私が一番近かったのに…

和泉 花奈

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7章:一番近くに...

52話

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私は一泊二日の一人旅を満喫したので、自宅へと帰宅した。
旅行自体は目的もなく、自由気ままに旅をした。
適当な駅で降りては、街並みを散策し、ひとしきり楽しんだ後、近くのホテルに泊まった。
久しぶりにぐっすり眠ることができた。そのお陰で、気分も変わってスッキリし、気持ちが明るくなった。

帰宅し、家に戻ると、手紙に書いた通りに、愁はポストに鍵を投函しておいてくれていた。
ベッドも綺麗に整頓されており、何事もなかったかのように、痕跡が一つも残されていなかった。
どっと疲れが押し寄せてきて、急に喪失感が私を襲った。
ここに愁が居たのだと思うと、私の心の中はどんどん荒れていった…。
旅行をしている間は、知らない土地にいたからこそ、一瞬でもあなたを忘れることができた。
でも、ここに戻ってきた途端、一気に心が落ち着かなくなった。
ここに居たらダメだ。気持ちを上手く切り替えよう。
アルバイトも辞めたことだし、暫くの間は時間がある。
もちろん、ちゃんと大学に通い、勉強もする。
でも今まで遊んでこれなかった分も、遊ぶことにした。
幸い貯金はあるので、当分はお金に困らないはず…。

少し休んだら、新しいアルバイト先でも見つけてみようと思う。
次はカフェで働いてみたいな。なんだか楽しそうだ。
それに、素敵な男性にも出会えそうな予感。

そうだ。これを機に、友達に合コンにでも誘ってもらおうかな。
今までバイトが忙しいからと、適当な理由をつけて断ってきたが、今は好きな人もいないし、これは新しい恋へ進むチャンスでもある。
早く愁のことを忘れるためにも、新しい出会いには積極的に参加してみようと思う。
ふと、携帯電話の電源を切っていたことを思い出し、慌てて電源を入れてみた。
電源が付くと、たくさんのメッセージが届いていた。
その殆どは大学のお友達からで、学校を休んだことを心配してくれていた。
そして、アルバイト先のお友達からも、メッセージが届いていた。
急にアルバイトを辞めることになったので、心配してメッセージを送ってくれたみたいだ。
中でも私が目についたのは、中山くんからのメッセージだった。

“大平さん、バイト辞めたんだってね。大丈夫?”

そして、もう一件メッセージが届いていた。

“話したいことがあります。連絡をください”

中山くんがわざわざ私に連絡をしてきたということは、何か愁のことで話したいことがあるのかもしれない。
でも、今の私には、愁の話が聞ける程の心の余裕なんてない。
なので、大学の友達にだけ返信をし、アルバイト先でできた友達には誰にも返さなかった。
中山くんにだけ返さないというのは、私自身が嫌だった。
せっかく、親切心で連絡してきてくれた気持ちを、無下にすることはできなかった。


           ◇


暫くの間、塞ぎ込んでしまい、自宅に引き篭っていた。
誰の連絡にも返事をする気力すらなく、数日間、大学をお休みした。
暫く休んでいたら、このまま何もしないのは良くないと思い立ち、突然、ふらっと大学へ赴いた。

友達に、「何かあったの?大丈夫?」なんて、心配された。
自分では、そんなに心配されるほどのことではないと思っていた。
時間の感覚があまりなく、どうやら私は、あの日に取り残されてしまったみたいだ。
愁を失った痛みがあまりにも大きすぎて、自分の中でまだ上手く消化できていなかった。
前に進むと決めたくせに、相変わらず、くよくよしてばかりいた。

「ねぇ、幸奈、気晴らしに合コンに参加してみない?」

今までずっと私は合コンを避けてきた。
愁とはセフレという関係ではあったが、愁以外を好きになることが想像できなくて、あまり気乗りがしなかった。
でも、今の私には何の柵もない。いっそのこと、愁を忘れられるチャンスだ。これは行ってみるしかない。

