6 / 162
入学編 ~特別試験~
第5話
しおりを挟む試験が開始しておよそ一時間、俺たちは問題を一つ解いてまだ体育館に留まっていた。
「なぁ、蒼、やっぱり先にスタンプ押しに行かないか?ここまで考えているだけだと他の連中から遅れそうっていうか…。」
正悟は問題を眺めてはうなっているだけで、あまり戦力になら無そうだった。さらに、現状で体育館に残っているのは俺たちを含めても数人しかいない。このことが余計に彼を焦らせているのだろう。
「落ち着け、まだ時間はある。焦らずに問題をよく見ろ。何か気付けるかもしれないだろ?」
「けど!」
正悟は何か言おうとしたが、結局何も言わず問題に向き直った。
何か手掛かりがあればいいのだがな。問題しかなく、ヒントもないのでどのような方法でアプローチすればいいのか俺は悩んでいた。少しすると、正悟は思考を口から漏らしたのか
「んー、最後のはサンズイとか水に関する漢字だろ?ってことはやっぱり水辺なのか?でも…、そんな場所はいくつかあるし、てか、こんなの聞いたこともないし、昔の言葉なのか、これ…?」
そんな言葉が聞こえてきて、俺はとある科目の教科書を思い出した。
「なるほど、そういうことか。」
「え、何?なんかわかったのか!」
「お前が口に出してくれた言葉で、⑧がわかったぞ。」
「本当か!で、どこなんだよ!」
「まぁ、落ち着け。さっき自分で口にしただろ?昔の言葉なのかって。確かに現代ではあまり使われない表現だが、すべて同じ場所を意味する漢字だ。」
「そりゃあ、問題そう書かれているからそうなんだろうけど、ヒントはないのか?」
「そうだな、二つ目の漢字(湊)はそのまま、現代と同じ発音をするぞ。」
「そういわれても地図にこんな漢字は載ってないぞ?」
「確かにそうだな、だが、それはこの島でだな。この漢字は地名としても使われていたりするからな、人によってはボーナス問題かもしれない。」
「悪い、ギブアップ。答えを教えてくれ。」
「そう簡単にあきらめるなよ、最後の二つはその場所をイメージすれば確証は持てなくとも候補なら出るんじゃないか?」
「最後の二つ?あー、まぁ…うーん…。」
少し考えこむと、
「海か?浦って海だろ?それに泊って泊まるって読むし、海に泊まる…、そうか船か!っていうと船が止まる場所といえば港だろ!」
「おそらくな。俺が考えたのも港だ、いくつか港はあるだろうが、その中で俺たちに関係する港は最初にこの島に着いたときに利用したあそこだな。」
自問自答しながら俺が導き出した解答と同じ解答を正悟も思いついたようだ。
「それに、後で調べてみるといい。どれも日本史や古典などで“港”を意味する語として使われているぞ。」
「へぇー、そうなのか!なんにせよこれでもう一つ解けたな!」
正悟は嬉しそうに俺にそう伝えてきた。だが、ここまでで時間を消費した時間から考えると、押しに行く時間も含めると急いだほうがいいのかもしれない。デパートと港では距離が開きすぎているからだ。俺たちが利用するだろう施設と言っていたが、それだけでもかなりの範囲だと再確認した。
ここまでかかった時間が気になり、壁にかかっている時計を見上げると、夕日が差し込んでいることに気が付いた。
もう日が沈みつつあるか、俺はそんなことをふと思ったが、
「そうか、日没か。」
思わず口にそう出していた。
「どうした、蒼?確かにもう日が暮れるよな。けど、冬よりだいぶ日が出ている時間も伸びてきよな~。」
「ああ、そうだな。そして問題にも同様のことを意味する言葉が書かれている。多少強引だが、もしかしたら、というような答えも思いついた。」
「まじかよ、くっそ~、俺も一つぐらい自力で解いてやる!で、どれがわかったんだ?③か?」
「そうだ。これだけ短い問題だからな、もしかしたらって考えだ。それでもいいか?」
「構わないぜ、もったいぶらずに教えてくれよ。」
正悟は気になるというのが隠せない様子で俺に聞いてきた。
「まずは、黄昏時、これは日没のことだと思う。そして、直接日没に関わるような場所はこの島にない。敷いてあげるなら岬にある灯台を連想したが、あまり関係ないだろう。次に、日沈で連想したことは方向だ。そして、日が沈む方向は西。だから、西にある場所もしくは施設だと当たりを付けた。」
