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魔法教師、トラブルを呼ぶ
41話
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「マユラっ!!」
施錠された会場の入り口を蹴り破って入ってきたのだろうヴァルフゴール。髪が乱れていて、少々汗もかいてる。
倒れてる人たちの中に立ちつくす私に一目散に駆け寄った。
「何があった!?大丈夫か!?」
「んー?侵入者。もう大丈夫、皆もじきに目を覚ますし」
「俺はお前が大丈夫か聞いてるんだ!」
「!…平気。私が強い事知ってるでしょ?怪我一つないし、犯人もちゃんと捕まえてる」
だから大丈夫。
心配をかけてしまったみたいだ。
焦った表情を見て、居た堪れなくて手を伸ばせばまるで犬みたいに顔を寄せられる。
「怒ってるの?」
「怒ってない」
「よく気付いたね」
「嫌な気配がした」
覚醒した竜人の察知能力は改めて思い知らされる精度だ。
「ねぇヴァルフゴール」
「ん、」
「どうして私を避けてるの?」
「っ!………」
目を見開いて、気まずそうに赤茶色の目を逸らされる。
指先が冷たくなる感覚がして、触れているのに頬の温もりが遠くなる。
「どうして…?」
嫌いになった?
思わず、ポツリと呟けば
「それは違う!」
必死な声で返される。
ならどうして、どうして近くに居ないの?どうして、何も言ってくれないの?
失望した?
いまだに目が覚めないあの子達。
私にできる事がないから、助けるって言って助けられて無いから?
私が隠し事してるから?
「ヴァルフゴール、私の側に居たくない?」
「死んでも離れない」
迷いなく告げられる言葉に、思わず涙が出そうになる。
あの時の私にそんな言葉、誰もかけてくれなかった。
…ああ、駄目だ。
可笑しいな、全然悪夢効いてるじゃん。
「…俺は、お前の側に居てぇから、お前に相応しい何かが欲しいんだ」
「それは、私があげるものじゃ駄目なの?」
「俺自身の力で、俺がお前の隣に立つ」
なんて真っ直ぐな言葉だろう。
嘘をつくのが若干苦手なヴァルフゴール。だから、この言葉はきっと本当。
溢れかけていた涙を拭い、にっこりといつもの様に笑みを浮かべる。
「じゃあ待ってる」
「あぁ頼む。そんなに待たせねー様にするから」
「ゆっくりで良いんだよ?」
「抜かせ」
不安はもうない。
「変な事聞いた。…もう言わない」
「そうしてくれ」
「ヴァルフゴールは戻ってて。此処にいたら目を覚ました貴族達に何か言われるかもしれない」
「……分かった」
良い子。
最後に頬をするりと撫でて、少し髭が伸びてるなとか考える。
…このじょりじょりも中々。
「お前変な事考えてるだろ」
「気のせいだよ」
時々思うんだけど、私の従者はエスパーか何かかも知れない_____。
「____よし、取り敢えず起こしてあげよう」
どうせ起こさなくてももうすぐ起きるけど、こう言うのは魔法道具によって眠らされた貴族をいち平民の魔法使いが助けたって言う印象を持たれる方がいいよね。
放っておこうと思っていた先程の自分とは思えない手のひら返しである。
「“魔法効果無効”」
ヴァルフゴールが付近にいない事を確認して魔法を発動する。範囲は、会場全域。
社交界場を覆いつくす大きな魔法陣を展開すれば、人々は個体差はあれどすぐに目が醒める。
「ん、んぅ」
一番最初に起きたのはセリくんだ。
ペンダントである程度魔法を打ち消してたから、覚醒まですぐだったね。
