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1学期編 ~期末試験~

第7話

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 蒼雪たちは、1週間自分たちで検証できることをしていった。自己申告制ではあるが、自分が授業中に寝てしまった回数を記録した。また、視界に映る生徒の行動も観察し、減点される可能性のある行動をとったときはその回数を数えてみた。

 ちなみにこの記録をしていることは、蒼雪とその友人たちで構成されるグループでしか行っておらず、減点対象とされる行動についての推測も他の人には話していない。これは、他の人たちに不確定の情報を伝えるわけにいかないということと、検証をする際のデータをよりはっきりさせたいということで、自分たちとは関係ない人を人柱にしたのだ。瑞希たちも自分のクラスで同じようにしているのだが、他の人に話さないでこうしているのは心苦しくしていた。

 しかし、授業中に居眠りをする人や端末を弄ったりするような人は、指摘されたところで改善するのは一時的にすぎないと、また、それなら改善するきっかけ減点とされる行動だと指摘すればいいとして蒼雪は彼女を説得して記録させていた。


 1週間が経ち、蒼雪たちは記録した数字をもとに、検証の被検体とした人たちの減少した数値を聞いて回った。最初は怪しんでいたが、もしかしたら法則性がつかめるかもしれないと言い協力を要請したところ、渋々という様子だったが、減少した数値だけ教えてくれた。もともと本人の評価なんてものは興味なかったので、その値だけ聞ければ満足だったので感謝を伝えておいた。


「情報は集め終わったか?」
「集めたよ!私のクラスの子に聞いて回ったし。」
「では、早速検証の結果をまとめていきましょう。」
「まずは…」


 蒼雪と正悟、詩音と響真、一と優里によって集められた3組の数値の減少についてまずは説明された。もちろん、その減少した生徒の名前は公表しないようにしながら話していった。


「…ということだな。」
「ふむ、やはり蒼雪の仮説の通りか?」
「いえ、推定より多い生徒もいるから絶対ではないわ。」


 千春はそう指摘した。彼らが集めたデータは学内の、それに授業中の限られた行動しかないため、それ以外の休み時間や放課後の行動については何も情報がなかった。


「いや、そうとも限らないんじゃないか?」

 響真は集めた数値と、記録した数字で一致している生徒もいることを指摘して彼は自分の考えを話し始めた。


「多分だけどよ、放課後は含んでねえと思うんだ。けど、放課後は放課後でも学園にいる間のことはカウントしているとかそんなところだろ。」
「どうしてそう思うのかな? 一応私のクラスの数字も似たような感じだけど。」
「そうね。響真はそう思う根拠でもあるのかしら?」

 瑞希は自分のクラスで集めた数字をメモしたものを見せ、皐月はそれを補完するように響真の意見を促した。


「それは、まぁ、個人が誰だかわかるかもしれねえけど…。」

 響真は話し始める前にそう前置きをしながら説明をした。


「これは俺が、放課後になってから帰る前にたまたまあったんだけどよ、帰る前に自販機で飲み物を買いに行ったんだ。そのときに、うちのクラスのあるやつが2組のやつと揉めているのを見たんだよ。荒っぽいことになりそうだから隠れて見てたけど、挑発し合ってそれで事なきを得てたよ。それで済んでよかったと思って飲み物を買う気分じゃなくなって去ろうとしたら、そいつはイライラしながら自販機を蹴って、色々喚き散らしてからゴミ箱も蹴っ飛ばしてどっか行ったんだよ。」
「なるほど。その行為もカウントされていると思うのね?」
「ああ。そいつが自分の減少した値を素直に教えていることにも驚きだけどな。」
「おそらくポイントが枯渇しかけているんでしょうね。」
「どういうことだ?」
「私たちのようにポイントがある人には少し減ったところで痛手ではないわね?」

