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1学期編 ~中間試験~

第55話

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月曜日、俺と千春は、いつも通り学園まで向かおうとした。

「それじゃあ行くか。」
「そうね。」
「…あれ、おはよう?」


俺たちが玄関を出たところで、急に声をかけられた。

「ん?ああ、おはよう。」
「おはよう。今日は舞依もこの時間なのね。」
「…ん。」

舞依がこの場にいることが確認できたが、辺りを見渡しても正悟の姿は確認できなかったので、

「正悟はどうした?」
「…まだ寝てる…かも?」
「起こさなくていいのか?」
「…起きなかったのが悪い。」

舞依はムスッとして機嫌の悪そうな顔でそう言った。
どうやら何度も起こそうとしたのだが、起こしてもなかなか降りてこず、様子を見に行くとまた寝ているということの繰り返しで起こす気がなくなったとのことだ。

さすがにそれを聞いて俺と千春も呆れてしまった。
そんなこともあったので正悟は置いて、俺たち3人で学園に向かった。

「おはよう。」
「おはよう。」
「よかった。蒼が早くに来てくれて助かったかも。」
「どうかしたのか?」

俺が教室に入ると、挨拶も早々に詩音が教科書を持って俺のもとに駆け寄ってきた。

「昨日も響真と勉強していたんだけど、ちょっと分かり難いところがあって響真も説明し辛いって言うから蒼か秀人に聞くしかないなって思って待ってたの。」
「そういうことか。どこの部分か教えてくれ。」
「ありがとう!あ、白崎さんと榊さんもごめんね、蒼を借りちゃって。」
「いいのよ。気にしないで。」
「…大丈夫。」

俺は荷物を机に置くと、朝から詩音にわからないと言われたところを教えていた。
俺が机に移動をすると、響真もやってきて一緒に俺の説明を聞いていた。

しばらくすると、一とペアの女子生徒が一緒に来たが、机に着くと別れて勉強を始めて彼もこちらにやってきた。

「おはよう。もしかして蒼雪に解説してもらってる?」
「おはよう、うん、そうだよ。」
「一もか?」
「…うん。」

一は申し訳なそうにしながら首肯した。

「わかった。まとめて教えるから今は詩音のからでいいか?」
「…!ありがとう。」
「いいよ、気にするな。それよりも話を聞くなら教科書とメモをするものを持ってきてくれ。」
「わかった。ちょっと待ってて。」

そう言うと一は、足早に机に戻りカバンから教科書とノートを持ってきた。

そして俺はチャイムが鳴るまで詩音の分からないところを中心に解説をしていった。

一応他の人に配慮はしたつもりだが、試験が近いということもあり勉強をしている人が多く、俺の声は小さくしたつもりだが周りで聞いている人が何人かいたが気にしないで説明をしていた。
あくまでクラスメイトというだけの人に懇切丁寧に解説してあげるつもりはないが、勝手に聞いている分には放置しておくのが一番だと思ったからだ。



「おはよう。以前から通達してあったと思うが、今週の木曜日と金曜日に中間試験を行う。だが、授業はいつも通りに進めるからな。試験範囲までは終わるように進行しているから、短縮されるということもないから各自予習もすることでカバーをしておくといい。
それと、今週は教師の研究室への立ち入りは原則として認められていないから、用事のある者は授業の終わりか研究室に入ってすぐのところで声をかけるように。間違っても奥までは行くなよ?試験問題に関する資料を置いたままにしている教師もたまにいるから見ていなかったとしても不正行為と同等の処分が下る。気を付けるように。以上だ。」

朝から月宮先生から注意があったが、今更教師に聞きたいことというのはほとんどないだろう。

余談だが、朝のホームルームを終えてもまだ正悟は姿を現さなかった…。
あいつはいつまで眠り続けるのだろうか…?


正悟が来ないまま俺たちは昼休みまで時間が過ぎた。
詩音たちと教室を移動していると、何故いなかったか理由を聞かれたが、起きてきていないだけと説明をしておいた。

しかし、ここまで何の連絡もなかったので廊下に出てから一応確認のために正悟に連絡をしてみると、どうやらあの後起きたようだが、体がだるくて検温してみると熱が出ていたようだ。

無理に勉強をさせすぎたのか正悟の身体は限界を超えていたようだ。
さすがにそう聞いたら無理をさせられないと思ったので、水曜に美に一気に詰め込む形になるが今は休めと伝えておいた。

正悟としても試験を受けられないというのはまずいと言うことは自覚しており、舞依にも迷惑がかかると言って、早めに治す努力をすると言っていた。


「舞依。」

俺は廊下で電話を終えると、舞依の元へと移動をした。

「…?」
「どうやら正悟は熱を出しているようだぞ?」
「!」
「さっき電話をしたらそう言っていた。」
「わかった。ありがとう。」

そう言うと舞依は荷物を片付け始めた。

「どうしたのかしら?」
「…ん、早退する。さすがに家に誰にもいないから面倒みる。早く良くなってもらわないと困る。」
「それなら先生にもそう言っておくわ。授業の内容は一応後で知らせるわ。」
「…ありがとう。」

そう言って舞依は荷物をまとめて帰宅した。

「そういうことだから、私も月宮先生に知らせて来るわ。」
「了解した。俺もついて行こうか?」
「いいえ。大丈夫よ。あなたは昼食を食べていてちょうだい。まだ食べていないでしょう?」

俺は千春にそう言われて、大人しく昼食を食べることにした。
俺たちのやり取りを見ていた響真と詩音は俺のところまできて事情を聞いて納得したようだ。

「正悟は普段から勉強してねえから一気に詰め込みすぎて熱が出たのか?」
「おそらくな。絶対とは言わないがそれが最も確率が高いだろう。」
「はぁ~。もうちょい普段からやらせておいた方があいつのためになるんじゃねえか?」
「素直にやりそうか?」
「う~ん、僕もやらないとは思うけど、毎回こうなっていたら大変だし少しずつやらせようよ。」
「それは詩音もだろうが。」

詩音と今日かはそんなやり取りをし始めた。
俺はその間に弁当を取り出して食べ始めていた。

しばらくすると連絡をし終えた千春も戻ってきて昼食の続きを食べ始めたが、俺たちが話しているところには参加せずに黙々と食べていた。

詩音や響真のことは互いに知っているがお互いに友達の友達という感覚なので、積極的に話すということはないようだ。

そして、この昼の間に、放課後になってから少しの間は響真たちの勉強も見ることになった。
瑞希と皐月の勉強も見なくてはいけないが、そちらは、こっちで教えた後でいいと言ってもらえた。

というのも、先に教えるほうは時間の区切りがあるので相対的な時間は減ってしまうものの後の方がゆっくり時間をかけて見てもらえるなら問題ないとのことだ。
また、俺が行っていない間は、千春が勉強を一緒にやるということで待つ時間は気にしないでいいと言ってくれた。



そして、午後の授業をいつも通り終えてホームルームも終えた。

「それじゃあ申し訳ないけど教えてもらっていいかな?」
「ああ、いいぞ。」
「それと、急で申し訳ないけど、僕のペアの子もいいかな…?」

一もこの放課後の勉強化に参加するが、それにあたってペアの子も一緒でいいか聞いてきた。

「俺としては1人が増えたところで大して変わらないが…。」
「俺もいいぜ?俺も一応教わる側だしよ。」
「僕もいいよ。」

ということで、一のペアのクラスメイトも参加することになった。

「よ、よろしくお願いします…。急でごめんなさい。」
「1人増えたところで大して変わらないから大丈夫だ。」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるな。私の名前は舞薗 優里まいぞの ゆうり。“ゆり”って読まれることが多いけど、“ゆうり”っていうのが正しいから。」
「そうか。よろしく頼む。おれは新庄蒼雪だ。それじゃあ、まずは古典から始めるか。時間も限られているし手早く進めよう。」

俺たちはそれぞれ簡単に自己紹介をして勉強会を始めた。
こっちの勉強会で使える時間は1時間30分として、残りの下校までの時間は瑞希たちと分けたのだ。
そのため、時間も限られているので無駄な会話は少なくし、早々に勉強に手を付けた。
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