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1学期編 ~中間試験~

第3話

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ゴールデンウィークの初日こそ千春とデートをしたが、それから3日間は家で勉強をしたり、買い物に行ったりと、普通の休日を過ごした。

30日の夜、俺の端末にメッセージが届いた。
メッセージの送り主は、4組の黒宮だった。

『今電話して大丈夫かな?』

俺は自室にいて、特に問題がなかったので、

『問題ない。』

そう返信したところ、黒宮からすぐに着信があった。


「もしもし?」
「もしもし?久しぶり。」
「確かにこうやって電話越しとはいえ話すこと自体が久々だな。」
「ははは、さすがにクラスが違うと話しかける機会がそんなに多くないし、タイミングがつかめなかったんだよね。」
「そうか。だが、こうやって電話してきたということは何か用があるのか?」
「あ、うん。そのことなんだけど、新庄君は白崎さんと相棒だよね?」
「ああ、確かに千春と相棒だ。」
「そっか~。」
「そのことがどうかしたのか?」
「ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど、ダメかな?」
「かまわないが、さっきの質問の意図は何だ?」
「そのことも含めて相談したいかな。」
「…わかった。それで、相談とやらは直接会ってするのか?それともこのまま電話でいいのか?」
「できれば会って相談したいけど、白崎さんに許可もらった方がいいかな?」
「一緒じゃダメなのか?」
「う~ん、できればこの話を聞いている人が少ない方が私は嬉しいかな。加えるならクラスにいる男子以外の男子で。」
「それで俺というわけか。」
「うん。それに、他の人に話したりしなさそうだしね。」
「誰にも話すなと言うなら話すことはないだろうな。ちょっと待っててくれ、千春に言ってくる。」


俺は通話状態のまま千春の部屋へと移動した。
千春の部屋をノックしても返事がなかったので一階に降りてみると、千春はリビングで紅茶を飲んでいた。

「こっちにいたのか。」
「あら、どうかしたのかしら?」

千春はこちらに気が付き、顔を向けてきた。
紅茶を飲んでいるだけかと思ったら、すぐそばに小説があり、部屋ではなくこちらで読書をしていたようだ。

「ああ、黒宮から連絡があってな。」
「黒宮さんから?」
「ああ。それで、会うことになったが黒宮は相棒である千春に許可を得た方がいいんじゃないかってな。」
「なるほど、そういうことね。今も通話状態なのかしら?」
「そうだ。」
「じゃあ、代わってもらえるかしら?すぐに終わるとは思うわ。」

俺は千春のそう言われ、手元にあった端末を千春へ渡した。
他人の通話を聞くことはしたくないので、少し距離を取るようにキッチンへ行き、自分の分のコーヒーを淹れた。

俺は少しの間コーヒーを飲みながら時間を潰していると、聞かないようにしているが千春の相槌や返事が聞こえてしまっていた。

(思っていたよりも話し込んでいるな。)

コーヒーを淹れて飲んでいる間には通話が終わると思っていたが、何か他のことも話しているようで長かった。

コーヒーを飲みながらどうしたものか、と考えながら待っていると、

「ごめんなさい、思ったより話し込んでしまったわ。」
「いや、別にかまわない。それよりも何を話していたんだ?」
「それは彼女に聞くことね。私からは教えられないわ。」
「そうか。」

俺は千春から端末を受け取ると、飲みかけのコーヒーを持って自室へ戻りながら通話を再開した。

「それで、俺と会うことについて千春は許可をくれたのか?」
「うん、大丈夫だって言ってたよ。」
「そうか。それなら、いつにする?3日か4日だと先約があるのだが。」
「それなら明日か、明後日はどうかな?」
「問題はないがどこにする?場所によっては混むことが予測されるぞ?」
「あ~、そっか…。う~ん、でも、できれば早いと助かるから明日かな?」
「わかった。場所に関しては少し考えてみるが、どういった場所がいい?お互いの知り合いがいる場所は避けたいとかそういうことはあるか?」
「できれば新庄君の言うように知り合いが来そうな場所は避けたいかも…。」
「ふむ…。」

俺たちは互いに少し考えこんでしまった。
俺は知り合いがいない方がいいと言われなければ先輩たちのお店でいいんじゃないかと考えていたのだ。
あのお店は俺の知り合いには知られているものの、学生の経営するお店としては比較的静かなところにあり相談事をするならちょうどいい場所だった。

