時間に来させていただきました。」
「そうか。それならちょうど指導室も空いているし、そこに行こうか。」
彼女はそう伝えると、鍵を取ってから蒼雪たちを生徒指導室まで案内した。
「ここだ。入ってくれ。」
「失礼します。」
「し、失礼します。」
蒼雪は特に何も考えずにこの部屋に入ったが、千春は、生徒指導室に入れられるのは問題児だけではないかと思い緊張した様子で入っていった。
「それで、話というのは何だ? 確認したいこと、とも言っていたな。」
「はい。それでは私から聞かせてもらいます。」
「いいだろう。」
蒼雪はちらりと千春の様子を見るが、彼女は思っていたよりも緊張していたので、彼の方から話を切り出した。話をしているうちに彼女も落ち着いてこちらの話に参加することを蒼雪は期待して話を始めた。
「今回の個人評価の減少についてですが、第1に、答えを教えることはできなくてもこちらの考えた答えに対する解答は教えていただけますか?」
「その問いには、一応イエスと答えておこう。こちらもルールを教えることはできないからな。ただし、生徒自身がたどり着いた答えに対する評価はしてやれる。だからお前たちの考えた答えとやらを聞かせてもらおう。」
「わかりました。私たちは、今回の減少について月宮先生は自分の生活態度を見直せとおっしゃっていましたので、授業態度に注目しました。これは、先々週から居眠りや遅刻が目立ち、注意も多くなっていたので考えられることの1つでした。それをもとに前回の減少と今回の減少を見ると、そう言った授業態度の回数に応じて10点ずつ引かれていました。」
「ほう。」
そう短く相槌を打つと、それだけか? と言いたげな目でこちらを見てきた。すると、千春が蒼雪の言葉を引き継ぐようにして話を続けた。彼女も蒼雪が話をしているのを聞いていくうちに自分のペースを取り戻すことができたようだ。
「続きをよろしいですか? この仮説をもとにしても私たちが数えた数値よりも減少している生徒が数人いました。そして、とある生徒の目撃証言から、授業態度はもちろんですが、学内での素行不良全般についても個人評価の減少は及んでいると考えました。」
「なるほど。」
月宮先生はそう呟くと、席を立ちあがり、窓際まで移動をすると、こちらを見ながら、
「お前たちの立てた仮説は正しい。」
そう言った。そして、
「どうして、このような減少システムが存在すると思う?」
続けてそう問いかけてきた。
「どうして、ですか?」
「ああ。意味もなくこういったことはするはずがないだろう?」
「そうですね…。」
千春はそう言った質問を返されるとは思っていなかったようで返事に困っていた。そのため、蒼雪は、この減少の仮説を立てた時に考えていたこのシステム理由を話し始めた。
「私が思いつくのは個人評価ということだからです。これは、テストの良し悪しではなくどういった思考能力を持っているか、知識は定着しているか、そう言った習熟度から評価しているんですよね?」
蒼雪は自分の考えの前提を問いかけると、彼女は無言で頷いた。
「ありがとうございます。それなら理由は、個人評価という観点から見て、生徒として素行に問題があるならその評価を下げるということですよね? いくら勉強ができても素行に問題があるなら社会にも適合していないから。」
「その通りだ。そこまで考えられているならいいだろう。このシステムはお前たちを学園という組織の一員としてみた時に評価している。放課後まで含めないのはこの島にいる限り、外の評価はあまり当てにならないから考慮されていないだけだ。実際の本島に行けば、外でもどの組織の一員であるかの評価にもつながるから注意することだ。今回の減少は気が緩み始めているお前たち1年生の対応措置の1つだ。2年生以上はずっとこのシステムが採用されている。最初の3か月弱までは様子見の期間ということだ。いきなりやれと言われても環境に馴染めないものはどうやっても馴染めない。いろいろと馴染んで気が緩んだときにこれを行うからより効果的にお前たちは考えるようになる。」
蒼雪と千春は月宮先生の説明を聞いて自分の言葉にして理解をしようとした。
「そういうことですか。」
「つまり、最初のころはまだ甘く見ていたが今後は厳しく見ていくということですか?」
「そういうことだ。いつまでも新人というわけではないだろう?」
「そうですね。」
「それで、どうするんだ? 朝のホームルームの時間にお前たちから伝えるのか?」
