上 下
47 / 162
1学期編 ~中間試験~

プロローグ1

しおりを挟む
―――――私は彼のころが好きだっただけだ。


私も以前はよく笑っていた。
彼も私の笑顔が好きだと言ってくれた。


私はよく涙を流していた。
けど、彼はいつも私を慰めてくれた。
彼は私が涙を流すたびに私の笑顔を取り戻してくれた。


私は些細なことでも彼に怒ってしまっていた。
それでも彼は、私の怒りを抑えようと謝り話を聞いてくれた。
最後に私が「ごめんね。」と謝るとその度に許してくれた。


けど、そんな彼はもういない。

彼は私には自分の心に抱えていることを言ってくれなかった。
誰も彼の心のうちに気づいてあげられなかった。
家族や友人も気づけなかった。

―――――そして、恋人である私も。


周囲の人は口々に言った。
彼が命を絶った原因が私であると。
優しい彼に甘えていただけだと。
お前が彼をそこまで思いつめさせたと。

私は必死に弁解した。
私のせいじゃない。
彼が話してくれなかったからだ。
私だって知ろうとしたんだ。

いくら言葉を重ねたとしても周囲の意見は覆らない。
しまいには彼の家族でさえ、私のせいにした。
自分たちも気づかなかったことを棚に上げ悪かったのは私だ、私たちの責任ではないと言ってきた。

私は感情が抑えきれなかった。
どうして、みんな私のせいにする。
どうして、私の何が悪かったんだ。
どうして、私にしか責任がない。

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして……


私はそれからしばらく学校を休んだ。

誰にも会いたくなかった。
勉強は今まで真面目にやってこなかったけど、教科書を読むしかやることがなかった私は何度も同じ教科書を読み続けた。
問題集も何度同じものを解いたかわからない。

繰り返し同じことをしていることは苦にならなかった。
彼がいなくなってから私の世界の色は無くなってしまった。

彼以外の私の感情を受け止めてくれる人はいないだろう。
彼以外に私を理解してくれる人もいないだろう。

気づけば私の感情は希薄なものになっていた。
私の心が動かされることが少なくなっていた。
けど、私の世界にいるのは私だけ。
だからそれでも問題ないかもしれない。

時間が経ち、私は学校にまた登校するようにした。
親とも最低限の会話をしてこなかったから会話の仕方を忘れてしまった。
けど、誰も私に話しかけてこようとしなかった。
だから私からも話しかけに行くこともなかった。


3年で進路を考えるときに先生から呼び出された。

『相棒共生学園』
聞いたことはあったけど、なぜ、先生は私なんかをこの学園に勧めるのだろう?
特に目指すものがない私はこの提案を受けて受験した。

そして合格していた。



―――――私は一人でもよかった。

―――――けど、気づけば私の近くに人がいた。


どうせ私のことを気にかけることもなくなるだろう。

私のことを気にかけてくれる人なんてもういないのだから。

私は彼らに対して、感情が抑えきれなくなりそうなこともあった。
けど、私はそれでも抑える。
私の感情は重過ぎるのだ。
きっと、また耐え切れなくなっていなくなってしまうだろう。

そして、私の事情を知る人がいた。
同じ学校から来たわけではないはずなのに知っていた。

何故知っている?
何故それでも側にいる?
わからない。
わからないことは考えない。

そして今日も私は、いつも通り、機械的に1日を過ごす。
それが誰も傷つかない唯一の方法だから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

十条先輩は、 ~クールな後輩女子にだけ振り向かれたい~

神原オホカミ【書籍発売中】
青春
学校で一番モテる男、十条月日。彼には人に言えない秘密がある。 学校一モテる青年、十条月日。 どれくらいモテるかというと、朝昼放課後の告白イベントがほぼ毎日発生するレベル。 そんな彼には、誰にも言えない秘密があった。 ――それは、「超乙女な性格と可愛いものが好き」という本性。 家族と幼馴染以外、ずっと秘密にしてきたのに ひょんなことから後輩にそれを知られてしまった。 口止めをしようとする月日だったが クールな後輩はそんな彼に興味を一切示すことがなく――。 秘密を持った完璧王子×鉄壁クール後輩の 恋心をめぐるボーイミーツガールな学園ラブコメ。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想:2021年、投稿:2023年

処理中です...