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3章:葛藤

10話

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このメッセージを読んで、私は朝から泣いた。
こんなにも大切に想われて。何が不満だったのだろうかと、私は自分を憎んだ。
同時に愁の優しさを私も大事にしたいと思い、すぐに返事を返した。

“愁こそ、私の気持ちを受け止めてくれてありがとう。
分かった。今日はそれで大丈夫です。バイトがない、お休みの日なので。
でも、明日はバイトがあるので、愁がお休みなら是非、お願いします”

こうやって私達は、少しずつ恋人として距離を縮めている。
喧嘩しても長引かせず、ちゃんと話し合って、自分達なりに自分達を知っていけばいい。
この件は話してよかったと思った。これからもこうやって、ちゃんと話し合っていこうと思う。
気持ちが晴れかになったら、思考も明るくなり、休みを無駄にしてはいけないと思い、まずは部屋の掃除をしてから、外に出かけることにした。
とても有意義な時間を過ごし、次の日のバイトに向けて英気を養った。


           *


二日も休んだので、今日はちゃんと働く。
暫く連続でお休みはない。その代わり、連勤はある…。
連勤は大変だが、その分お金を稼げる。その後、お休みがあると、お休みのためにも頑張れる。
それに今は一緒に働けていないが、彼がいる。
その彼と一緒に過ごす時間があるからこそ、私は頑張れる。
今日もバイトが終わったら、一緒に過ごせる。
気持ちを前向きに、最後まで頑張ろうと思う。

「大平さん、今日はいつもより元気だね」

小林さんが声をかけてくれた。
そういう小林さんも元気そうだ。どうやら、私と愁のラブラブな様子が窺えるだけで、小林さんは幸せみたいだ。
こうして、人様の幸せを素直に喜べる小林さんを見て、私も同じく幸せな気持ちになった。

「うん。そうだね。頑張って働くよ」

「だね!私も頑張る!」

バイト前だというのに、二人ではしゃいでしまった。
その気持ちのまま、バイトに臨んだ。


           *


やっとバイトが終わり、これで帰れる。
一息ついてから、着替えて帰ろうと思い、私は裏口でぼーっとしていた。
すると、同じく裏口にやってきた人物がいた。その人は…。

「幸奈、お疲れ」

「蒼空。お疲れ様」

蒼空の手には煙草が…。
どうやら、煙草を吸いにきたみたいだ。

「煙草はいつもここで吸ってるの?」

気になったので、聞いてみた。
そういえば、初めて会った時も、煙草を吸ってたな…。

「店内も休憩室も禁煙で吸えないから、ここでこっそり吸ってる」

蒼空らしいなと思った。人に気を使いつつ、自分の道を進むところが。

「そうなんだ。いいね。なんか自分だけの時間って感じで」

私は煙草を吸わないし、吸いたいとも思わないが、こうして自分一人だけの特別な時間…みたいなのには憧れる。

「確かにそうかもな。ま、こうして幸奈に会えて、俺はラッキーだけどな」

そう思ってもらえて嬉しいが、そんな風に思っていたんだと知り、意外だなと思った。

「そう?そう言ってくれてありがとう」

私は今、蒼空に会って、複雑な気持ちだ。
途端に愁の顔が思い浮かび、早く会いたいなと思った。

「幸奈はさ、俺のことどう想ってる?」

唐突すぎる質問に、全く蒼空の意図が読めなかった。
でも、どう想っているのかは、正直に答えた。

「蒼空のことは、頼りになるお兄ちゃんかな。色々助けてもらったし。アルバイトも紹介してもらったし」

それ以上でもそれ以下でもない。まだ私達はそこまで深い仲ではないから。

「そっか。なるほどね」

聞いてきたわりには、素っ気ない返事だ。
より何を考えているのか、分からなかった。

「でも俺は、幸奈にお兄ちゃんって思ってほしくない」

突然、手を掴まれた。
いきなりのことでびっくりし、私は蒼空の手を払った。

「幸奈。俺は幸奈のことが好きだ」

一瞬、脳が何を言っているのか、分からなかった。
数秒後、脳内で繰り返し蒼空の言葉が再生され、今、告白されたのだと実感することができた。

「答えは今すぐじゃなくていい。少しでもいいから、俺のことを意識してほしい。その上で答えがほしい」

そう言われても、私にはもうたった一人しかいない。
でも、今すぐ断れない雰囲気にさせられている。

「それじゃ、また。お先に失礼します」

後から来て、煙草を吸っていた蒼空の方が、先に去ってしまった。
私は一人、ぽつんと取り残されたまま、頭の中は混乱していた。
蒼空が私を好き…。愁の言っていた通りだ。
まだ妹みたいに思われていた方がマシだった。好きだなんて、聞きたくなかった。
きっとタイミングが違っていたら、私は今頃、あなたの手を取っていたかもしれない。
でも、私には愁しかいなくて。愁しか選べない。
これからどう蒼空に接したらいいのか、分からなかった。
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