「それがいいと思っております。こちらで秘匿してもいいかもしれませんが協力者は複数いるので公開しない方が面倒なので。」
「そうか。それなら朝に時間を取ってやる。しかし、思ったよりも早かったな。」
「どういうことでしょうか?」
「そのままの意味だ。新庄の考えにはすぐ辿り着くだろうが、もう一歩先の学園内での素行不良という範囲であると気が付くのはもう少し先だと考えていたんだ。」
「今回は問題児の目撃証言があったので気が付けました。」
「そういう不確定要素も考慮しておくべきだったな。わかった。もういいぞ。」
「ありがとうございました、失礼します。」
「失礼しました。」
蒼雪と千春は、退出許可をもらえたので生徒指導室を出て教室へと戻った。
教室では正悟と舞依に伝えてから、しばらく談笑して他の昨日話していたメンバーが来てから順に仮説通りだったということを伝えた。
朝のホームルームでは蒼雪が仮説を話し、今回の減少についてはその通りであると月宮先生からの証言も得られている旨を話した。
そして、ホームルームを終えると、
「新庄君!」
「どうした?」
「ありがとう。先程の話のおかげで自分たちがどうすべきなのかわかったよ。」
「そうか、よかったな。だが、どうすべきかわかったというが、条件としては普通に生活をしている分には問題ないものだろう?」
「そ、それはそうだけど…。」
「まぁいい。友人にはしっかりとした生活を送るよう伝えておけ。」
「うん、ありがとう。」
君島は蒼雪に感謝を告げてから、自分のグループへと移動した。
教室を見るに、どういった行動が問題なのか気を付ける人もいれば、条件がわかったからと言って変えるつもりもない山木のような生徒もいた。授業中の居眠りについては寝てしまう授業をする教師が悪いと言って改めるつもりもない発言も聞こえるので、わざわざ全体に向けて発信した意味があるのかはわからなかった。
仮に教えてくれなかったとしても、今回の仮説を踏まえたうえでみんなが行動をしていけば自ずと答えは見つかるかもしれないので教えてくれなくてもそこまでダメージはないはずだ。
「それじゃ、行ってくる。」
「行ってくるかから、あなたたちも先走って他の人に教えないようにね。」
「わかってるよ。」
「…伝える人がいないから大丈夫。」
舞依の発言もそれはそれで寂しいものであるが、正悟と舞依を教室に残して蒼雪と千春は職員室へと足を運んだ。
「失礼します。1年3組の新庄蒼雪です。」
「失礼します、同じく1年3組の白崎千春です。」
「おはよう、どうした?」
「月宮先生にご確認したいことがありましてこの時間に来させていただきました。」
「そうか。それならちょうど指導室も空いているし、そこに行こうか。」
彼女はそう伝えると、鍵を取ってから蒼雪たちを生徒指導室まで案内した。
「ここだ。入ってくれ。」
「失礼します。」
「し、失礼します。」
蒼雪は特に何も考えずにこの部屋に入ったが、千春は、生徒指導室に入れられるのは問題児だけではないかと思い緊張した様子で入っていった。
「それで、話というのは何だ? 確認したいこと、とも言っていたな。」
「はい。それでは私から聞かせてもらいます。」
「いいだろう。」
蒼雪はちらりと千春の様子を見るが、彼女は思っていたよりも緊張していたので、彼の方から話を切り出した。話をしているうちに彼女も落ち着いてこちらの話に参加することを蒼雪は期待して話を始めた。
「今回の個人評価の減少についてですが、第1に、答えを教えることはできなくてもこちらの考えた答えに対する解答は教えていただけますか?」
「その問いには、一応イエスと答えておこう。こちらもルールを教えることはできないからな。ただし、生徒自身がたどり着いた答えに対する評価はしてやれる。だからお前たちの考えた答えとやらを聞かせてもらおう。」
「わかりました。私たちは、今回の減少について月宮先生は自分の生活態度を見直せとおっしゃっていましたので、授業態度に注目しました。これは、先々週から居眠りや遅刻が目立ち、注意も多くなっていたので考えられることの1つでした。それをもとに前回の減少と今回の減少を見ると、そう言った授業態度の回数に応じて10点ずつ引かれていました。」
「ほう。」
そう短く相槌を打つと、それだけか? と言いたげな目でこちらを見てきた。すると、千春が蒼雪の言葉を引き継ぐようにして話を続けた。彼女も蒼雪が話をしているのを聞いていくうちに自分のペースを取り戻すことができたようだ。
