上 下
55 / 60
魔法教師、宮廷を出る

51話

しおりを挟む
ホラーク侯爵家の領地は紅大国の端の方にあり、街並みはヨーロッパの田舎町と似た風景で“鉱山の街”と言われている。
お嬢様が帰ろうとしてる家は紅大国の王都の貴族街の方のお屋敷らしいから、ここは寄り道だ。

此処は少し前までは人と物流に栄え、ほどほどに賑やかだったと聞いていたが今は活気が無く出歩いている人は数少ない。

街の収益の要と言っても良い魔宝石が取れなくなったのだから致し方ないだろう。

キラービー…漢字にするなら殺蜂キラービーと呼ばれるその蜂は蜜蜂だ。大きさは手のひら程で、繁殖力が高く、そして巣をつくれば短期間で広範囲に広がっていく。殺蜂キラービーの女王蜂、殺女王蜂クイーンキラービーを殺さない限りそこに根城を貼り続ける。
普通のキラービーのランクは一番低くてE。殺女王蜂クイーンキラービーのランクはB。個体によってはAと割と強い。
数は三ヶ月は放置状態であるなら…恐らく二千匹以上は予想して良い。確認されていなくてもキラービーの上位種も何種類か生まれてると思う…。

聞くところによると、キラービーは街にも現れてきているらしい。山に育つ花の蜜は全て集めてしまったのか…相当の数がいるし、これからの寒波に備えているのだろう。

「冬が明けたら、人を襲い始めるかも知れない」

キラービーの恐ろしさは、繁殖力と毒性などではなく冬を越した後の無差別に人を襲う攻撃性の高さ。
人の血は蜜の味とはよく言ったものだ。

どうにかしないと、やばそうだ。

薬を撒いても生き残る個体は数百はいると考えて…上位個体なら、薬自体効かない。

鉱山に傷をつける訳にはいかないから、一撃で全部仕留めてしまいたい。

「でもやっぱ、蜂蜜たんまり欲しいよね。蜜蝋も使えるだろうし…」

うーん、どうやって鉱山と蜂蜜に傷をつけずにキラービーを対処しようか?

「お前…」
「マユラ…」

いつもの如く呆れたような声には反応しない。
蜜蝋なんていう、私にとって利用価値の高いものを易々と不意にしてたまるか。立派なケア用品の材料なんだぞ蜜蝋は!

あー、でも商品化するならキラービーは残した方がいいよね?

「よっし、きーめた」
「何をしでかす気だ」
「ん?

内緒!」

早速ヴァルフゴールには“軽いお願い”を実行して貰おう。

筋書き通りに事が運べばチェックメイトだ!


 ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


ヴァルフゴールだけ連れて、魔法で姿を消しながら鉱山付近へと向かった。
山道は険しく、魔物はうじゃうじゃ。ここまで沢山居るのは街の人たちが森を立ち入り禁止にした弊害かな?

持ってきていたお香のような独特な甘い匂いを放つそれをヴァルフゴールの全身に振りかける。

ぐわん、と近くにいた魔物の視線がこちらを向いた。
辺りの生き物が、自分に意識を向けたのを感じ取ったヴァルフゴールは、渇いた笑みを浮かべる。

「なぁ、これなんだ?…嫌な予感しかしねぇんだが」

流石、いつも通り勘がいい。まぁ、その勘の良さもを振りかけた後じゃもう遅いけど。

「コレはねぇ、“魔物寄せ”のお香!ここら一帯の魔物は甘い匂いに釣られてどんどん寄ってくるよ!」

それは勿論、キラービーも例外じゃ無い。

ちょっと効果を強めにしたから理性を無くしてヴァルフゴールを追いかけ回す事だろう。
ケラケラ笑いながら、頑張れーと手を振った。

「お前後でシメる!!!!」

爛々と目を血走らせる魔物が襲いかかるのを名残惜しくも眺めながら、その場を離れる。

さて、風で匂いを鉱山内に運んでしまおう。

一目散に逃げたヴァルフゴールの姿はもう近くになかった。…逃げ足の速い。

地道に討伐して、キラービーも駆除できて一石二鳥だね。報酬がっぽがっぽだ。

鉱山内の偵察隊のキラービーが数百匹程出ていったのを見届けて中へと入った。
漂うのは甘い甘い蜂蜜の香り。

パンケーキにかけて食べるの想像してペロリと舌なめずりし、臨戦態勢の蜂達を見る。

ブゥゥゥゥ
ヴヴヴヴヴ
ビーーーー

羽で音を立て威嚇する様はかなり面白い。

「お邪魔してまぁ~す」

一斉に数十匹が飛びかかってきたのを合図に、ニヤリと笑う。

事前に聞いていた鉱山の入り口を全て封鎖し、地面に手に持った赤い瓶を叩きつけた。
煙幕と共に上がったツンとした匂い…即効性の痺れの効果をもたらす駆除薬。数分後には死ぬ。

風で煙を奥まで運び、地面に転がる虫を見る。ピクピク痙攣し、飛び立つ様子はない。

ゆっくり歩き続けて、マップの示す目的の場所へと向かう。


女王蜂…さぁて、どんな姿かなぁ?

ヴヴヴヴヴ

爆音の様な羽音を立てる、キラービーとは少し異なる姿のやや大きくなった蜂を見る。

やっぱ効かないやつには効かないかぁ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

処理中です...