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2章:一番になりたい
6話
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「幸奈、終わったか?」
シフトが被っていない日でさえも、今までと何も変わらずに、わざわざバイト先まで迎えに来てくれる。
「ありがとう。帰り支度するから待ってて…」
鞄に荷物を詰め込みながら、少しだけ考え事をしていた。
いつまで、この状態を続けられるのだろうか。逆に私の方が彼女に対して申し訳ない気持ちになり、罪悪感に駆られてしまっている。
愁にはもう彼女がいて。いくら夜道が危険だからとはいえども、シフトが被っていない時まで、私を送り届ける義理はない。
「お待たせ。もう帰れるよ」
ズルい私は、ずっとこの関係に甘えてしまっている。
怖い。いつしかこんなふうに甘えられなくなってしまう日が訪れることが…。
いつも嬉しそうに遊びにやって来る、彼女の顔が浮かんでは消える。
どうしたらいいのだろうかと、考えてはみるものの、私にはどうすることもできなかった。
「どうしたんだ?もう帰れるんじゃなかったのか?」
以前の私だったら、愁が傍に居るだけで穏やかな気持ちになれたというのに…。
今の私は、愁の傍に居るとモヤモヤしてしまう。
恐らく原因は、溢れそうな気持ちを抑えなくてはいけないからであろう。
「ううん、何でもないよ。帰ろっか」
もうこれで何度目だろうか。いつしか私は愁に対して、誤魔化すことが増えた。
そうすることで、これ以上踏み込ませないように、上手く線引きをしている。
今までの愁なら、気になることがあれば必ずといっていいほど、追及してくることが多かった。
でも、手を振り払ったあの日以来、愁は私に対して、深く追求してくることはなくなった。
「そっか。分かった。それじゃ、帰ろっか」
友達だから、遠慮しているのが伝わってきた。私もそれが愁なりの線引きだと感じ、もうこれ以上、愁には甘えないことにした。
本当は今すぐにでも甘えてしまいたい。もう強がることに疲れた。
それでも私の脳裏には、優しく微笑む彼女の顔が思い浮かんだ。
その度に申し訳ない気持ちになり、甘えることができなかった。
そんなに申し訳なく思うのであれば、いっそのこと、傍にいることさえも止めてしまえばいいのに…。
「うん、そうしよっか」
一瞬、バイトを辞めることも考えてみた。
でも今、接点がなくなってしまえば、私と愁を繋ぐものは何もなくなってしまう。
最悪、アルバイトを辞めてしまったとしても、大学は同じだ。
それでも、その糸が簡単に千切れてしまうような気がした。
愁を好きでいることが辛い。好きでいることを止めたい。
簡単に繋がりが消えてしまえばいいのに。そうすれば諦めがつくのに…。
そう望んでも、まだ繋がりを手放すことはできなかった。
この日も愁は本当に家まで送ってくれた。このまま、帰らせずに私が愁を奪ってしまえば…。
そんな勇気は持てず、そのまま解散した。
未練がましいにも程がある。そろそろ諦めないと、ストーカーと同じだ。
いい加減、愁を好きでいるのを、もう止めようと思う。
愁を好きになってから、友達に合コンに誘われても、全部断ってきた。
いい加減断るのも心苦しいし、それに諦めるいいきっかけにもなる。
もし、次に誘われたら行くことにしよう。そう決意した。
◇
「幸奈、今日はどうしても送ることができない」
バイトの休憩中、愁から突然告げられた。ついにこの日がきてしまったみたいだ。これでようやく諦めがつくかもしれない。
「うん、分かった。私は大丈夫だから、気にしないで」
涙を堪えるのに必死だった。笑顔で耐えるしかなかった。
「悪いな。彼女と一緒に帰る約束しててさ。
…親に内緒で、泊まりなんだ。俺ん家で」
もう二人の仲は、そこまで進んでいるみたいだ。
一夜を共に過ごすなんて、絶対にやることをやるに決まってる。
そんな二人の姿を想像するだけで、胸が破裂しそうになった。
そんな想いを隠すために、「いいなー…楽しんできてね」なんて、曖昧な返事をしてしまった。
「あぁ、悪いな。代わりに違う奴に頼んでおいたから」
代わりなんていらない。彼女と一夜を明かすくらいなら、私と一緒に居てよ…。
メラメラと沸き上がる嫉妬。日に日に熱く燃え上がっていき、抑えることなんてできなかった。
「ありがとう。わざわざ私のために…」
「当然だろ。大切な友達だからな」
友達…。本人からそう告げられてしまうと、もう諦める以外、方法はなかった。引導を渡されたも同然だ。
「そうだね。ありがとう。夜道は暗いし危ないから、誰かが傍に居てくれると助かる」
女の子扱いしてくれるけど、あなたの目には映らない。それは私にとって、とても残酷なことだった。
心が痛い。今すぐにでも、涙が零れ落ちそうになった。
「安心しろ。次はちゃんと俺が送るから」
頭をポンポンと撫でられた。これは愁の癖だ。触れられた部分が熱を帯び始める。
どうしよう。諦めなきゃいけないのに、益々好きになってしまうだけだった…。
◇
休憩が終わってから、ずっと上の空だった。幸いミスをすることはなかったが、頭の中はずっと愁のことばかり考えていた。
「お疲れ様でした。幸奈、気をつけて帰れよ。
それじゃ、お先に失礼します」
上機嫌な様子から察して、皆にすぐにバレた。
「彼女とデートか?」なんて質問攻めにされても、愁は嫌な顔など一切せず、「はい!泊まりです。」と笑顔で答え、「エッチなことするんだろう?」…なんて茶化されていた。
羨ましい。私も茶化される相手になりたかった。
「大平さん、お疲れ様。愁から話は聞いてるかな?俺が大平さんを送ってくことになってます。
俺はもう支度が終わってるんだけど、大平さんはもう帰り支度は終わってるかな?」
同僚の中山くんが、珍しく私に声をかけてきた。
どうやら、愁の代わりに送ってくれる人は、中山くんのようだ。
誰に送ってもらうのか、事前に聞かされていなかったので、中山くんだと知り、少し驚いた。
「うん、もう大丈夫だよ。今日はわざわざ愁の代わりにありがとう。助かります」
「いえいえ。寧ろ暗い夜道を大平さん一人で帰らせるわけにいかないし。
あと、大平さんと話してみたいって思ってたんだよね」
私と…?中山くんとは仕事上だけの付き合いなので、意外な展開に頭が追いつけなかった。
「警戒しないで。俺が大平さんと話したいのは、愁のことだから」
中山くんが話したい愁の話って一体、どんな話をしたいのだろうか。
私が一番愁のことを知っているものだとばかり思っていた。
この口振りから察するに、あまり良い話ではない予感がした。
シフトが被っていない日でさえも、今までと何も変わらずに、わざわざバイト先まで迎えに来てくれる。
「ありがとう。帰り支度するから待ってて…」
鞄に荷物を詰め込みながら、少しだけ考え事をしていた。
いつまで、この状態を続けられるのだろうか。逆に私の方が彼女に対して申し訳ない気持ちになり、罪悪感に駆られてしまっている。
愁にはもう彼女がいて。いくら夜道が危険だからとはいえども、シフトが被っていない時まで、私を送り届ける義理はない。
「お待たせ。もう帰れるよ」
ズルい私は、ずっとこの関係に甘えてしまっている。
怖い。いつしかこんなふうに甘えられなくなってしまう日が訪れることが…。
いつも嬉しそうに遊びにやって来る、彼女の顔が浮かんでは消える。
どうしたらいいのだろうかと、考えてはみるものの、私にはどうすることもできなかった。
「どうしたんだ?もう帰れるんじゃなかったのか?」
以前の私だったら、愁が傍に居るだけで穏やかな気持ちになれたというのに…。
今の私は、愁の傍に居るとモヤモヤしてしまう。
恐らく原因は、溢れそうな気持ちを抑えなくてはいけないからであろう。
「ううん、何でもないよ。帰ろっか」
もうこれで何度目だろうか。いつしか私は愁に対して、誤魔化すことが増えた。
そうすることで、これ以上踏み込ませないように、上手く線引きをしている。
今までの愁なら、気になることがあれば必ずといっていいほど、追及してくることが多かった。
でも、手を振り払ったあの日以来、愁は私に対して、深く追求してくることはなくなった。
「そっか。分かった。それじゃ、帰ろっか」
友達だから、遠慮しているのが伝わってきた。私もそれが愁なりの線引きだと感じ、もうこれ以上、愁には甘えないことにした。
本当は今すぐにでも甘えてしまいたい。もう強がることに疲れた。
それでも私の脳裏には、優しく微笑む彼女の顔が思い浮かんだ。
その度に申し訳ない気持ちになり、甘えることができなかった。
そんなに申し訳なく思うのであれば、いっそのこと、傍にいることさえも止めてしまえばいいのに…。
