1 / 57
1度:犬系には要注意
1話
しおりを挟む
来年で二十代ラスト。あっという間に歳だけを重ねてしまった…。
葉月 京香。二十八歳。独身。彼氏が人生で一度もいたことがない、可哀想な女だ。
でも、そんな可哀想な女も恋はする。その恋のお相手は年下で。イケメンで。社内で一番人気の男。
高望みだということは重々承知している。そんな彼を意識するようになったきっかけは、漢字違いの同じ苗字であるということだった。
私は葉っぱに月と書いて、葉月。彼は羽に月と書いて、羽月。
たったそれだけ?と思うかもしれないが、恋愛経験が乏しい私には、充分気になる理由となった。
でも、私なんかには手が届かない存在。想うだけ無駄だと知りながらも、気持ちが消えることはなかった。
*
想い続けるだけで月日は経過し、特に接点もなく。
もうどうにもならないし、そろそろ諦めようと思った矢先の出来事だった。
「えー。皆様に大事なお知らせがございます。我社にとても大きな仕事を任せてもらえることになりました。
今からその大きな仕事に向けて、新しいプロジェクトを立ち上げます。各部署から数人、選出してください。よろしくお願いします。それでは以上で、朝礼を終了とさせて頂きます」
社長は言いたいことだけ言って去った。
社内はザワついていた。各部署の課長が社員に詳細を説明し、どんな大きな仕事が舞い込んできたのか、知ることとなった。
社員の反応はバラバラで。面倒くさそうにしている人もいれば、興味がない人、やる気に満ち溢れている人もいた。
私は正直、迷っていた。仕事内容的にやりたい気持ちもあるが、羽月くんがこのプロジェクトに参加するかどうかも気になっていた。
もし、参加するのであれば、私も参加したい。彼の様子を窺いながら、立候補しようか迷っていたら、課長が先に口を開いた。
「うちの部署からは、“ダブルハヅキ”に参加してもらおうと思う」
思ってもみないチャンスが訪れた。即座に返事をした。
「畏まりました。代表して、プロジェクトに参加させて頂きたいと思います」
課長は私が快く引き受けてくれたことを喜んでいる。
あとは慧くんがどう思っているのかが気になる。
「僕でよければ、やらせてください。よろしくお願いします」
慧くんもプロジェクトに参加することを表明した。私の心は一気に舞い上がった。
「おう。そうか。それじゃ、よろしく頼むぞ」
新しいプロジェクトに参加できるドキドキと、気になる人と一緒にお仕事ができるドキドキに、私は浮かれていた。
*
次の日から新しいプロジェクトのチームに参加し、仕事を始めることになった。
急遽、新設されたこともあり、まだ色々とバタバタしている。
皆で協力し合いながら、なんとか落ち着くことができたのが昼過ぎ頃だった…。
「一旦、休憩にしましょうか」
プロジェクトのリーダーの声掛けにより、やっと昼休憩を迎えた。
お昼ご飯を買いに行こうと思い、歩き始めたら、呼び止められた。
「待ってください...!」
後ろを振り返ると、呼び止めた相手は羽月くんだった...。
「羽月くん。どうしたの?何かあった?」
「いえ。そういうわけではないんですが、その...」
言い淀んだ。何か言いづらいことなのだろうと身構えていたら、羽月くんがゆっくり口を開いた。
「一緒にお昼ご飯を食べませんか?」
想像していなかったことが起きた。まさか羽月くんにご飯に誘われるなんて、思ってもみなかったから。
嬉しかった。誘ってもらえたことが。私の答えは一つしかなかった。
「私でよければ、一緒に食べたいです。
なので、お昼一緒によろしくお願いします」
私の答えを聞いて安心したのか、嬉しそうな表情に変わった。
羽月くんの表情を見て、私の心は鷲掴みにされた。
「それじゃ早速、お昼ご飯を食べに行きましょう」
「うん。そうだね。行こっか」
こうして、ひょんなことから、二人でお昼ご飯を食べに行くことになった。
*
羽月くんがおすすめのお店に連れて来てもらった。
そのお店は外観も内装もお洒落で。あまりこういった場に慣れていなくて。ソワソワしてしまう...。
「葉月さんは食べる物、決まりましたか?」
メニューを全然見ていなかったため、まだ何を食べたいか決まっていない。
「ごめんなさい。まだ決まってなくて...」
「そうでしたか。急かすようなことを言ってしまい、ごめんなさい」
