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6章:壊れていく音と、あなたの優しさ

42話

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コンビニは本来、買い物をする場所であって。お喋りをしに来る場所ではない。
彼女に至っては、買い物よりも、愁に会いに来ることが本来の目的となっていたみたいだが…。
やっぱり私の知らないところで、周りから色々言われていたのかもしれない。不快に思うお客様や従業員だっていたはず。
だとしたら、愁への負担があまりにも大きかったということになる。
愁はずっと一人で抱え込んでいたのかと思うと、彼女への気持ちが薄れていくのも、分からなくはないなと思った。

「店への迷惑も考えて、彼女に言ったんだ。来るのは控えてくれないかと。最初は理解してくれていたんだが、次第にエスカレートしていって。来ないでくれと言ったはずなのに、友達を連れて遊びに来たり。本当に迷惑だった」

付き合っている恋人のお願いを無視し、自分の気持ちだけを優先するなんて、とても身勝手な行為である。
私も人のことをあれこれ言えた立場ではない。愁にセフレになって…と、一方的にお願いして、関係を持った。私も愁の彼女と同罪だ。

「それだけじゃないんだ。彼女は俺がバイトしてお金を持ってるからという理由で、デートの度に欲しい物を買ってくれと要求してきたり。俺が幸奈を送ってることも嫌だって言ってきたり。夜道に女の子一人じゃ危ないってこと、分かってるくせに。それに、この間の旅行も、女と行ったの?とか疑ってきたり。全てが重く感じてしまった…」

物を催促するのはよくない。いくらアルバイトをしているとはいえども、限度がある。
それに、彼氏のお金は彼氏のモノだ。汗水垂らして働いた、貴重なお金。それを我が物顔されれば、誰しも嫌なものだ。
それに、彼女が異常に私を拒む原因は、単純に女友達と仲良くしているのが嫌なのか、或いは女の勘で私達の関係を見抜いているのかもしれない。

「色々と合わないことが増えていくと、身体の相性も合わなくなっていくんだ。
いや、最初から合っていなかったのかもしれない。顔が可愛いからいいやって流してきたが、幸奈としてみて、これが相性が合うってことなのかって分かり始めてから、段々とセックスレスになっていったんだ」

彼女は愁にたくさん甘え、愁はたくさんその甘えを受け入れて…。
気がついたら、いつの間にか大きな溝が二人の間にはできていた。
先に気づいたのは愁の方。気づかないまま、愁の不満さえも聞き流していたのは彼女。
さっき手遅れじゃないと言ったけれども、もう元に戻るには、少し難しいのかもしれない。

「そうだったんだ。あんまりセックスはしてないって話は聞いてたけど、避妊をちゃんとしなかったこと以外にも原因があるの?」

踏み込んだ質問をしてみた。ここまできたら、何でも恥ずかしがらずに、聞いてやる!という、強気な姿勢で挑んだ。

「避妊しなかったのは、彼女としてる時、俺、全然気持ちよくなくて。
避妊しない方が気持ちよくなれるか試したくて、試した。
もちろん、彼女からは叱られたし、余計に束縛される回数が増えたけど」

「え?どうして、束縛する回数が増えちゃったの?」

「私のこと大事にできないってことは、他に女がいるかもしれない。
他の女のところにいってほしくないから、束縛しちゃうって言われた。
俺はそれがきっかけで、分からなくなった。この子のこと、本当に大事に想っているのかなって」

人を好きになることって、簡単なことじゃない。何度だって迷うし、たくさん悩む。
愁は初めての感情に、戸惑っているのかもしれない。
これが好きって感情だと、気づいていないみたいだ。

「正直、二人の問題だから、他人がとやかく言うのは憚られるけども、愁の気持ちを聞いて、私が思ったことは、」

本当は言いたくない。このまま何も言わずに、気づかせないで、私に振り向かせたい。

「愁はきっと息苦しかったんだよ。彼女が自分の話を聞いてくれないことに。
それでも彼女が好きで、たくさん悩んだんじゃない?」

そうだったのかと、納得する顔でもするかと思いきや、悲しい傷ついた顔をしていた。
彼女のことを傷つけた時よりも、悲しそうな顔だった。

「幸奈の言う通り、俺はずっと彼女に、自分の話を聞いてほしかっただけなのかもしれないな」

あの一瞬だけ見せた悲しげな表情はすぐになくなり、いつも通りの愁に戻っていた。
あれは一体、何だったのだろうかと、思う余裕すらないくらいの早さで、瞬時に愁は表情を切り替えた。

「どんなに彼女が俺の話を聞いてくれたとしても、一つだけ問題が生じる」

「問題って?何か他にも不満があるの?」

「どうしても身体の相性だけは、今後もついて回ることだから。幸奈が本当に一番気持ちいいから、幸奈には勝てないんだよ」

先程もどさくさに紛れて、そのようなことを言っていた。そんなに私と身体の相性がいいってことなのだろうか。
しかし、これは完全に身体目当てだ。この先に良い未来なんて存在しない。
副店長に背中を押されて、完全に浮かれモードに突入していたが、冷静になって考えてみたら、現実なんてこんなものだと思い知らされた。

「そっか。とりあえず、落ち着いて。愁は私と彼女を重ねて見てるから、彼女への不満が膨らみすぎてるんじゃないかな」

どんなに見た目が大人っぽくても、中身はまだまだ子供っぽいところがあるのが年下の彼女だ。
私だってそう。まだ大人にはなりきれていないところがたくさんある。現に副店長からは、ガキだと言われたばかりだ。
但し、彼女の場合は、子供っぽいという言葉だけでは片付けられない点も幾つかある。
それ以前に、中身に問題がありすぎる。愁はあまりにも子供すぎる言動に、呆れてしまったのであろう。
そこで身近な存在の私と照らし合わせてしまい、余計に不満が募ってしまったのかもしれない。
だとしたら、私とセックスをしなくなれば、問題は解決する。
もちろん、私としては寂しいが、愁のためを思うのであれば、そうするしかない。私も愁を苦しめている原因の一人だから。

「それも一理ある。幸奈はいつでも俺の話を聞いてくれるけど、彼女は全く聞いてくれない。
そういう小さな積み重ねが、気づかないうちに幸奈と比べていたことは認める」

愁の中で私の存在が大きくなりすぎていたんだ。それはただ、いいところだけを切り取っただけに過ぎない。
それもそうか。自分が付き合っている彼女より、身近に良いところをたくさん持っている人がいたら、比べてしまうものだし、更に身体の相性もよければ、完全に身も心も動いてしまうものだ。

「でも俺は、お前とのセックスは続けるからな。どうせ、お前は俺に迷惑かけたと思って、セックスするのを止めようとか言い始める気なんだろ?」

私の心は完全に読まれていたみたいだ。
やっぱり、愁には適わない。何でもお見通しだ。

「だって、私としなければ、彼女と相性が悪いなんて感じることもなかったでしょう?だから、私にも少し責任があるんじゃないかなと思って…」

これは二人の問題だ。それでも、少しばかり胸が痛んだ。

「幸奈が気にする必要なんてないんだ。あまり言いたくはなかったが、隠さずにちゃんと言う。
俺は昔、少し遊んでいた時期があったんだ。だから、もし、お前としてなかったとしても、彼女との相性の悪さは目に見えて分かることだったんだよ」

それはまるで、私には関係のないことだと言われているようで、内心傷ついた。
でもそれと同時に、これが今の私達の関係性なのだと、改めて思い知らされた。

「そうだよね。分かった。もう気にしない」

物分りの良い女を演じた。もし、この場で身勝手な行動に出てしまえば、彼女と同等に値する。
それはとても癪に障るので、そうせざる得なかった。

「よかった…。幸奈が気に病むと、俺が苦しいんだ」

それは都合よくセックスできる相手がいなくなってしまうからなのかもしれない。
段々、愁が何を考えているのか、よく分からなくなってきた。
愁が私を好きだったあの頃に戻りたい。そしたら今頃、二人で楽しくイチャイチャしていたのかもしれない。

「俺、幸奈とできないと、男として死ぬ!自己処理だけじゃ生きていけない」

今、このタイミングで、その発言はしないでほしかった。

「そんなに大変なの?」

「当たり前だろう。男は皆、しなきゃ生きていけない」

あれだけしても尚、求めるものがあるなんて、驚きを隠せなかった。

「最近は全くしてなかったけどな。だって、幸奈との情事を思い出して、余計にしたくなるだけだから」

それって、私を想像しながらしてるってことなのかな?
恥ずかしくて、これ以上は聞けなかった。

「そ、そうなんだ。へー……」

あーもう…恥ずかしい。早くこの話題を終わらせたい。

「うん。だって、幸奈のことしか考えられないから」

嬉しいような、嬉しくないような、複雑な気持ちだ。

「ゴホンッ…。自分から聞いておいてあれだけども、話を戻すね。それで愁は、彼女と別れたいの?それとも、別れたくないの?」

これだけは絶対に聞いておきたかった。今の愁の本当の気持ちを知りたいから。

「んー…そうだな。今は自分の気持ちすら、よく分かっていないから、アイツがもう終わりだと思っているのなら、終わりだ」

歯切れの悪い回答だった。彼女のことが好きだから、付き合ってたんじゃないの?
どうして、自分の気持ちすら、よく分からないの?これ以上は聞けなかった。聞くのが怖かった。

「今は俺の中で終わったことになってるかな。こちらからは一切、何もしない。あくまでアイツから何かしてくるのを待つのみだ」

まるでもう、彼女への愛がないように感じた。愁の心は完全に冷めきっていた。

「そっか。愁がそう決めたのなら、私はもうこれ以上、聞かないでおくね。教えてくれてありがとう」

ありがとうと言うのもおかしな話だが、他に言葉が思いつかなかった。

「こちらこそありがとな。話を聞いてもらったら、心が少し軽くなったよ」

よかった…。本来の目的でもある、愁の心を軽くすることができて、安心した。

「ならよかったよ。もう夜も遅いし、お風呂のお湯を沸かして、早く寝ちゃおっか?」

もうやる雰囲気ではなくなっていた。もちろん、私のやる気スイッチも完全にオフになっていた。

「…あのさ、幸奈はもうやる気はない感じだよな?」

もしかして、この流れって…。愁はまだやる気満々だったみたいだ。
まさか、もうやる気がないなんて言えない雰囲気なので、一応、愁に話を合わせてみることにした。

「やる気があるかないかと言われたら、少しはあるかな」

私の答えを聞いた途端、愁の目が一気に輝いた。

「本当か?俺は今、めちゃくちゃしたい気分なんだ。一応、確認しておくが、明日ってバイトはある日か?もし、明日、バイトがないんだったら、加減せずにたくさん幸奈としたいんだけど、いい?」

きっとバイトの有無の確認は、私の身体を気遣ったのであろう。
確か明日はシフトが入っていなかったはず。寧ろ愁の方は大丈夫なのだろうか。
まぁ、愁の場合、たとえアルバイトがあったとしても、問題はなさそうだが。
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