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魔法教師、宮廷を出る
51話
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ホラーク侯爵家の領地は紅大国の端の方にあり、街並みはヨーロッパの田舎町と似た風景で“鉱山の街”と言われている。
お嬢様が帰ろうとしてる家は紅大国の王都の貴族街の方のお屋敷らしいから、ここは寄り道だ。
此処は少し前までは人と物流に栄え、ほどほどに賑やかだったと聞いていたが今は活気が無く出歩いている人は数少ない。
街の収益の要と言っても良い魔宝石が取れなくなったのだから致し方ないだろう。
キラービー…漢字にするなら殺蜂と呼ばれるその蜂は蜜蜂だ。大きさは手のひら程で、繁殖力が高く、そして巣をつくれば短期間で広範囲に広がっていく。殺蜂の女王蜂、殺女王蜂を殺さない限りそこに根城を貼り続ける。
普通のキラービーのランクは一番低くてE。殺女王蜂のランクはB。個体によってはAと割と強い。
数は三ヶ月は放置状態であるなら…恐らく二千匹以上は予想して良い。確認されていなくてもキラービーの上位種も何種類か生まれてると思う…。
聞くところによると、キラービーは街にも現れてきているらしい。山に育つ花の蜜は全て集めてしまったのか…相当の数がいるし、これからの寒波に備えているのだろう。
「冬が明けたら、人を襲い始めるかも知れない」
キラービーの恐ろしさは、繁殖力と毒性などではなく冬を越した後の無差別に人を襲う攻撃性の高さ。
人の血は蜜の味とはよく言ったものだ。
どうにかしないと、やばそうだ。
薬を撒いても生き残る個体は数百はいると考えて…上位個体なら、薬自体効かない。
鉱山に傷をつける訳にはいかないから、一撃で全部仕留めてしまいたい。
「でもやっぱ、蜂蜜たんまり欲しいよね。蜜蝋も使えるだろうし…」
うーん、どうやって鉱山と蜂蜜に傷をつけずにキラービーを対処しようか?
「お前…」
「マユラ…」
いつもの如く呆れたような声には反応しない。
蜜蝋なんていう、私にとって利用価値の高いものを易々と不意にしてたまるか。立派なケア用品の材料なんだぞ蜜蝋は!
あー、でも商品化するならキラービーは残した方がいいよね?
「よっし、きーめた」
「何をしでかす気だ」
「ん?
内緒!」
早速ヴァルフゴールには“軽いお願い”を実行して貰おう。
筋書き通りに事が運べばチェックメイトだ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴァルフゴールだけ連れて、魔法で姿を消しながら鉱山付近へと向かった。
山道は険しく、魔物はうじゃうじゃ。ここまで沢山居るのは街の人たちが森を立ち入り禁止にした弊害かな?
持ってきていたお香のような独特な甘い匂いを放つそれをヴァルフゴールの全身に振りかける。
ぐわん、と近くにいた魔物の視線がこちらを向いた。
辺りの生き物が、自分に意識を向けたのを感じ取ったヴァルフゴールは、渇いた笑みを浮かべる。
「なぁ、これなんだ?…嫌な予感しかしねぇんだが」
流石、いつも通り勘がいい。まぁ、その勘の良さもコレを振りかけた後じゃもう遅いけど。
「コレはねぇ、“魔物寄せ”のお香!ここら一帯の魔物は甘い匂いに釣られてどんどん寄ってくるよ!」
それは勿論、キラービーも例外じゃ無い。
ちょっと効果を強めにしたから理性を無くしてヴァルフゴールを追いかけ回す事だろう。
ケラケラ笑いながら、頑張れーと手を振った。
「お前後でシメる!!!!」
爛々と目を血走らせる魔物が襲いかかるのを名残惜しくも眺めながら、その場を離れる。
さて、風で匂いを鉱山内に運んでしまおう。
一目散に逃げたヴァルフゴールの姿はもう近くになかった。…逃げ足の速い。
地道に討伐して、キラービーも駆除できて一石二鳥だね。報酬がっぽがっぽだ。
鉱山内の偵察隊のキラービーが数百匹程出ていったのを見届けて中へと入った。
漂うのは甘い甘い蜂蜜の香り。
パンケーキにかけて食べるの想像してペロリと舌なめずりし、臨戦態勢の蜂達を見る。
ブゥゥゥゥ
ヴヴヴヴヴ
ビーーーー
羽で音を立て威嚇する様はかなり面白い。
「お邪魔してまぁ~す」
一斉に数十匹が飛びかかってきたのを合図に、ニヤリと笑う。
事前に聞いていた鉱山の入り口を全て封鎖し、地面に手に持った赤い瓶を叩きつけた。
煙幕と共に上がったツンとした匂い…即効性の痺れの効果をもたらす駆除薬。数分後には死ぬ。
風で煙を奥まで運び、地面に転がる虫を見る。ピクピク痙攣し、飛び立つ様子はない。
ゆっくり歩き続けて、マップの示す目的の場所へと向かう。
女王蜂…さぁて、どんな姿かなぁ?
ヴヴヴヴヴ
爆音の様な羽音を立てる、キラービーとは少し異なる姿のやや大きくなった蜂を見る。
やっぱ効かないやつには効かないかぁ。
お嬢様が帰ろうとしてる家は紅大国の王都の貴族街の方のお屋敷らしいから、ここは寄り道だ。
此処は少し前までは人と物流に栄え、ほどほどに賑やかだったと聞いていたが今は活気が無く出歩いている人は数少ない。
街の収益の要と言っても良い魔宝石が取れなくなったのだから致し方ないだろう。
キラービー…漢字にするなら殺蜂と呼ばれるその蜂は蜜蜂だ。大きさは手のひら程で、繁殖力が高く、そして巣をつくれば短期間で広範囲に広がっていく。殺蜂の女王蜂、殺女王蜂を殺さない限りそこに根城を貼り続ける。
普通のキラービーのランクは一番低くてE。殺女王蜂のランクはB。個体によってはAと割と強い。
数は三ヶ月は放置状態であるなら…恐らく二千匹以上は予想して良い。確認されていなくてもキラービーの上位種も何種類か生まれてると思う…。
聞くところによると、キラービーは街にも現れてきているらしい。山に育つ花の蜜は全て集めてしまったのか…相当の数がいるし、これからの寒波に備えているのだろう。
「冬が明けたら、人を襲い始めるかも知れない」
キラービーの恐ろしさは、繁殖力と毒性などではなく冬を越した後の無差別に人を襲う攻撃性の高さ。
人の血は蜜の味とはよく言ったものだ。
どうにかしないと、やばそうだ。
薬を撒いても生き残る個体は数百はいると考えて…上位個体なら、薬自体効かない。
鉱山に傷をつける訳にはいかないから、一撃で全部仕留めてしまいたい。
「でもやっぱ、蜂蜜たんまり欲しいよね。蜜蝋も使えるだろうし…」
うーん、どうやって鉱山と蜂蜜に傷をつけずにキラービーを対処しようか?
「お前…」
「マユラ…」
いつもの如く呆れたような声には反応しない。
蜜蝋なんていう、私にとって利用価値の高いものを易々と不意にしてたまるか。立派なケア用品の材料なんだぞ蜜蝋は!
あー、でも商品化するならキラービーは残した方がいいよね?
「よっし、きーめた」
「何をしでかす気だ」
「ん?
内緒!」
早速ヴァルフゴールには“軽いお願い”を実行して貰おう。
筋書き通りに事が運べばチェックメイトだ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴァルフゴールだけ連れて、魔法で姿を消しながら鉱山付近へと向かった。
山道は険しく、魔物はうじゃうじゃ。ここまで沢山居るのは街の人たちが森を立ち入り禁止にした弊害かな?
持ってきていたお香のような独特な甘い匂いを放つそれをヴァルフゴールの全身に振りかける。
ぐわん、と近くにいた魔物の視線がこちらを向いた。
辺りの生き物が、自分に意識を向けたのを感じ取ったヴァルフゴールは、渇いた笑みを浮かべる。
「なぁ、これなんだ?…嫌な予感しかしねぇんだが」
流石、いつも通り勘がいい。まぁ、その勘の良さもコレを振りかけた後じゃもう遅いけど。
「コレはねぇ、“魔物寄せ”のお香!ここら一帯の魔物は甘い匂いに釣られてどんどん寄ってくるよ!」
それは勿論、キラービーも例外じゃ無い。
ちょっと効果を強めにしたから理性を無くしてヴァルフゴールを追いかけ回す事だろう。
ケラケラ笑いながら、頑張れーと手を振った。
「お前後でシメる!!!!」
爛々と目を血走らせる魔物が襲いかかるのを名残惜しくも眺めながら、その場を離れる。
さて、風で匂いを鉱山内に運んでしまおう。
一目散に逃げたヴァルフゴールの姿はもう近くになかった。…逃げ足の速い。
地道に討伐して、キラービーも駆除できて一石二鳥だね。報酬がっぽがっぽだ。
鉱山内の偵察隊のキラービーが数百匹程出ていったのを見届けて中へと入った。
漂うのは甘い甘い蜂蜜の香り。
パンケーキにかけて食べるの想像してペロリと舌なめずりし、臨戦態勢の蜂達を見る。
ブゥゥゥゥ
ヴヴヴヴヴ
ビーーーー
羽で音を立て威嚇する様はかなり面白い。
「お邪魔してまぁ~す」
一斉に数十匹が飛びかかってきたのを合図に、ニヤリと笑う。
事前に聞いていた鉱山の入り口を全て封鎖し、地面に手に持った赤い瓶を叩きつけた。
煙幕と共に上がったツンとした匂い…即効性の痺れの効果をもたらす駆除薬。数分後には死ぬ。
風で煙を奥まで運び、地面に転がる虫を見る。ピクピク痙攣し、飛び立つ様子はない。
ゆっくり歩き続けて、マップの示す目的の場所へと向かう。
女王蜂…さぁて、どんな姿かなぁ?
ヴヴヴヴヴ
爆音の様な羽音を立てる、キラービーとは少し異なる姿のやや大きくなった蜂を見る。
やっぱ効かないやつには効かないかぁ。
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