「お、おねぇちゃん」
うるり…と、目に涙を溜めて此方に近寄って抱きつく様子が、とても可哀想に思えて、思わず人目のある場にも関わらず抱きしめ返してしまった。
「こわかった」
「怖かったね、大丈夫。もう怖くないよ」
セットした髪型を崩さないように優しく撫でて宥める。
次から次に目を覚ましていくのを見ながら、ぼうっとした顔の陛下の目の前で手をひらひらさせる。
この人常に多忙だし、深夜の2時くらいまで仕事を続けて朝の7時前くらいに起きるし、日々公務に追われてる様な人だからこんな短時間の睡眠じゃ目が覚めても覚醒しないか。
「陛下」
声を掛ければはっと我に返ったように此方を見る。
「マユラ…殿。ああ、其方のお陰か。余は酷い悪夢を見ていた様だ」
「それは、こちらの魔法道具の効果によるものです。発動を停止させていますので、余力はまだ残っております。存分にお調べ下さい。
それと、此方が転移の座標になる魔法道具です。押収してください。
この度の主犯を捉えております。のちに受け渡ししますね。
体に不調はございませんか?」
「無い、礼を言う。其方には恩ばかり作ってしまうな」
「気にしないで下さい」
何処か申し訳なさそうな困った顔に、私は何か答えられる訳でもないから同じ様に笑うしか無い。
陛下に異常が無いのを確認してから、セリくんを抱き上げすっと立ち上がり周りを見渡す。
「会場の皆様も、体に異常がございましたら私めにお申しつけ下さい。微力ながら治癒の魔法が使えます」
貴族の方達、年若いご令嬢や年配の方がおぼつかない足取りで立ち上がり此方へと向かう。
「どの様な不調ですか?」
「大丈夫です、あれは全て悪い夢です」
「お加減は如何ですか?」
「顔色が悪いですね。気休めですがハーブティーをお渡しさせて頂きます」
「私は魔法薬師も兼任していますので、効果は保証します」
できるだけ優しく穏やかに声をかけ続ける。
労わるとか、そう言う役割は得意だ。
まぁ、私の名前が知れ渡れば良いなって言う打算もあるけど。
「今夜はゆっくり眠られますように」
にっこりとご夫人の手を握り、ハーブティーを手渡す。
_____この行動が後に、あんな面倒事に繋がるなんて、この時は思いもしなかった。
施錠された会場の入り口を蹴り破って入ってきたのだろうヴァルフゴール。髪が乱れていて、少々汗もかいてる。
倒れてる人たちの中に立ちつくす私に一目散に駆け寄った。
「何があった!?大丈夫か!?」
「んー?侵入者。もう大丈夫、皆もじきに目を覚ますし」
「俺はお前が大丈夫か聞いてるんだ!」
「!…平気。私が強い事知ってるでしょ?怪我一つないし、犯人もちゃんと捕まえてる」
だから大丈夫。
心配をかけてしまったみたいだ。
焦った表情を見て、居た堪れなくて手を伸ばせばまるで犬みたいに顔を寄せられる。
「怒ってるの?」
「怒ってない」
「よく気付いたね」
「嫌な気配がした」
覚醒した竜人の察知能力は改めて思い知らされる精度だ。
「ねぇヴァルフゴール」
「ん、」
「どうして私を避けてるの?」
「っ!………」
目を見開いて、気まずそうに赤茶色の目を逸らされる。
指先が冷たくなる感覚がして、触れているのに頬の温もりが遠くなる。
「どうして…?」
嫌いになった?
思わず、ポツリと呟けば
「それは違う!」
必死な声で返される。
ならどうして、どうして近くに居ないの?どうして、何も言ってくれないの?
失望した?
いまだに目が覚めないあの子達。
私にできる事がないから、助けるって言って助けられて無いから?
私が隠し事してるから?
「ヴァルフゴール、私の側に居たくない?」
「死んでも離れない」
迷いなく告げられる言葉に、思わず涙が出そうになる。
あの時の私にそんな言葉、誰もかけてくれなかった。
…ああ、駄目だ。
可笑しいな、全然悪夢効いてるじゃん。
「…俺は、お前の側に居てぇから、お前に相応しい何かが欲しいんだ」
「それは、私があげるものじゃ駄目なの?」
「俺自身の力で、俺がお前の隣に立つ」
なんて真っ直ぐな言葉だろう。
嘘をつくのが若干苦手なヴァルフゴール。だから、この言葉はきっと本当。
溢れかけていた涙を拭い、にっこりといつもの様に笑みを浮かべる。
「じゃあ待ってる」
「あぁ頼む。そんなに待たせねー様にするから」
「ゆっくりで良いんだよ?」
「抜かせ」
不安はもうない。
「変な事聞いた。…もう言わない」
「そうしてくれ」
「ヴァルフゴールは戻ってて。此処にいたら目を覚ました貴族達に何か言われるかもしれない」
「……分かった」
良い子。
最後に頬をするりと撫でて、少し髭が伸びてるなとか考える。
…このじょりじょりも中々。
「お前変な事考えてるだろ」
「気のせいだよ」
時々思うんだけど、私の従者はエスパーか何かかも知れない_____。
「____よし、取り敢えず起こしてあげよう」
どうせ起こさなくてももうすぐ起きるけど、こう言うのは魔法道具によって眠らされた貴族をいち平民の魔法使いが助けたって言う印象を持たれる方がいいよね。
放っておこうと思っていた先程の自分とは思えない手のひら返しである。
「“魔法効果無効”」
ヴァルフゴールが付近にいない事を確認して魔法を発動する。範囲は、会場全域。
社交界場を覆いつくす大きな魔法陣を展開すれば、人々は個体差はあれどすぐに目が醒める。
「ん、んぅ」
一番最初に起きたのはセリくんだ。
ペンダントである程度魔法を打ち消してたから、覚醒まですぐだったね。
「お、おねぇちゃん」
うるり…と、目に涙を溜めて此方に近寄って抱きつく様子が、とても可哀想に思えて、思わず人目のある場にも関わらず抱きしめ返してしまった。
「こわかった」
「怖かったね、大丈夫。もう怖くないよ」
セットした髪型を崩さないように優しく撫でて宥める。
次から次に目を覚ましていくのを見ながら、ぼうっとした顔の陛下の目の前で手をひらひらさせる。
この人常に多忙だし、深夜の2時くらいまで仕事を続けて朝の7時前くらいに起きるし、日々公務に追われてる様な人だからこんな短時間の睡眠じゃ目が覚めても覚醒しないか。
「陛下」
声を掛ければはっと我に返ったように此方を見る。
「マユラ…殿。ああ、其方のお陰か。余は酷い悪夢を見ていた様だ」
「それは、こちらの魔法道具の効果によるものです。発動を停止させていますので、余力はまだ残っております。存分にお調べ下さい。
それと、此方が転移の座標になる魔法道具です。押収してください。
この度の主犯を捉えております。のちに受け渡ししますね。
体に不調はございませんか?」
「無い、礼を言う。其方には恩ばかり作ってしまうな」
「気にしないで下さい」
何処か申し訳なさそうな困った顔に、私は何か答えられる訳でもないから同じ様に笑うしか無い。
陛下に異常が無いのを確認してから、セリくんを抱き上げすっと立ち上がり周りを見渡す。
「会場の皆様も、体に異常がございましたら私めにお申しつけ下さい。微力ながら治癒の魔法が使えます」
貴族の方達、年若いご令嬢や年配の方がおぼつかない足取りで立ち上がり此方へと向かう。
「どの様な不調ですか?」
「大丈夫です、あれは全て悪い夢です」
「お加減は如何ですか?」
「顔色が悪いですね。気休めですがハーブティーをお渡しさせて頂きます」
「私は魔法薬師も兼任していますので、効果は保証します」
できるだけ優しく穏やかに声をかけ続ける。
労わるとか、そう言う役割は得意だ。
まぁ、私の名前が知れ渡れば良いなって言う打算もあるけど。
「今夜はゆっくり眠られますように」
にっこりとご夫人の手を握り、ハーブティーを手渡す。
_____この行動が後に、あんな面倒事に繋がるなんて、この時は思いもしなかった。
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