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1学期編 ~期末試験~

第5話

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 その騒ぎが起こったのは6月の下旬の月曜日(6月24日)だった。蒼雪と千春は、家賃の支払い日が翌日であるためポイントを確認していた。これは、蒼雪たちだけではなく他の相棒を組んでいるペアにも当てはまる行動だっただろう。確認を終えた彼らは今月分も払えること等の確認を終えるといつも通り学園に向かおうとしていた。


「おはよう、舞依、早乙女君。」
「…おはよう。」
「…あ、ああ、おはよう。」
「おはよう。どうした、正悟?」
「おう、気のせいかもしれないけど俺の気がするんだよ。」
「下がっている?」
「おう。」

 そう言って正悟は、創設に端末の個人評価のところを見せてくれた。そこには『2860』と書かれており、蒼雪の記憶している評価点よりも40点ほど下がっていた。

「確かに俺の記憶が正しいならば、下がっている。」
「だろ? だからなんでだろうって不思議に思ってよ。」
「あなたの評価が下がったからの減点ではないかしら?」
「そうかもしれねえけど、なんか腑に落ちねえんだよな。」
「…下げられても困るのは早乙女だけで済む。家賃の割合も変えるつもりはない。」


 舞依は正悟の収入ポイントが減ったとしても困るのは正悟だけで、私はその分も負担するつもりはないと言っている。今回は40点で済んでいるが、今後もこのまま下がり続けるのか、今回だけなのかその減点となる条件が不明なので現状は取れる対策がなかった。


 教室に入ると、今朝正悟は評価が下がっていたと言っていたが、他の人も同じことが起こっていたようでその話題で持ちきりだった。評価が下がった人と変わらない人の差は何であるか、評価が上がった人はいないのか、来ていた人の多くがその話をしていた。

「おはよう、新庄君。」
「おはよう。」
「新庄君たちも個人評価についての話は知っているかな?」
「ああ、正悟が下がったと言っていたよ。」
「やっぱり下がっている人はいるんだね。逆に評価が上がっていたりはしないかな?」
「俺たちは変わっていないよ。何が原因か推測はできていないのか?」
「うん。僕が聞いた限りの皆の情報だと判断できないね。濱島さんや車谷君にも聞いたけど、彼らは評価は変わっていないと言っていたけど、山木君や山本さんは下がったと言っていたよ。」


 濱島というのは、濱島 蓮花という女子生徒で前回の試験で君島とペアを組んでいた女子で、君島の取り巻きの中でも女子のリーダー的ポジションにいる女子だ。多少ギャルっぽいところはあるが面倒見はいいという話もあるが、内と外の扱いや敵と仲間という線引きもわかり易い女子だ。

 車谷は、車谷 浩介という男子で君島の取り巻きの1人だが、周囲に迎合するだけのように振舞っているが自己保身はうまく、自分だけは常に安全なところに居られるようにする狡賢い男子だ。

 山木というのは、山木 大地というこのクラスで最低評価点を持つクラスの問題児だ。誰も見ていないところでは暴力沙汰の噂もあり、授業中に居眠りなども頻繁なことだ。試験でもペアの女子にかなり迷惑をかけたという話で、その女子は自分の評価だけでも何とかして取ったという感じで何度もペアの交代を要求したという話だ。

 最後に山本は、山本 理奈という女子で、彼女は君島の取り巻きの1人だ。濱島に付き従っているだけのことしか知らず、特に目立ったような話は聞いたことがない。


 彼らに共通することは何かあるのか蒼雪は考えたが、噂や又聞きで聞いたことしか情報はないので彼らをよく知らず、早々に思考を放棄した。


「悪いがその情報だけではわからないな。」
「そうか…。もし何かわかったら教えてほしいな。みんな急に下がっていたことで動揺しているし、パニックを起こしているんだ。」
「大変だな、頑張れ。こっちはこっちで聞いてみる。」
「ありがとう、じゃあ、また。」


 君島はそう言うと、他のクラスメイトのところに行って話を聞いていた。評価が下がったことでイライラしている人もいて教室の中は騒々しく空気も悪かった。


「かなりの人が下がっているようね。」
「そうだな…。だが、こちらには情報がない以上、教師が来てから聞いた方がいいと思うのだがな。」
「けどよー、俺の評価も下がっているし、やっぱり早く知りたいじゃん?」
「なんだ、正悟も下がっているのか?」