「うん、そうしよっか」
一瞬、バイトを辞めることも考えてみた。
でも今、接点がなくなってしまえば、私と愁を繋ぐものは何もなくなってしまう。
最悪、アルバイトを辞めてしまったとしても、大学は同じだ。
それでも、その糸が簡単に千切れてしまうような気がした。
愁を好きでいることが辛い。好きでいることを止めたい。
簡単に繋がりが消えてしまえばいいのに。そうすれば諦めがつくのに…。
そう望んでも、まだ繋がりを手放すことはできなかった。
この日も愁は本当に家まで送ってくれた。このまま、帰らせずに私が愁を奪ってしまえば…。
そんな勇気は持てず、そのまま解散した。
未練がましいにも程がある。そろそろ諦めないと、ストーカーと同じだ。
いい加減、愁を好きでいるのを、もう止めようと思う。
愁を好きになってから、友達に合コンに誘われても、全部断ってきた。
いい加減断るのも心苦しいし、それに諦めるいいきっかけにもなる。
もし、次に誘われたら行くことにしよう。そう決意した。
◇
「幸奈、今日はどうしても送ることができない」
バイトの休憩中、愁から突然告げられた。ついにこの日がきてしまったみたいだ。これでようやく諦めがつくかもしれない。
「うん、分かった。私は大丈夫だから、気にしないで」
涙を堪えるのに必死だった。笑顔で耐えるしかなかった。
「悪いな。彼女と一緒に帰る約束しててさ。
…親に内緒で、泊まりなんだ。俺ん家で」
もう二人の仲は、そこまで進んでいるみたいだ。
一夜を共に過ごすなんて、絶対にやることをやるに決まってる。
そんな二人の姿を想像するだけで、胸が破裂しそうになった。
そんな想いを隠すために、「いいなー…楽しんできてね」なんて、曖昧な返事をしてしまった。
「あぁ、悪いな。代わりに違う奴に頼んでおいたから」
代わりなんていらない。彼女と一夜を明かすくらいなら、私と一緒に居てよ…。
メラメラと沸き上がる嫉妬。日に日に熱く燃え上がっていき、抑えることなんてできなかった。
「ありがとう。わざわざ私のために…」
「当然だろ。大切な友達だからな」
友達…。本人からそう告げられてしまうと、もう諦める以外、方法はなかった。引導を渡されたも同然だ。
「そうだね。ありがとう。夜道は暗いし危ないから、誰かが傍に居てくれると助かる」
女の子扱いしてくれるけど、あなたの目には映らない。それは私にとって、とても残酷なことだった。
心が痛い。今すぐにでも、涙が零れ落ちそうになった。
「安心しろ。次はちゃんと俺が送るから」
頭をポンポンと撫でられた。これは愁の癖だ。触れられた部分が熱を帯び始める。
どうしよう。諦めなきゃいけないのに、益々好きになってしまうだけだった…。
◇
休憩が終わってから、ずっと上の空だった。幸いミスをすることはなかったが、頭の中はずっと愁のことばかり考えていた。
「お疲れ様でした。幸奈、気をつけて帰れよ。
それじゃ、お先に失礼します」
上機嫌な様子から察して、皆にすぐにバレた。
「彼女とデートか?」なんて質問攻めにされても、愁は嫌な顔など一切せず、「はい!泊まりです。」と笑顔で答え、「エッチなことするんだろう?」…なんて茶化されていた。
羨ましい。私も茶化される相手になりたかった。
「大平さん、お疲れ様。愁から話は聞いてるかな?俺が大平さんを送ってくことになってます。
俺はもう支度が終わってるんだけど、大平さんはもう帰り支度は終わってるかな?」
同僚の中山くんが、珍しく私に声をかけてきた。
どうやら、愁の代わりに送ってくれる人は、中山くんのようだ。
誰に送ってもらうのか、事前に聞かされていなかったので、中山くんだと知り、少し驚いた。
「うん、もう大丈夫だよ。今日はわざわざ愁の代わりにありがとう。助かります」
「いえいえ。寧ろ暗い夜道を大平さん一人で帰らせるわけにいかないし。
あと、大平さんと話してみたいって思ってたんだよね」
私と…?中山くんとは仕事上だけの付き合いなので、意外な展開に頭が追いつけなかった。
「警戒しないで。俺が大平さんと話したいのは、愁のことだから」
中山くんが話したい愁の話って一体、どんな話をしたいのだろうか。
私が一番愁のことを知っているものだとばかり思っていた。
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