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3章:葛藤

9話

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「二人共、話を聞いてくれてありがとう。二人からアドバイスをもらえたお陰で、愁と話をする決心ができました。早速、愁に話してみようと思います」

「そっか。よかった。大平さんの背中を押せたみたいで」

本当にたくさん背中を押してもらった。
その気持ちを大切にし、ちゃんと愁と向き合おうと思う。

「幸保さんも本当にありがとう。中山くん共々、幸保さんとも仲良くしたいので、今後ともよろしくね」

幸保さんには迷惑かもしれないが、今後も友達として上手くやっていけたらいいなという想いを伝えた。
私達には分厚い壁がある。かつては恋のライバルであったから。
昔の過ちをなかったことにはできないけど、ここから新しく関係を築き上げていきたい。
そして、いつか過去のいざこざもなかったかのように、この溝を埋めていきたい。

「はい。私でよければ是非…」

幸保さんが私の手を取ってくれた。それだけで嬉しかった。

「大平さん、俺達のことは気にせずに、愁の元へ向かっても大丈夫だよ」

中山くんが空気を読んで、私を愁の元へと行かせてくれようとしている。
幸保さんとの関係修復は、また後日ということで。

「それじゃ、お言葉に甘えて…。お先に失礼します」

お代だけ置いて、私はその場を去った。
とても心強いパワーをもらったので、私はそのまま一直線に愁の元へと向かった。


           *


今日は私がバイトがお休みで。愁は出勤日だ。
なので、そのまま愁のバイト先へと向かった。お店の中に入るのは迷惑なので、外でこっそりと待った。
スマホで時間を確認する。もうすぐ愁のバイトが終わる時間だ…。
スマホを弄りながら、愁のバイトが終わるのを待つ。待っている間、どう話そうかずっと考えていた。

「…幸奈?」

ずっと考えていたせいで、すっかり本来の目的を忘れて、考え事に没頭してしまった。
急に愁の声が聞こえ、驚いたが、すぐにバイトが終わったのだと察した。

「愁…。お疲れ様」

「ありがとう。でも、どうしてここに?」

あまり良い辞め方をしたわけではないので、元バイト先に来るのは気が重い。
でも、そんなことを忘れるくらい、今日の私は自分の気持ちしか考えられなかった。

「愁に話したいことがあって。それでここまで来ました…」

この言葉を口にするだけで、私の心臓はバクバクしていた。
一呼吸置いてから、話し始めた。

「愁。今、愁とお付き合いできて、私はとても幸せです。
でも、私には私の時間があって。愁にも愁の時間がある。もう少し私を自由にさせてほしい。
蒼空が気になるのは分かるけど、私は今更、愁以外のところになんか行かないし、愁しか見えてない。愁の方だよ。私以外を見ているのは。
私は今、ただバイトが楽しくて。新しい女の子のお友達ができて。もう少しその子とお喋りしたい。
だから、暫くの間、バイト先まで迎えに来ないでほしいです…」

ついに言ってしまった。愁の反応が怖い。
反応が返ってくる前に、また私が喋り始めた。

「絶対に来ないで…とかじゃなくて、今日みたいにアルバイトがあるような日は、無理してお迎えに来てほしくないの。
お休みの日や無理がない日は、引き続き迎えに来てもらっても大丈夫です。
ただ私にも私の交友関係があることは分かってほしい。愁との時間も、愁以外の人と過ごす時間も大事だから。それだけは分かってほしい」

愁の気持ちに応えてあげられない自分が情けない。もっと恋人を大事にしたいのに、どうしてできないんだろう。
私には他にも大事なものがある。恋愛だけでは生きていけない。
その気持ちだけ愁に分かってほしかった。そして同時に、愁にも他に大事なものができるといいなと思った。

「幸奈の気持ちは充分、分かった。俺の気持ちばかり押しつけてごめん。これからは気をつける」

もっと落ち込むかもしれないと思い、覚悟を決めたのに、意外とすんなり受け入れてもらえた。
変に気負いすぎてないといいけど、あまりにも物事がスムーズに進みすぎると、それはそれで不安に思うのであった…。

「ううん。こちらこそ、バイト先まで押しかけてごめん。それじゃ、一人で帰るね。またね」

手を振り、その場を去った。
胸が苦しかった。自分の想いを伝えなければよかったとは思わないけど、これでよかったのか、自分ではよく分からなかった…。


           *


そして、次の日を迎えた。
朝、スマホをチェックすると、愁からメッセージが届いていた。

“昨日は伝えてくれてありがとう。俺なりに気をつけます。
今日は遅くまでバイトがあるので、幸奈のバイト先まで迎えに行くのは控えます。
でも、明日はお休みなので、もしアルバイトがあるのなら、お迎えに行きたいです。
幸奈もバイトが休みなら、一緒に過ごしたいです”
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