 そう言って千春は蒼雪に確認をするように見た。

「けれど、その彼の…、いえ、その人のようにポイントが少ない人からすれば毎週ポイントを引かれてしまうのではかなりの痛手でしょう? だから嫌々だとしても協力して減少を避けねばならないのよ。それに、値を教えてもらうときに答えを教えると言っておいたのでしょう?」
「おうよ! さすがに協力をしてもらうのに俺たちだけで情報を独占するわけじゃないんだろ? それなら効果的なタイミングで教えておかないといけないからな。」
「早乙女君が何か良からぬことを考えていそうだけれど、まぁいいわ。それなら彼も協力する気になったのでしょう。」


 蒼雪たちは集めた情報を整理して、授業態度と学園何での素行不良が減少となる行動だと当たりをつけた。これ以上については、放課後も含めて特定の生徒を見張る必要があると思い検証は諦めた。念のため、もう1週だけ他の生徒も見張って確証を得られるようにするつもりだが、1度瑞希のクラスにも含めてこの情報を開示することにした。

 誰から伝えるかということになったが、これは3組側では議論となってしまった、君島の口から伝えさせた方がいいと蒼雪は主張したが、彼以外の全員が反対した。理由としては、今回の件において、君島は情報を集めたとしても何も対策をしておらず、なぁなぁでみんなを宥めていたに過ぎない。それにもかかわらず、蒼雪質が集めた情報を彼の手で公開させて彼の功績にするかのようにするのは納得がいかないというのだ。

 響真や詩音たちは、蒼雪、または千春によってクラスに発信すべきだと主張した。創設が集めた情報と仮説によるものだから彼によって発信されるべきということだ。千春という意見は、以前からクラス内で質問を求められた際に積極的に質問を行っていることからも、こういった情報を発信する人としてもそこまで問題はないだろうということだ。

 それに対して、千春・舞依・秀人は蒼雪には発信させるべきでないと主張した。以前から蒼雪は目立つことも多く、これ以上注目を集めるようなことはしない方がいいというのだ。蒼雪の手柄であることはここにいるメンバーが知ってさえいればよく、他の人に注目を分散させたいというのが彼らの考えだ。


「さて…、どうするか…。」
「私たちは3組の事情は分からないけど、やっぱりここは蒼雪君がいいと思うけどな。」
「そうね。変な注目を集めたくはないと言っても、ここはいつも発言しない人がするよりも一定以上目立っていて情報に信頼できる人から伝えるべきだと思うわ。」
「それはわかっているわ。けれど、その役目は私でも十分なはずよ。」
「…私もそう思う。」
「俺もだ。だけどよ、表立って動いてはいなかっただろ?俺も蒼じゃなきゃ誰でもいいと思ったんだけど、蒼を除くと俺、響真、詩音、一、優里じゃないと聞いて回っていないだろ? そうなると、又聞きから判断したか代理って思われるだろ? 結局蒼が考えて誰かが代わりに言ってると思われたら意味ないだろ。それなら蒼に説明させて質問も蒼に答えさせた方がうまくいくんだよ。俺らが考えを説明しろって言われてもアドリブはできねえ。」

 正悟の説明に千春は何か言い返そうと思ったが反論できなかった。正悟の言いたいこともわかり、自分が出ても効果が薄いということはわかっていたからだ。


「…わかったわ。それなら、蒼雪君には申し訳ないけれどあなたにお願いするわ。けれど、また何かあれば私たちに知らせてちょうだい。」

 蒼雪たちの方でも話し合いは終わったが、放課後になってから時間も経ち、彼らはそこで解散をした。結局3組からは蒼雪、4組では瑞希の口から今回の件での仮説を説明することになった。

 教師の方から何か説明があればいいのだが、今回の件では何か説明があると思えない。蒼雪は翌日のことが面倒と思いため息をついた。彼としては面倒なことだから君島に押し付けたかったのだが、こうなっては仕方ないと諦めてみんなで帰路についた。
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