恋の微熱に溺れて…

和泉 花奈

文字の大きさ
上 下
56 / 57
13度:初めての年越し

56話

しおりを挟む


         *


そして翌朝。彼の寝息と温もりを感じながら目を覚ました。

「京香さん、おはようございます」

元旦の朝から恋人の爽やかな温かい微笑みで目覚める。とても最高の朝だ。

「おはよう、慧くん」

いつもなら冬休みなんて特にやることがないため、朝早くに起きずに昼近くまで寝ていた。
それが私の中での当たり前だった。だからこそ初詣がとても楽しみである。

「初詣行くの楽しみですね」

そういえば初詣に行くのはいつ以来だろう。
忘れてしまうくらい、久しぶりに初詣に行く。

「楽しみだね。早く支度しないと…」

時間があるので焦る必要はないが、とはいえどもあまりゆっくりしすぎると初詣に行く時間が遅くなってしまう。
そうすればその分、人混みも激化するに違いない。人混み自体は仕方ないが、できれば人混みがそんなに酷くない時を狙いたい。

「俺は朝食の準備をしておきますので、京香さんはゆっくり支度をしてください」

正直、こちらは身支度に時間がかかるので、その間に朝食を作ってもらえるのは助かる。
こういう時、効率良く時間を使えるのは大事だ。こうやって気を遣ってくれる彼氏に感謝した。

「それじゃお言葉に甘えて…。朝食は慧くんに任せたよ」

「はい。お任せください。…とはいえども今日は元旦なので、お雑煮を作ろうかなって思ってます」

元旦の朝といえばお餅だ。お雑煮派またはお汁粉派。
私はどちらも好きなので、どちらでも嬉しい。

「美味しそう…。早く食べたい……」

お雑煮を想像するだけでお腹が空いて、口の中で涎が溢れた。

「俺もお腹が空いてきました。早く食べたいので、早く作っちゃいますね」

先に慧くんがベッドから起き上がった。私も慧くんに続いてベッドから起きた。
慧くんはそのままリビングへと向かい、キッチンで料理を始めた。
私は洗面所へと向かい、支度を始めた。まずは顔を洗い、汚れを落として綺麗にした。
そしてそのままスキンケアをし、肌の調子を整えた。
今度は口腔内を綺麗にするために歯を磨いた。ご飯を食べた後ももちろん歯を磨くが、食べる前にも軽く口の中を綺麗にしておく必要がある。
寝ている間に色んな菌が繁殖するので、起きてすぐに口腔環境を綺麗にしなくてはならない。
普段は時間がないので、口を軽く濯ぐくらいだが、今日はお休みなためいつもより時間があるので、いつもより丁寧にケアをさせてもらった。

洗面所でやれることは終わったので、一旦寝室へと戻り、寝巻きから外へ出かけられる服へと着替えた。
着替えを終えたので、メイク道具を持ってリビングへと向かった。
テーブルの上に鏡を置いて、自分の顔を見ながらメイクをしていく。
メイクは毎朝やっているので、もう慣れたものだ。いつも通りのメイクをしていく。
十五分くらいでメイクを終え、一旦メイク道具を片付けるためにまた寝室へと戻った。
今度はヘアアイロンを手に持って、リビングへと戻った。ストレートアイロンで髪を綺麗にストレートにしていく。
最近、美容院でストレートパーマーをかけたばかりなので、手直しをするといっても軽く直すくらいだが…。
ヘアセットは五分ぐらいで終わった。時間に余裕を持って支度を終えたので、私も朝食の準備を一緒にやることにした。

「慧くん、支度が終わったから手伝いにきたよ」

「ありがとうございます。でも実はもうお皿に装うだけなんですけどね…」

お餅も焼き終え、スープも既に出来上がっている…。
あとは焼いたお餅をスープの中に入れ、具材と一緒にお皿に装るだけの状態だ。

「それじゃお皿に装うね。お皿、これでいい?」

鍋の近くに二枚のお皿が既に準備されている。それを手に取り、慧くんに確認を取る。

「それで大丈夫ですよ。お願いします」

任されたので、私がお皿に装った。
まずはお餅を先に入れ、その後に温かいスープを注ぐ。

「ありがとうございます。あとは俺に任せてください」

上から必要な具材を入れていく。鶏肉、かまぼこ、にんじん、大根、三つ葉…など。
具沢山のお雑煮に心が躍る。早くお雑煮が食べたい。そう思い、装い終わったお皿に手を伸ばす。

「もう運んでもいい?」

「いいですよ。運んでください」

許可をもらえたので、お雑煮が装われたお皿をリビングのテーブルの上まで運んだ。

「運んでくださり、ありがとうございます。それじゃいただきましょう」

慧くんが箸と飲み物を運んでくれたので、食べる準備は整った。

「そうだね。いただきます」

「いただきます…」

お互いにちゃんと手を合わせて、いただきますと言ってから食べ始めた。
まずスープから口をつけた。既に匂いから美味しさが漂っていたので、とても楽しみにしていた。
いざ口をつけた瞬間、口の中に一気にスープの旨みが広がり、匂い以上に美味しいと感じた。
まず出汁がスープの旨味を引き立たせており、絶妙なバランスで配合されている。
それでいて味噌の味も美味しくて。味噌と出汁がお互いの良い味を引き出し合っている。