羽月くんは何も悪くない。こういったお洒落なお店が得意ではない、私が悪いのだから。
「大丈夫だよ。羽月くんがそこまで気にする必要はないから」
「そうですかね?そう言って下さり、ありがとうございます」
二人の間に気まずい空気が流れ始める。
どうにか空気を変えるため、話題作りをしようと画策する。
「羽月くん。こんなタイミングで言うのもあれだけど、もう食べたい物が決まりました」
「そうなんですね。それじゃ、注文しちゃいましょうか。すみません...」
羽月くんのような人気者は、どんな場面にもすぐに臨機応変に対応できるんだなと思った。
同時に住む世界が違うなということを、再確認させられた。
*
お昼ご飯を食べ終わった後、特に会話もせずに、会社に戻った。
もう二度とお昼に誘われることはないだろうなと思っていたが、次の日も羽月くんはお昼に誘ってくれた。羽月くんの気持ちが嬉しかった。
それから毎日一緒に食事をするようになって、距離が縮まった。
そんなある日、羽月くんから提案された。
「僕達、漢字は違いますけど、苗字が一緒なので、チームの人達が名前を呼ぶ時、どっちのことを指してるのか分かりづらいと思うんです。そこで提案なんですが、お互いに下の名前で呼び合うのはどうですか?」
確かに羽月くんの言う通りだ。業務を滞りなくこなすために、苗字が同じ私達は名前で呼び合う方がやりやすい。
「そうだね。それじゃお言葉に甘えて、慧くんって呼ばせてもらうね」
一瞬、慧くんの顔が赤くなった。慧くんのようなモテる男性でも、名前呼びされると照れるんだなと思った。
「分かりました。僕も京香さんって呼ばせてもらいますね」
男性に名前で呼ばれるのなんて、学生の頃以来なので、私まで顔が赤くなってしまった。
「うん。分かった。改めてよろしくね」
ただお互いの名前を呼んだだけなのに、気恥ずかしい空気が流れ始めていた。
上手く空気を変えられないまま、時間だけが過ぎていき、黙々と食事をし、会社に戻った。
距離が縮まっているはずなのに、なかなかあと一歩が踏み出せない。
ただの仕事仲間という関係なので仕方がないが、私が上手く会話を続けられないせいもある。
葉月 京香。二十八歳。独身。彼氏が人生で一度もいたことがない、可哀想な女だ。
でも、そんな可哀想な女も恋はする。その恋のお相手は年下で。イケメンで。社内で一番人気の男。
高望みだということは重々承知している。そんな彼を意識するようになったきっかけは、漢字違いの同じ苗字であるということだった。
私は葉っぱに月と書いて、葉月。彼は羽に月と書いて、羽月。
たったそれだけ?と思うかもしれないが、恋愛経験が乏しい私には、充分気になる理由となった。
でも、私なんかには手が届かない存在。想うだけ無駄だと知りながらも、気持ちが消えることはなかった。
*
想い続けるだけで月日は経過し、特に接点もなく。
もうどうにもならないし、そろそろ諦めようと思った矢先の出来事だった。
「えー。皆様に大事なお知らせがございます。我社にとても大きな仕事を任せてもらえることになりました。
今からその大きな仕事に向けて、新しいプロジェクトを立ち上げます。各部署から数人、選出してください。よろしくお願いします。それでは以上で、朝礼を終了とさせて頂きます」
社長は言いたいことだけ言って去った。
社内はザワついていた。各部署の課長が社員に詳細を説明し、どんな大きな仕事が舞い込んできたのか、知ることとなった。
社員の反応はバラバラで。面倒くさそうにしている人もいれば、興味がない人、やる気に満ち溢れている人もいた。
私は正直、迷っていた。仕事内容的にやりたい気持ちもあるが、羽月くんがこのプロジェクトに参加するかどうかも気になっていた。
もし、参加するのであれば、私も参加したい。彼の様子を窺いながら、立候補しようか迷っていたら、課長が先に口を開いた。
「うちの部署からは、“ダブルハヅキ”に参加してもらおうと思う」
思ってもみないチャンスが訪れた。即座に返事をした。
「畏まりました。代表して、プロジェクトに参加させて頂きたいと思います」
課長は私が快く引き受けてくれたことを喜んでいる。
あとは慧くんがどう思っているのかが気になる。
「僕でよければ、やらせてください。よろしくお願いします」
慧くんもプロジェクトに参加することを表明した。私の心は一気に舞い上がった。