「たまには、参加してみようかな」

「誘った手前、こんなことを言うのはおかしな話だけど、本当に来るの?
気持ちは嬉しいけど、まさか幸奈が本当に参加するなんて思ってもみなかったから驚いたよ」

自分でも自分に驚いた。まさか自分が合コンに参加する日が訪れるとは…。

「そんなに驚かないでよ。私もそろそろ参加してみようかなと思ったの。それで、合コンはいつやるの?」

こうして、私は人生で初めての合コンを体験することとなった。
開催日時は数日後で、同じ大学の別の学部の人とやることになっているみたいだ。
案外、世間とは狭いものだ。そんな狭い社会の中でも、あれから私は愁と大学内ですれ違うことすらなかった。
今までだって、すれ違ったことすらなかったのだから、当然だ。
早く愁のことを忘れて、新しい恋をして、彼氏がほしい。

「知ってた?幸奈って結構、モテるんだよ。幸奈と話したいと思ってる男子、いっぱいいるんだから」

合コンに行く前に、友達がたくさん励ましてくれた。
友達はいつもそうやって、私の背中を押してくれる。
愁が好きだった頃は、その気持ちが有難いと思いつつも、愁を好きだという気持ちが邪魔をし、耳に入ってこなかった。
何もない今の私には、すんなりと耳に入ってきた。
私がモテていることは知らなかった。今まで意識したことすらなかったから。
もし、私を好きだという人がいるのであれば、今すぐにでも目の前に現れてほしいくらいだ。

友達の励ましを有難いと思いつつも、もうすぐ初めての合コンかと思うと、途端に緊張してきた…。
今までアルバイト先以外で、男子と関わることはなかった。
男性と関わることを避けてきたわけではないが、大学に通い始めてできたお友達は、女子しかいなかった。
皆は合コンに頻繁に参加していたが、私は真面目に生活してきた。

そうこうしているうちに、自然と大学内での立ち位置も決まっていた。
今ならまだ間に合う。時間はたっぷりとある。これから色々な人と知り合っていけばいい。
もしかしたら、その中に運命の相手がいるかもしれない。
心の底から楽しみと言えるほど、まだ吹っ切れてはいない。
心の中のどこかで、まだ愁のことを引きずっている自分がいる。
気を抜くと、すぐ愁のことばかり考えてしまい、胸が痛む。早く忘れたいという気持ちばかりが生まれ、焦ってしまう。
焦れば焦るほど、気持ちは余計に消せなくなっていき、浮かんでは消えての繰り返しだ。
段々とそんな自分に苛立ち始め、もういい加減に前を向けと、自分を鼓舞し続けた。
そうやって、自分を鼓舞し続けたせいか、いつしか考える回数も減っていき、私はようやく前を向いて歩けるようになった。

そうこうしているうちに、時間は過ぎていき、とうとう合コン当日を迎えた。


            ◇


「カンパーイ!」

お酒が飲める人はお酒を飲み、飲めない人はノンアルコールとなった。
もちろん、私はまだ年齢的にお酒が飲めないため、ソフトドリンクを注文した。
あまりこういった場に慣れていないため、戸惑うことも多いが、徐々に慣れていけるよう、頑張ることにした。

「それじゃ、女子から自己紹介を始めたいと思います!」

友達は慣れているため、率先して自分をアピールしていく。
私は上手く前に出れず、モジモジしているだけだった。

「次は幸奈の番だよ」

早くも自分の番が回ってきた。
どうやったらいいのか分からず、テンパりつつも立ち上がり、自己紹介を始めた。

「えっと…、初めまして。幸奈です。こういった場にあまり慣れていませんが、どうぞよろしくお願いします」

なんとか自己紹介ができた。テンパって噛んだりしないでよかった…。

「へー、幸奈ちゃん、可愛いのに合コンとか慣れてないんだ」

いかにもチャラそうな見た目の男性に絡まれた。
しかも、アルコールが入っているせいか、よりフランクであった。
こういう場に慣れていない私には、とても絡みづらかった。

「おい。怯えてるだろうが。悪いな。こっちで適当にあしらっておくから」

私を助けてくれた人は、短髪で長身の怖そうな目つきの人だった。
どこか愁に似ているような、そんな雰囲気を持った人だった…。
一度意識してしまうと、目が離せなくなってしまった。
そうだ。私、助けてもらったのにも関わらず、お礼が言えずじまいだった。
どうしよう。どのタイミングでお礼を言おうかな?
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