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転生美少女、先生をしようと思う

36話

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ピクリ…周りを飛び回る精霊が、何かを感知した様にその場に留まり、じっと遠くを見つめた。

「どうしたの?」

“…なんでもないの”
“気のせいなの”
“まゆらはきにしなくてもいいこと”

少し頭のいい精霊達は、何でもないと言い残して、くるりと回って消える。

“あ、まってよー”
“ぼくもいく”

あとをついていく様に、他の精霊も消えた。


「えー、行っちゃった」

つまんないの。
広いベッドの上で膝を立て頬杖をついた。

「ヒマだぁ」

サイドテーブルに手を伸ばして、果実水のストローに口をつける。
口の中に柑橘系の酸味と甘味をひろげて、こくりと喉を鳴らす。

確実に何かあったな…これは。

しかしそれを知る術は確かにあっても、彼等に私の気にする事じゃないと言われて仕舞えばどうする事もできない。

「あーあ」

また一口、拗ねた様にこくりと飲み込んだ_____。



「______それじゃあ行ってくるねぇ」

馬に跨り、手を振りながら振り返るアンタレスを見えなくなるまで見送った。

大公閣下から買った土地の視察…いや、研修のが近いかな?研修の為暫く離れる事になったアンタレスを私と、他二人が見送った。
言わずもがな、ヴァルフゴールとセリくんだ。

私が土地まで送る転移すると言ったが、馬で走って行くから大丈夫と言って聞かなかった。

土地まで此処から結構な距離だ。馬で走っても3日は掛かるのに…と思いながらも、馬に跨って行ってしまったアンタレスにもう何か言っても遅いのだけれど。

「じゃあ俺も訓練に戻るわ」

薄情なヴァルフゴール。自由な奴め。さっさと見送って、さっさと大きな大剣担いで騎士団の訓練場に行ってしまった今その場に残ってるのは私とセリくんのみ。

仕方ないなぁ。

ため息を吐いて、セリくんの手を握る。

「私達も行こっか」
「うん!」

セリくんは今日も忙しい。
皇太子としての勉強はそれなりに過酷だ。今の今まで隠された王子だったセリくんには、民衆に、貴族達に認められる為の力を身に付けなければいけない。

勿論それは彼に限った話では無いけれど…。

私の立ち位置的には、セリくんの魔法教師であり、魔法の師でもある。そして、恩人であり、身元の不確かな“何者か”でもある。

使用人やメイドさん達からどれだけ好かれようが、あの蛇伯爵に魔法の能力値を見せつけようが、他にも皇族に仕える人間にとっては認められない人間だ。

「そりゃまぁぽっと出の異物な人間に警戒心抱くのは当たり前だし仕方ないけど」
「ん?何か言った?」

ぼそっと呟いた言葉は幸いセリくんの耳には届かなかったらしい。

にっこりと笑みを浮かべ、「何でも無いよ」と返す。

……明日は、セリくんのデビュタント。

それが勝負の時。

「今日はちょっと特別な魔法、教えてあげる」

わぁ!と声を上げる幼い子の笑顔を眺めて、決意を固める。


この私が、“認めれただけの人間”に留まると思うなよ。

「鬼ごっこは、もうおしまい」

私の存在を、大陸中に知らしめてやる。


 ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


どの世界でもコルセットは共通して締め付けるものらしい。
腹を締められながら、えずきそうになるのを堪えてドレスを着せられる。

私の色を意識したらしい、水色を基調としたキラキラと光に当たって反射するレースが重ねられたふんわりとした膝下丈のドレス。足の肌が見えるのははしたない風習があるから、勿論レースの白のソックスを履いてる。
ドレスの上から、ドレスと同色の水色に金のラインの入ったローブはドレスとよく合う透けたレースが重なっており何処か神秘的だ。

ほぅと姿見に映る私を見て、息を吐いたのは誰だろう?

「これはっ…‼︎」
「まるで異国の姫様の様です」
「お美しいです、マユラ様」

着替えを手伝ってくれたメイドさん達が、両手をギュッと握りしめて頬を赤く染め鏡に映る私を見つめる。

「美しいな」

一緒に見ていたリノンさんは、感心した様に呟いた。

流石に、こんなに褒められてしまっては照れる。
慣れない装いながらも、貴族令嬢の様に足が隠れるほど長いドレスにはしなかったおかげで転びそうになる心配はない。
むしろ、こっちの方が社交界では目立つだろう。

「ありがとうございます…」

こそばゆくて、頬を掻きながらへらりと笑う。

「本当は私が同伴したかったのだが…私も騎士団長として、陛下の護衛として出席しなければいけなくてな」
「大丈夫ですよ。どうやらノイモン先生が同伴者を手配して下さった見たいで」
「それが心配なんだ。あいつ、何処のどいつをマユラのパートナーに選んだんだ…?」

ノイモン先生はリノンさんにも私の同伴者を教えていないらしい。
私もまだ誰なのか聞いていない。
私の同伴者なんだけど?何で直前まで教えてくれないの?

時々あの人は何考えてるか分からなくて困る。きっと面白がってるに違いない。あの腹黒眼鏡は性格が悪いってのが、私とリノンさんの認識だもん。

「気に入らない様なら言ってくれ。私が相手を見繕う」
「ありがとうございます。もしもの時はお願いしますね」

女同士の約束事が交わされた。

もしノイモン先生が変な人をパートナーに選んでいたら、きっとリノンさん手が出るだろうなぁと他人事の様に考える。

…そうならない事を祈ろう。うん。




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