「それなら一度ショッピングモールに行って考えてみるのはどうかな?」
「ショッピングモールだと人が多いかもしれないぞ?」
「私もそう思ったけど、あえてそう言う場所の方がコソコソしていない分相談事をしていてもそう思われないかなって。」
「なるほど。俺は黒宮がそれでいいなら、それでかまわない。」
「うん。じゃあ、明日ショッピングモールで!待ち合わせもバスを降りたところでいいよね?」
「行ったことはないが、分かり難い場所ではないんだろう?」
「多分、大丈夫だと思う。」
「そうか。ならそれでいいぞ。見つけられなければこちらからも連絡をする。」
「わかった。明日よろしくね。」
「ああ。また明日。」

そう言って俺は黒宮との通話を終えた。

俺は千春へと決まったことを伝えるためにコーヒーを飲み干して1階に移動した。



―――――黒宮side

はぁ、男子と通話するのなんて初めてで緊張しちゃった。

私は先ほど通話していた相手のことを想いながら端末を胸に当て過去に想いを馳せていた。


電話をしてまで相談したいと思ったことがあったのは確かだ。
けれど、それ以上に彼の声が聞きたいと思ってしまったのだ。
彼は覚えていないかもしれないが、私は彼と会ったことがあった。
当時の彼の側にも女の子がいた。

(新庄君は変わらないな…。だから、彼のことを知った女の子はみんな彼に興味を持っちゃうんだよ。)

体育館での一件、彼は、真田君と言う不良のトップと同種だと言っていた。
何か通じ合っているかのようで今にも衝突しそうな空気だった。
その時の彼の目はあの時と同じだった。
どこか怖いところがあるように思えて、どこか彼は優しい。
私もそれほど新庄君のことを知っているわけではないが、どちらも新庄君であって、彼が普段隠している一面なのかもしれない。

私は、新庄君のことを考えていたが、まだお風呂にも入っていなかったのでお風呂に行く用意をして、明日に備えて早めに寝ることにした。


――――――新庄side


俺は1階に行くと、千春は新しく淹れた紅茶を飲んでいた。

俺も千春に紅茶を淹れてもらうこともあり、おいしいと思っていて千春の淹れてくれる紅茶は好きだが、普段飲んでいるブラックのコーヒーも好きだった。
千春は自分で入れていることもあって紅茶の方が好きだというが、コーヒーも飲めないわけではなかった。


「電話は終わったのかしら?」
「ああ。そのことで一応伝えておこうと思ってな。明日、黒宮と会ってくる。」
「そう、わかったわ。」

そう言うと、読んでいた本をパタンっと閉じてこちらを見上げて、

「こんなことを言う私自身が嫌なのけれど…、」

そう言って一度言葉を区切り、迷うようなそぶりを見せてから、

「確かにあなたは答えを出していないし、今の法律では重婚もできるから二股だって許される。けれど、私は嫉妬してしまっているわ。あなたを他の女子と二人きりで行かせたくないと思うけれど、あなたは優しい人。こんな私のことも支えてくれる。だから、黒宮さんもあなたを頼ったのかもしれないわ。きっとあなたのことだからこれから先も多くの女の子が頼ってくるかもしれない。その度に嫉妬してしまう私もいるし、他の子も嫉妬するかもしれない。何が言いたいかはわからないかもしれないけど、一応言いたいことは伝えたわ。」

「…なんとなくだが、言いたいことは伝わった。あまり待たせず答えを必ず伝える。嫉妬させることはこれから先もあるがそれで嫌になったらそう言ってくれ。こんな男に千春が愛想をつかせてしまっても仕方ないことだからな。」

「そんなことにはならないわ。私はあなたを信じることしかできないけれどね。」

そう言って千春は飲み終えた紅茶のカップをキッチンに持って行ってしまった。
俺は少し立ち止まったままでいたが、飲み終えたコーヒーカップを持って俺もキッチンへ行った。

キッチンでカップを洗っている千春は俺のカップも洗ってくれたが、先ほどの会話の続きを話すことはなかった。

「私は部屋に戻るわ。」
「そうか。」
「ええ。あなたも早く休みなさい。寝坊して女の子を待たせてしまってはダメよ?」
「わかっている。」
「それならいいけど、おやすみなさい。」
「おやすみ。」

千春は俺にそれだけを言うと自室へと戻っていった。
俺はすぐに寝る、という気分ではなかったが千春にも早く寝るように言われたこともあり、少ししてから俺も自室へと戻った。
部屋では落ち着かなかったのでストレッチをして、少し体を動かしてから明日のことを考えながら寝ることにした。

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