「おう。そうか。それじゃ、よろしく頼むぞ」
新しいプロジェクトに参加できるドキドキと、気になる人と一緒にお仕事ができるドキドキに、私は浮かれていた。
*
次の日から新しいプロジェクトのチームに参加し、仕事を始めることになった。
急遽、新設されたこともあり、まだ色々とバタバタしている。
皆で協力し合いながら、なんとか落ち着くことができたのが昼過ぎ頃だった…。
「一旦、休憩にしましょうか」
プロジェクトのリーダーの声掛けにより、やっと昼休憩を迎えた。
お昼ご飯を買いに行こうと思い、歩き始めたら、呼び止められた。
「待ってください...!」
後ろを振り返ると、呼び止めた相手は羽月くんだった...。
「羽月くん。どうしたの?何かあった?」
「いえ。そういうわけではないんですが、その...」
言い淀んだ。何か言いづらいことなのだろうと身構えていたら、羽月くんがゆっくり口を開いた。
「一緒にお昼ご飯を食べませんか?」
想像していなかったことが起きた。まさか羽月くんにご飯に誘われるなんて、思ってもみなかったから。
嬉しかった。誘ってもらえたことが。私の答えは一つしかなかった。
「私でよければ、一緒に食べたいです。
なので、お昼一緒によろしくお願いします」
私の答えを聞いて安心したのか、嬉しそうな表情に変わった。
羽月くんの表情を見て、私の心は鷲掴みにされた。
「それじゃ早速、お昼ご飯を食べに行きましょう」
「うん。そうだね。行こっか」
こうして、ひょんなことから、二人でお昼ご飯を食べに行くことになった。
*
羽月くんがおすすめのお店に連れて来てもらった。
そのお店は外観も内装もお洒落で。あまりこういった場に慣れていなくて。ソワソワしてしまう...。
「葉月さんは食べる物、決まりましたか?」
メニューを全然見ていなかったため、まだ何を食べたいか決まっていない。
「ごめんなさい。まだ決まってなくて...」
「そうでしたか。急かすようなことを言ってしまい、ごめんなさい」
羽月くんは何も悪くない。こういったお洒落なお店が得意ではない、私が悪いのだから。
「大丈夫だよ。羽月くんがそこまで気にする必要はないから」
「そうですかね?そう言って下さり、ありがとうございます」
二人の間に気まずい空気が流れ始める。
どうにか空気を変えるため、話題作りをしようと画策する。
「羽月くん。こんなタイミングで言うのもあれだけど、もう食べたい物が決まりました」
「そうなんですね。それじゃ、注文しちゃいましょうか。すみません...」
羽月くんのような人気者は、どんな場面にもすぐに臨機応変に対応できるんだなと思った。
同時に住む世界が違うなということを、再確認させられた。
*
お昼ご飯を食べ終わった後、特に会話もせずに、会社に戻った。
もう二度とお昼に誘われることはないだろうなと思っていたが、次の日も羽月くんはお昼に誘ってくれた。羽月くんの気持ちが嬉しかった。
それから毎日一緒に食事をするようになって、距離が縮まった。
そんなある日、羽月くんから提案された。
「僕達、漢字は違いますけど、苗字が一緒なので、チームの人達が名前を呼ぶ時、どっちのことを指してるのか分かりづらいと思うんです。そこで提案なんですが、お互いに下の名前で呼び合うのはどうですか?」
確かに羽月くんの言う通りだ。業務を滞りなくこなすために、苗字が同じ私達は名前で呼び合う方がやりやすい。
「そうだね。それじゃお言葉に甘えて、慧くんって呼ばせてもらうね」
一瞬、慧くんの顔が赤くなった。慧くんのようなモテる男性でも、名前呼びされると照れるんだなと思った。
「分かりました。僕も京香さんって呼ばせてもらいますね」
男性に名前で呼ばれるのなんて、学生の頃以来なので、私まで顔が赤くなってしまった。
「うん。分かった。改めてよろしくね」
ただお互いの名前を呼んだだけなのに、気恥ずかしい空気が流れ始めていた。
上手く空気を変えられないまま、時間だけが過ぎていき、黙々と食事をし、会社に戻った。
距離が縮まっているはずなのに、なかなかあと一歩が踏み出せない。
ただの仕事仲間という関係なので仕方がないが、私が上手く会話を続けられないせいもある。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる