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1学期編 ~中間試験~

第36話

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「俺がなぜこんな話をしたかというと、あの生徒会長がこの学園で中立派のトップとして他の派閥を抑え込むことができていたからだ。ここからは精度が高くない情報で申し訳ないが、勘弁してくれ。時間も少なかったし、何よりもオープンに話されていることではないからな。」

そう前置きをして俺たちのことを確認してきたので頷いた。

「さっきも言ったが、派閥の争いがある。それの抑止力として君臨していたのが会長だ。だからこそ会長は勝ち続けることで他の派閥が上に立つことがないようにしていた。中立派がどちらにも肩入れしないことで時間を稼いでいたわけだな。この学園のやり方に納得できているわけではないが、何もしないことで問題の先送りをしたくない会長は生徒会で学園内の争いを抑えることに注力していた。

 なんでも俺たちが入学する前にも何度か事件はあったらしい。他の派閥の連中も何とかしようといろいろと考えて試みたらしいが、事前に全部潰すか大した成果を得られないようにしていたみたいで、どうにもできなかったみたいだ。途中からは勝負に負けたら静観することを約束させたりなんてこともあったが、あの人は負けなかった。

 けど、そんなところに会長に勝てる人物が現れた。そりゃあ今までやり込められていた人物を倒せる人物がいるならどの派閥も手に入れたいと考えるわけだ。それこそ既に会長とそれなりの関係を見せつけているから中立派に入られたのではこの学園での活動がまたできない。しかも今年を乗り切れば来年からは活動できたかもしれないところに現れたんじゃさっさと取り込みたいわけだ。

 これらが今回の騒動が大きくなったことにつながるな。教員側も何人かは派閥にいるが基本的に無所属を表明して学生にそんなことはさせないようにしているらしい。『教え導くものが生徒を洗脳してはいけないだろう?』学園長はこう言って基本的には介入できないようにしているみたいだが、全て防ぐことはできず俺たちが巻き込まれた事件みたいなこともあるようだ。

 本島にこっちに来た人間を帰さないのはこういった問題を明るみに出すと向こうでも大きな問題になり、国内が混乱することを危惧しているかららしいぜ?」

 正悟はそう締めくくると、長い解説をしたことで喉が渇いたのか一気に手元のコーヒーを飲み干した。

 
 俺たちは話された内容のスケールが大きかったことに驚きを隠せず黙り込んでしまったが、時間が経ち話をそれぞれが飲み込み理解すると話を再開した。


「ありがとう、早乙女君。これだけの時間でよくそれだけのことが分かったわね?」
「いろいろあるんだ。そこは今は気にしないでくれ。」
「わかったわ。とりあえず今の話から私たち、いえ、蒼雪君に関係することを考えていけばいいのね?」
「…私たちもどこかに属する?」
「いや、それは悪手だな。属するということはしがらみもでき今後も多くの騒動に巻き込まれるだろう。それなら無所属の方がやりやすい。」
「だがそれはどこかに取り込まれる可能性もあるだろ?」
「確かにそれは否定できないがどこにいても大差はないだろう?」
「そればかりは体験者に聞くしかないな。」

正悟がそう言うとあの生徒会長の言葉を思い出した。
これはそのことなのかもしれない
勝ったからこそ目をつけられて騒動の渦中にいるが、いつかはどこかで目を付けられる可能性はどこかにあったのかもしれない。
だからこそ俺と接触することで、何かあったときに自分を頼るように誘導するタイミングを計っていたのかもしれない。

憶測でしかないが、会長の思惑がいくつか想定できた。

俺が黙り込んでしまったので、彼女たちはまたいつものように考えているのか、と俺の考えがまとまるのを待ってくれていた。


「とりあえず、今後もこう言ったことが起こることはできた。まずは会長にコンタクトをとるか。それにあの人は試験後の方が本格的に動く可能性があるとも示唆している。今は話を受け流して何処にも属さないという立ち位置でいこうと思う。」
「蒼が考えてそれでいいならいいと思うが、いいのか?」
「ああ。もともと俺はどこかに所属することが好きではない。好きにやらせてもらいたいんだ。そのうえでみんなには迷惑がかからないように立ち回るが、それでも何かあれば俺が何とかする。」
「いいえ。貴方がやりたいようにやってほしいわ。」

千春は俺の目をまっすぐと見てそう言ってきた。

「私はあなたの相棒よ?相棒ならあなたのやることを協力するし間違えればそれを止めなくてはならないもの。」
「…私も協力する。こんな私と一緒にいてくれる人だから。」
「俺も協力はするぜ?俺にもいろいろとあるからそのときは協力知ってくれるとありがたいけどな。」
「わかった、ありがとう。」

俺たちはそこでいろいろと話したが今日のことと、今後の立ち位置を決めることができた。


「それと、ちょっとそれに関係することで保険をかけておきたいんだがいいか?」

話は一段落したが正悟は何かを提案しようとしていた。

「どうしたのかしら?」
「いや、白崎も蒼の相棒として周りに知られているだろ?俺と榊は知られていても友人としてだろ?残りの休みの間は極力外出を控えて、俺たちに買い出しとかをさせてくれないか?俺と榊をここに泊めてもらう代わりにだけど。」

正悟の提案に舞依は何も言わないところを見ると事前に何らかの相談はあったのかもしれなかった。
何の相談もなく提案をしていれば舞依も何かを言ってきそうだからである。

俺と千春は目を合わせてどうするか、と思ったが、取りあえず舞依にも確認が必要だと思い、

「舞依はいいのか?」
「…助けになるならいい。それに、寮だと人が来るかもしれない。」
「響真たちもクラスメイトが来たって言ってるから榊も似たような状態でもおかしくないだろ?」

正悟は端末を操作しながら発言していることから今も連絡を取り合っているのだろう。

「そうか。俺はそうしてもらえるとありがたいとは思うが、負担にならないか?」
「貸し1つでいいぜ。」

正悟は笑いながらそう言ってきた。

「あら、あなたは既に蒼雪君に貸しがあるのではなくて?」
「うっ。そう言われるとな…。じゃ、じゃあこれで借りを返すってことでいいだろ?」
「ああ、そういうことならな。」
「…私はそう言うこと気にしなくていい。気になるなら困っているときに手伝ってくれればいいよ…?」
「わかった、そうしよう。」

俺たちは明日以降にどう動くか話し合ってからそれぞれの部屋に移り、風呂に入るなどしてこの日は休むことにした。

君島にも連絡をしなくてはと思ったが、詩音の所へ押しかけた連中もいたりして響真が一喝したと同時に今回の顛末を話してくれたようでこれ以上俺のことを探りに来ないように言ったらしい。
そのこともあって、メッセージで休み明けにでも話せることを話してほしいと連絡があった。


俺と正悟は風呂も上がり部屋に入ると、会話も少なく布団に入った。
この日はいろいろとありすぎて疲れもたまり、その後に面倒な話も聞いたので心身ともに疲れ切っていて久しぶりに朝までぐっすりと深い眠りについた。


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