「…美味しい」

スープだけでもいいから、おかわりしたい。それぐらいとても美味しいスープだ。

「自分で作っておいていうのもなんですが、本当に美味しいです。いつもより良い出汁と良い味噌を買ったからかもしれません」

慧くんの言う通り、良いものを使えばいつもより良い味にはなるかもしれないが、それ以上に慧くんの料理の腕が上手だから、より美味しい料理が作れたんだと思う。

「それもあると思うけど、慧くんの料理の腕が上手だからだよ」

どんな食材でも、慧くんの料理の腕があれば美味しい料理が作れると、私は信じている。

「京香さんにそう言ってもらえてなによりです。これからも腕にりをかけて料理させてもらいますね」

今でも充分、彼の料理は美味しい。更に磨きをかけるなんて、本当に彼は素晴らしい人だ。

「私も一緒に頑張りたい。でもそれ以上に慧くんの料理が美味しいから、食べられる喜びもあるんだよね」

食いしん坊と思われたかもしれない。事実なので否定できない…。

「俺もそれは同じ気持ちです。京香さんと一緒に料理をするのも楽しいですが、俺が作った料理を美味しそうに食べる京香さんの顔を見られるのも嬉しいんですよね」

好きな人が自分の幸せそうな姿を見て、幸せだと感じてもらえる。それだけでとても嬉しかった。

「そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。これからも慧くんのご飯、たくさん食べさせてもらうね」

甘えさせてくれる彼に、とことん甘える。美味しい料理に胃袋も心も完全に掴まれている。
普通、胃袋を掴むのは男女逆な気がするが。女性だってこうして胃袋を掴まれることがある。
それぐらい胃袋を掴まれたら、男女関係なしに恋人の料理の腕に虜になってしまうのであった。

「こちらこそ振る舞わせていただきますね」

お正月の朝ならではの美味しい料理を堪能し、出かける前に英気を養えた。

「そろそろ出かけましょうか。準備は大丈夫ですか?」

ちゃんとトイレも行ったし、リップも塗ったので、問題ない。

「大丈夫だよ。出かけられるよ」

「それじゃ行きますか。近場にある神社でも大丈夫ですか?」

神社に拘りがあるわけではないので、私は慧くんさえ良ければそれで構わない。
それにわざわざ人気の神社にまで行くのは人混みが多そうで。できればそれは避けたい。
それなら近所の方がいい。近所の神社だってそれなりに混んでいそうだが、近所ならすぐに帰って来れそうなので、その方が気が楽だ。

「大丈夫だよ。近所の神社に行こう」

私がそう言うと、いつも通り手を繋いで神社まで向かった。
神社に着くと、案の定人が多くて。小さな神社とはいえども、地元住民で溢れ返っていた。

「結構人が多いね…」

「ですね。初めて来るので、ここまで人が多いのは知らなかったです」

いくら近所とはいえども、全く足を伸ばさない場所もある。
私だって自分の家の近所でまだ足を運んだことがない場所がある。
何かきっかけがないとなかなか足を伸ばせない。たまにはこうやって二人で知らない場所へ足を運んでみるのもいいなと思った。

「そうなんだ。なかなか一人だと足を運ぶ機会がないよね」

「そうですね。なかなかないですね。でもこうして京香さんと一緒に来ることができて嬉しいです」

それはこちらも同じ気持ちだ。慧くんと色んな場所へ一緒に行くことができて嬉しい。

「さて、早速参拝しましょうか」

「そうだね。そうしよう」

参拝の列に並ぶ。神社の人混みの大半は参拝する人の列で占めているといっても過言ではない。
だからといって待てないほどの行列ではないので、並んで待っていたらあっという間に自分達の番が回ってきそうだ。

「京香さん、参拝が終わったらおみくじを引きませんか?」

神社といえばおみくじ。子供の頃、神社に行ったら必ずおみくじを引いていた。
それは大人になった今でも同じで。おみくじを引くのは今でも心が躍る。

「いいよ。私も引きたいなって思ってたところ」

慧くんもおみくじを引きたいと思っていたことに安堵した。
なんだかおみくじを引きたいなんて子供みたいで。なかなか自分から引きたいなんて言い出せなかった。

「本当ですか?それなら是非、おみくじを引きましょう!二人で大吉が引けることを願ってます」

慧くんの言う通り、本当にそうなればいいなと思った。
でもまずその前に神様に一年のお礼と、今年のお願い事を清らかな気持ちで祈願する。

「そうなるといいよね。そうなることを願って、神様にお願いしないと…」

大吉だけではないが、一年通して今年も良い一年になれるようにお願いしたい。
それ以上に望むものはない。何事もなく過ごせることが一番の幸せだ。

「そうですね。お願いしたいことがたくさんあって、ちゃんと全部お願いすることができるのか、心配です」

思ったよりも慧くんは欲まみれのようだ。この爽やかな顔からは想像できない。

「そうなの?たくさんあるんだね」

「そりゃありますよ。まず今年も変わらずに京香さんと幸せに過ごしたいですし、それに京香さんと同棲もしたいですし、今年の大型連休には旅行に行ったりとか、色々なことを京香さんと一緒に叶えたいです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

処理中です...