恋の微熱に溺れて…

和泉 花奈

文字の大きさ
上 下
27 / 57
9度:旅行デート

27話

しおりを挟む
それはある日突然、慧くんの提案により決まった。

「京香さん、温泉に行きませんか?」

どうしていきなり温泉へ行こうと思ったのだろうか。
慧くんの考えはよく分からないが、温泉に行きたいという提案自体は、私も乗り気だ。

「だね。行こう」

温泉に行くのは久しぶりだ。最後に行ったのは、高校時代の親友と卒業旅行で行った以来…。
今ではお互いに仕事が忙しくて。なかなか休みが合わず。時々会えればいいといった感じだ。
親友の話はさておき、慧くんと温泉旅行…か。今から温泉旅行に行くのが楽しみだ。

「京香さんは行きたい温泉とかありますか?」

自分発信で提案したわけではないので、咄嗟に思い浮かばない。

「うーん…。特に思いつかないや。ごめんね」

謝る必要はないが、一緒に考える場面で一緒に考えることができず。申し訳ないと思い、謝った。

「いえ。それは大丈夫です。京香さんが特に行きたいところがないのでしたら、熱海に行きませんか?」

熱海といえば、イメージが温泉。
良い温泉がたくさんありそうで。想像だけでワクワクしてきた。

「いいね。熱海に行こう」

「それじゃ、熱海に行きましょう。色々調べておきますね」

いつも慧くんがリードしてくれる。私はそれにおんぶで抱っこ状態だ。
甘えてばかりで申し訳なく思う時もあるが、これが私達の形なのだと思う。
だからこういった時は、とことん慧くんに甘えることにしている。

「分かった。よろしくお願いします」

「はい。任せてください」

熱海旅行を楽しみに、計画を立てながら、日々のお仕事を乗り切った。
慧くんが色々調べてくれたお陰で、思ったよりも早く熱海旅行は決行された…。


          *


そして、ついに熱海旅行当日を迎えた…。
熱海までは慧くんの車で向かった。慧くんが車を持っていることは知らなかった。たまにはこうしてドライブをするのも悪くないなと思った。
思いの外、あっという間にドライブは終了し、目的地に着いた。

「…ふぅ。空気が澄んでるな」

確かにいつもの都会と比べて、空気が美味しく感じる。
これもきっと趣のある風景が、そう感じさせてくれたのであろう。

「そうだね。空気が美味しいね」

二人で空気を堪能した後、予約をした旅館へと向かった。
旅館に着くと、旅館の従業員さん達が出迎えてくれた。

「本日は園路遥々お越し下さいまして、ありがとうございます。お待ちしておりました」

女将さんが代表して、丁寧に挨拶をしてくれた。
私は女将さんの挨拶を聞いて、今からこの旅館に泊まるんだという実感が湧いてきた。

「チェックインを済まされましたら、お部屋へとご案内させて頂きますので」

一言告げた後、私達の元から離れ、少し遠くから私達を見守ってくれていた。
私達は受付へと向かい、チェックインを済ませた。
そのままお部屋へと案内され、そこで初めてどんなお部屋に泊まるのかを知った。
よくある和室で。部屋の奥を見ると、内風呂がある。
まさかお部屋にもお風呂があるなんて思ってもみなかった。

「すごい…。素敵なお部屋」

あまりにも素敵なお部屋に、私は感動した。
慧くんはいつも私に幸せなサプライズを与えてくれる。その愛の温かさに胸が熱くなった。

「京香さんに喜んでもらえてなによりです」

慧くんも嬉しそうで。私も更に喜びが増した。
この旅行中は心も身体も休まり、日頃の疲れが癒やされそうだ。

「京香さん。せっかくですし、早速温泉に入りませんか?」

温泉のためにここまで来たのだから、入らなきゃ勿体ない。

「そうだね。そうしよっか」

「あの…、京香さん。京香さんさえよければ、一緒に入りませんか?内風呂がありますし」

確かに内風呂はあるが、まさか一緒に入ることになるなんて想像していなかった。
ちょっと抵抗感がある。もう既に裸は見られているとはいえども、それとこれは別なわけで。
でもここで拒否して、変な空気になるのも嫌だ。何て答えたらいいのか迷ってしまい、上手く自分の想いを伝えられずにいた。

「…ダメですか?」

子犬のような目で、慧くんは私に訴えかけてきた。
この目はズルい。この目で見つめられてしまうと、逆らえなくなってしまう。

「…い、いいよ」

気がついたら、口が勝手に動いていた。
承諾してからもう取り消せないことに気がつき、心の中で一人慌てふためく。

「やった。めちゃくちゃ楽しみです」

一緒にお風呂に入るだけなのに、こんなに喜ばれてしまうと、恥ずかしさが込み上げてくる。
世の恋人達は、この時間をどう過ごしているのだろうか。回数を重ねていけば、慣れるものなのだろうか。私は一向に慣れる気がしない。
お風呂自体はまだ一緒に入ったことがない。温泉以外で誰かと一緒に入ることなんて、大人になってからはない。
子供の頃は親と一緒に入ったりしていた。それも小学生ぐらいまでだが…。
それ以降は一人で入るのが当たり前になっていたので、誰かと一緒に入るだけで緊張してしまう…。
高校時代の親友との卒業旅行ももう十年以上前の話で。今の私なら同性のお友達でさえも一緒に入るのは恥ずかしい。
そんな私がまさか彼氏と一緒にお風呂に入る時がくるなんて思ってもみなかった。
恥ずかしさと想像力ばかりが膨らむ。どうやら自分でも気づかないうちに、そういったことを想像してしまうようになってしまったみたいだ。

「それじゃ早速、一緒に入りましょうか」

宿に着いて早々、いきなり一緒に入るの?
もう少し心の準備をする時間が欲しい。今はまだ早い…。

「…京香さん?」

私の返事がないことを不安に思ったのか、顔を覗き込まれた。
目が合った瞬間、もう逃げられないことを悟った。

「ごめん。ぼーっとしてた。でももう大丈夫」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...