「うーん、多少強引だが、考え方としては悪くないかもしれないが、西ってだけだと範囲が広すぎないか?」
「俺もそう思っていたよ、だが、地図を見ると実は西という名称が入った場所はほとんど無かったんだ。それに、西だけじゃなく方角を表す漢字の入った区域とかはこの島ではほとんど使われていないらしい。そこで、次に大地って言葉が何を表すのか考えてみると。」
俺は、端末で当たりを付けた場所を正悟に見せて、
「そのままの意味でグラウンドを指すんじゃないかとな。」
「なるほどな、西のグラウンドって素直に表現するんじゃなく回りくどい感じでそう表したってわけか。」
「おそらくな。それに、グラウンドについては、東と南もあるようだ。他のクラスでも似た問題があるのかもしれない。いくら担任が考えたといってもすべて考えるのは面倒だろうし、誰かの考えを真似る可能性もあるだろう。」
俺はそう正悟に言って、一息ついた。これで三つ、まだ半分も解いていないが、果たしてこのやり方が気と出るか凶と出るか俺にはまだわからなかった。
俺たちが三つ目を解き終えるころには、体育館に残っているのは俺たちだけとなり、何人かの教員たちが俺たちを見ているだけだった。時折、電話を受けている様子や、何か注意するような声も聞こえてきていたから生徒が何かやらかしたのだろう。
「蒼、ちょっといいか?」
問題を見ながら考えていると、正悟がまた話しかけてきた。
「どうした?」
「少し休憩しないか?コンビニが近くにあるし夕飯買いに行かないか?腹が減ってきちまってよ。」
正悟は少しバツが悪そうにそう言ってきた。もうすぐ19時か、確かに夕飯を食べることを考えると買いに行ってもいい時間かもしれない。
「そうだな、買いに行くか。」
「サンキュー!じゃあ行こうぜ!」
何時間ぶりに体育館を出たのだろう、入ってきたときはまだ日が高く昇っていたが出た今となっては沈んで、街頭や建物からの明かりがあるに過ぎない暗さだった。
「だいぶ時間経ったよな~、みんなどれくらい集めたんだろう?」
コンビニに向かっていると、正悟は俺にそう切り出してきた。
「わからん、だが、多くても二つか三つじゃないか?解くのに時間をかけている俺たちだが、移動しながらだとどうしても手間も増える。」
「そうだな~、そうだといいな~」
そう言って、何かを考え始めたのか正悟は静かになった。
港がある場所とは別の方向だが、コンビニは体育館から歩いて十分ほどの所にある。おそらく運動部とかが部活帰りに利用しやすい立地なのだろう。集客という点ではうまい場所を選んだのかもしれない。正悟と俺は特に何もなくコンビニに着いた。
「夕飯に何食べようかな~」
正悟はそう言いながら店内の散策を始めた。この辺りにいる生徒が今はほとんどいないのだろう。俺たち以外には客がいなかった。
「正悟、夜間も探索をすることを考えると、飲み物と、簡単に食える物でいいから余分に買っておけ。何度も買いに行くのは面倒だからな。」
「了解!」
そう言って、互いに弁当と飲み物、それと菓子パンなど買ってからコンビニを出た。
購入の際は店員に説明してもらいながらになったが、端末を利用して買うのだが、電子マネーで購入するのとやり方は変わらなかった。残高を確認すると確かに減っていた。
「さて、これからどうする?」
店を出てすぐに正悟は俺にそう聞いてきた。
「方針を少し変えてもいいか?」
「いいけど、どうした?」
「全く集めていないことに俺も危機感を覚えてな、ここからだと少し距離が伸びるが港のスタンプを押しに行かないか?夜間に近づくのは危ないかもしれないが、解けたものの中では一番遠くにあるから今のうちに行くべきかもと考えてな。もちろん道中も考えられるだけ考えて問題を解いていこうと思う。」
「なるほど、了解!にしても今回はよくしゃべるな!入学式前はあんなに話しかけてもそっけなかったのによ。」
からかうようにそう言ってきたので少し恥ずかしくなってしまい、
「時間がもったいない、さっさと行くぞ。」
俺はそう言って足早にコンビニを後にして港へ向かった。
「ちょ、待って、待ってくれよ、蒼!」
そう言って笑いながら正悟は俺についてきた。
現在時刻19:50 18:00までおよそあと22時間 現在集めたスタンプ0
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる