上 下
53 / 60
魔法教師、宮廷を出る

49話

しおりを挟む
「ヴァルフゴール良かったの?リアベルちゃんとアニエスくんも一緒じゃ無くて」

ガタガタと舗装されていない道を走る荷馬車から顔を乗り出し馬を操るヴォルフゴールを見上げる。

大公から貰った馬車はやっぱり旅に出るには目立つから新しい、頑丈な作りの荷馬車と交換して貰った。

私の問いにヴァルフゴールは、良いんだよとこちらを見ずに答える。

「あいつらは長旅には向かねぇだろうし、それに…」
「それに?」
「……いや、お前の店で雇ってくれんだろ?」

そう、双子から働き手を探してるなら自分達を雇ってもらえないかと打診された。
そりゃ、従業員少ないから信用できる人を雇えるのは凄く助かるけど…漸く不安無く一緒に過ごせる家族と離れ離れで良いのかなぁ…?


「素直にマユラを独占したいって言えば良いのにー」
「ちげーよっ!寝床が狭くなるからだ!」
「まぁそう言う事にしとくねぇ」

おちょくる様にいうアンタレスに、ヴァルフゴールは手綱を引いているからアンタレスに仕返しできずグググと奥歯を噛み締める。物凄く嫌そう。

ふぅん?
うちのわんちゃんは大事なご主人様を誰かに取られたく無いのねぇ?

「可愛いやつめー」
「こらっ、やめっ!?」

めいっぱい手を伸ばしウリウリと髪をガシガシ撫でる。

ヒヒィィン!

馬が走りながらも声を上げて「ちゃんと走らせろ」と抗議した。

「ごめん馬ー」
「…名前つけてやれよ」
「え?…じゃあ黒と栗」
「安直だな」
「分かりやすくて良いじゃん」
「僕も見分けがつけやすくていいと思う」

「まぁ、お前等が良いなら良いけどよ…」

はぁと諦めて手綱を握り直した。

「黒ー栗ー、今日のおやつはかぼちゃだよー」

ヒィィィン!

「おっ、速くなった」

馬ってやっぱ賢いね。
よしよし、ついでに人参スティックもプラスしておこ。


次訪れる国は、赤獅子の国…紅大国オールリオン。
赤なのに金とはこれ如何に?

…と、その前に、ちょっと寄り道______



「____いらっしゃいませマユラさまっ!」

出迎え早々、ぎゅっと抱きついてきた赤。
同い年であれど、15cmほど身長差がある彼女に何の予告も無く突然抱きつかれては後ろに倒れる。

ヴァルフゴールがすかさず倒れない様に支えてくれたがなおもしぎゅうぎゅうと締め付…いや、抱きつく力は緩まない。
この子、こんな子だったか?と疑問に思うばかりだ。

「そうそう、帝都で話題のお菓子を用意しましたの。ティータイムでいただきましょう?」
「わぁ、ありがとう」
「御二方もご一緒に如何ですか?マユラさまからお二人のお話は聞いてますわ」

「わっ!内緒って言ったのに!」

「内容は言ってないわ」と笑ってるけど、それで許されると思ってる?
その薔薇の花が咲く様な笑顔全部許しちゃう大正解!

あー、私の手塩に育てた子パート2は悪戯っ子だなぁ。

取り敢えずよしよししとこう。
キューティクルツルツルツヤツヤふわふわの三拍子揃った女の子ならでわでずっと触っていたい。

あー、この子飼いたい。

「ご令嬢、マユラは僕らのどんな事話してたの?」

あぁもうアンタレスが食いついた。
この子意地でも聞き出す気満々だよ…

「主に自慢話ですわ。内緒って2回も言われてしまいましたので、どんな話かは言えませんが転」

エリカお嬢様も焦らすのがお上手。
「知りたい?知りたいですか??」って、Sっ気帯びて聞いて、アンタレスも「教えてくれないの?」と少々お黒い微笑み。

…混ぜるな危険。

そっとヴァルフゴールと一緒にその場を離れた。


 ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「帝都で話題のお菓子ってこれかぁ」

上流階級にしか流行らないって聞いた理由がようやく分かった。
卵と牛乳と砂糖をふんだんに使って作ったプリンもどきと、砂糖と水を加えて飴色になるまでクツクツしたのを固めたそれ…宮廷のコックさんに作り方伝授したのを誰かが聞いてたのかな?

ラノベのテンプレ、プリンを流通させちゃったよ。いやプリンはバニラエッセンスあってこそなんだよ。バニラエッセンス無しのこれは流行らせるものじゃ無いんよ。

どうしよう今すぐ時間巻き戻したい。
意図せずのこの現象に終止符を打ちたい。

…取り敢えず頭でも抱えておこう。心の平穏のために


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

処理中です...