 蒼雪たちが4人で話していると、詩音と響真がこちらにやってきた。


「おはよう、みんな。」
「おはよう。それで、早乙女君も、というのはあなたたちも?」
「いや、俺は違うが詩音がな。」
「うん。朝に連絡はないか確認をして序に評価も確認したら下がったかもしれないなって。それでも10だけだからもしかしたら気のせいかなって思ったけど、このクラスの雰囲気だと気のせいじゃない気もしたんだ。」
「そういうことね。早乙女君は40、朝香君は10…。この違いに当てはまることが何なのか、そこがわからないわ。」
「俺は詩音のことしか知らねえから何も思いつかねえな。それに10しか、と言えばいいのか10も、と言えばいいのかわからないが、どれくらいの減点が最低値でどれくらいの値が最大値だ?」
「俺もそれは聞いていないな。聞いてくるか?」
「いや、今は聞かなくていいだろ? 後で先生が教えてくれなきゃ情報収集して対策はするけどよ。」


 響真としては原因を知りたいという気持ちもあるが減点はどれくらいが最大で起こっているかも懸念事項のようだ。確かに、詩音が10で済んでいるなら俺のような高ポイント所持者からすれば10はまだ誤差の範疇だろう。しかし、これが100や1000のように減ってしまうなら、蒼雪と言えども注意していかないと評価がなくなってしまいかねない。

 教室は朝から騒々しくなり、隣のクラスからも下がったと言っている話も聞こえてきて、瑞希からも何が起こっているか情報を求められたが今は不明としか返せなかった。これが1つのクラスではなく学年単位で起こっていることは確かだろうということはわかったが、先輩は何も騒いでいる様子はなかった。それどころか、今年もか、というように面白そうにしていた。

 君島は先輩に聞いたようだが、直ぐにわかるとはぐらかされてしまったようで、特に情報は得られていなかった。


「おはよう。朝から1年生がうるさいと職員室でも頭を悩ませていたぞ?」

 月宮先生は教室に入り、朝のホームルームでそう呼びかけてきた。すると、君島は、

「騒々しくしてしまったことは申し訳ありません。ですが、クラスメイトに複数名、個人評価がかがったという人がいたのですが、原因がわからずどうしてそうなってしまったのか、自分たちで話し合っていたのでそうなってしまいました。」
「なるほど…。それで、原因は分かったのか?」
「いえ、それは…。」
「わからないか…。」

 そう言うと、月宮先生はクラスを見渡して誰かわかるやつはいるか? と言ってきたが誰も答える人はいなかった。


「0か…。まぁいい。だが、これで減点もあると分かったのだろう? 自分たちの生活態度や行動を見返して何が原因か考えてくれ。こちらがわざわざ評価基準を答える必要はないからな。」
「それは…!」
「何だ? 何か言いたそうだな、君島。いいぞ、許可する。言ってみろ。」
「それでは、失礼ながら言わせてもらいますが、これだけの騒ぎになっているのですから、少しは教えていただきたいと思います。何をしてはいけないのか、何をしていいのか、それがわからなくては対応のしようがありません。」
「私は言ったぞ? 自分の生活態度を見直せと。1から10まで教えてもらわなくてはできない年じゃないだろう?お前たちは自転車に乗るときに常に補助輪をつけているのか?」

 そう言われて君島は黙り込んでしまった。他の面々も下を向いて俯いていた。

「だが、情報を開示するなら1つだけ開示しよう。減点は10点刻みに行われている。以上だ。後は自分たちで考えてみろ。ちなみに言っておくが、減点は今回初めて行ったがこれからは毎週月曜日に減点がある人は引いていく。そこから考えてみろ。」

 月宮先生はそれだけ言い残して、ホームルームを終えて教室を出ていった。

 残された蒼雪や他のクラスメイトは、何が原因なのか話し合いたい気持ちもあったが、1時間目の授業に遅れるわけにはいかないので準備を整えて教室を移動した。


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