恋の微熱に溺れて…

和泉 花奈

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9度:旅行デート

31話

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「その気持ち、よく分かるよ。美味しいものを食べると、もっとその味を堪能したくなっちゃうよね」

口の中がずっと美味しい味で満たされたらと思うと、とても夢が広がる。
そんな想像をしてしまうほど、美味しいものを口にしてしまうと、人は理性を失ってしまうことが分かった。

「そうなんですよ。欲張っちゃいます」

仕方がないのかもしれないしれない。それは人の性だから。

「仕方ないよ。だって、美味しすぎるのがいけないから」

時に美味しい食べ物は罪になる。人の欲求には逆らえない。食は人間の三代欲求の一つだから。

「ですね。確実に帰ったら太ってると思います」

それは一理ある。そろそろ年齢的に痩せにくい体質になってきているので、少し食べ過ぎるだけでも痩せるのが大変だ。

「そう…だね。あまり考えたくないけど」

今は現実逃避するしかない。未来の自分が少しでも太っていないことを願った。

「とりあえず、一旦このことは忘れて、思いっきり食べましょう」

慧くんの言う通りだ。今は現実的なことはどうでもいい。この場を思いっきり楽しまないと損だ。

「だね。とりあえず、食べられるだけ食べよっか」

後先のことは考えず、二人して夢中になって、目の前にある美味しい食べ物を食べた。
気がついたら、あっという間に目の前の食べ物がなくなっていた。


           *


旅館の従業員さんが、食べ終わったお料理のお皿を下げてくれた。
私達は楽しみにしていた地酒を飲みながら、ゆっくりした時間を過ごしていた。
ちなみに地酒は美味しい。これはお土産に買って帰りたいくらいだ。

「もうダメかも。少し酔ってきちゃった…」

私はあまりお酒が強くない。寧ろいつもより飲めているぐらいだ。
でも、そろそろ限界は近いみたいだ。もうこれ以上飲んだら、酔い潰れてしまいそうだ。

「そろそろお酒は引き上げましょうか」

慧くんはそう言ってから、グラスに残っているお酒を一気に飲み干した。
そして、グラスをテーブルの上に優しく置き、私の腕を掴んだ。そのまま寝室へと連れて行かれた。

「京香さん…」

熱を帯びた瞳で、私を見つめてくる。その視線から私は目を逸らせない。どんどん熱に浮かされていく。

「いいですか?しても…」

そんなの聞かれなくても、答えは一つしかない。

「いいよ。しよっか」

私がそう言うと、慧くんは私の頬に優しく触れてきた。
優しい手がどんどん下に降りていき、流れるように浴衣を脱がされる。
そのまま唇が重なり、どんどん激しいキスを交わしていく。

「今日は手加減しませんので」

慧くんはわざわざする前に宣言してきた。私は最初からそのつもりでいたので、首を縦に頷いた。
私の首の頷きと同時に、慧くんは行為の続きを再開した。
私は慧くんの手にどんどん溺れていった。気がついたら、深い沼へと落ちていた。


           *


目覚めたら、次の日の朝を迎えていた。
昨日の夜の慧くんは、激しさはあれど、とても優しく抱いてくれた。
私は慧くんの優しさに愛を感じた。その愛が心地良くて。もっと慧くんに愛されたいと願ってしまった。

「おはよう…」

微睡んでいたら、隣から愛おしい人の声が聞こえてきた。
私はすぐに彼の方に顔を向けた。

「おはよう…慧くん」

起きたての顔を見られるのは恥ずかしいが、恥ずかしさよりも好きな人の顔を見たいという気持ちの方が勝った。

「まだゆっくりしてます?それとも起きて、朝風呂でも入ります?」

どちらも素敵な案なので捨て難いが、ここはせっかくなのでこちらの案を選んだ。

「うーん、そうだな。せっかくだし、朝風呂に入ろっか」

ついでに顔も洗える。できれば少しでも好きな人には綺麗な自分を見せたいと思うのが乙女心だ。たとえ慧くんが気にしないとしても、私が気にする。
そんな乙女心もあるが、せっかくの温泉旅行に来たので、温泉にも入りたい。寧ろ温泉に入るのがメインだ。イチャイチャは二の次である。
それでも抗えない欲望には逆らえないわけだが。朝は自分に打ち勝ち、温泉に入ろうと思う。

「それじゃ、朝は大風呂に入ってみましょうか」

個室の内風呂ではなく、大風呂に入りたいみたいだ。
私も大風呂に入ってみたいと思っていたので、ここはせっかくなので、大風呂に入ることにした。

「いいね。大きいお風呂に入るの楽しみ」

個室の内風呂も家のお風呂と違い、充分な広さがあり、ゆっくりできて快適だった。
でも、大風呂はもっと大きい。大きいお風呂に入るというだけで、ワクワクしてしまう。

「俺も楽しみです。大きいお風呂ってだけで、ワクワクしますよね」

どうして大きいお風呂ってだけで、ワクワクするのだろうか。
理由はない。温泉ってだけでテンションが上がることは間違いなかった。

「だね。それじゃ、準備しよっか」

お互い旅館の大きなお風呂を楽しみに、温泉に行く準備を始めた。
想像だけで今からお風呂に入るのが楽しみだ。ルンルン気分のまま、お風呂へと向かった。


           *


「それじゃ、後で合流しましょう」

さすがに温泉では男女別々なため、ここで一旦、お別れだ。
それぞれで良いお湯を楽しみ、後でお風呂の感想について語ろうと思う。

「だね。また後で」

それぞれ暖簾を潜り、中へと入って行く。
朝ということもあり、数人しかいない。さすがにまだ寝ている人の方が多いみたいだ。
この人数なら、久しぶりの温泉とはいえども、恥ずかしさはあまりない。
というより、慧くんと楽しく温泉に入ったお陰で、恥ずかしいという抵抗感が薄れた。
同性相手に身構えすぎても、逆に挙動不審だ。堂々と身構えているくらいの方がいい。誰も自分の裸なんて気にしていないのだから。
そう思えば思うほど、色々なことが良くなり、私は堂々と服を脱ぎ、お風呂へと向かった。
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