「続きをよろしいですか? この仮説をもとにしても私たちが数えた数値よりも減少している生徒が数人いました。そして、とある生徒の目撃証言から、授業態度はもちろんですが、学内での素行不良全般についても個人評価の減少は及んでいると考えました。」
「なるほど。」
月宮先生はそう呟くと、席を立ちあがり、窓際まで移動をすると、こちらを見ながら、
「お前たちの立てた仮説は正しい。」
そう言った。そして、
「どうして、このような減少システムが存在すると思う?」
続けてそう問いかけてきた。
「どうして、ですか?」
「ああ。意味もなくこういったことはするはずがないだろう?」
「そうですね…。」
千春はそう言った質問を返されるとは思っていなかったようで返事に困っていた。そのため、蒼雪は、この減少の仮説を立てた時に考えていたこのシステム理由を話し始めた。
「私が思いつくのは個人評価ということだからです。これは、テストの良し悪しではなくどういった思考能力を持っているか、知識は定着しているか、そう言った習熟度から評価しているんですよね?」
蒼雪は自分の考えの前提を問いかけると、彼女は無言で頷いた。
「ありがとうございます。それなら理由は、個人評価という観点から見て、生徒として素行に問題があるならその評価を下げるということですよね? いくら勉強ができても素行に問題があるなら社会にも適合していないから。」
「その通りだ。そこまで考えられているならいいだろう。このシステムはお前たちを学園という組織の一員としてみた時に評価している。放課後まで含めないのはこの島にいる限り、外の評価はあまり当てにならないから考慮されていないだけだ。実際の本島に行けば、外でもどの組織の一員であるかの評価にもつながるから注意することだ。今回の減少は気が緩み始めているお前たち1年生の対応措置の1つだ。2年生以上はずっとこのシステムが採用されている。最初の3か月弱までは様子見の期間ということだ。いきなりやれと言われても環境に馴染めないものはどうやっても馴染めない。いろいろと馴染んで気が緩んだときにこれを行うからより効果的にお前たちは考えるようになる。」
蒼雪と千春は月宮先生の説明を聞いて自分の言葉にして理解をしようとした。
「そういうことですか。」
「つまり、最初のころはまだ甘く見ていたが今後は厳しく見ていくということですか?」
「そういうことだ。いつまでも新人というわけではないだろう?」
「そうですね。」
「それで、どうするんだ? 朝のホームルームの時間にお前たちから伝えるのか?」
「それがいいと思っております。こちらで秘匿してもいいかもしれませんが協力者は複数いるので公開しない方が面倒なので。」
「そうか。それなら朝に時間を取ってやる。しかし、思ったよりも早かったな。」
「どういうことでしょうか?」
「そのままの意味だ。新庄の考えにはすぐ辿り着くだろうが、もう一歩先の学園内での素行不良という範囲であると気が付くのはもう少し先だと考えていたんだ。」
「今回は問題児の目撃証言があったので気が付けました。」
「そういう不確定要素も考慮しておくべきだったな。わかった。もういいぞ。」
「ありがとうございました、失礼します。」
「失礼しました。」
蒼雪と千春は、退出許可をもらえたので生徒指導室を出て教室へと戻った。
教室では正悟と舞依に伝えてから、しばらく談笑して他の昨日話していたメンバーが来てから順に仮説通りだったということを伝えた。
朝のホームルームでは蒼雪が仮説を話し、今回の減少についてはその通りであると月宮先生からの証言も得られている旨を話した。
そして、ホームルームを終えると、
「新庄君!」
「どうした?」
「ありがとう。先程の話のおかげで自分たちがどうすべきなのかわかったよ。」
「そうか、よかったな。だが、どうすべきかわかったというが、条件としては普通に生活をしている分には問題ないものだろう?」
「そ、それはそうだけど…。」
「まぁいい。友人にはしっかりとした生活を送るよう伝えておけ。」
「うん、ありがとう。」
君島は蒼雪に感謝を告げてから、自分のグループへと移動した。
教室を見るに、どういった行動が問題なのか気を付ける人もいれば、条件がわかったからと言って変えるつもりもない山木のような生徒もいた。授業中の居眠りについては寝てしまう授業をする教師が悪いと言って改めるつもりもない発言も聞こえるので、わざわざ全体に向けて発信した意味があるのかはわからなかった。
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